第68話 蒼海の機構世界4

 機械兵から聞こえてくる言葉。

 前回も何か言っていたようなのだが、良く聞こえていなかった。

 しかし今回ははっきりと耳に届く。

 意味が分からない部分もあるが、プロテクションとはなんだろうか。

 単純に考えると保護とか防衛とか守ることを意味する。

 もしかしてバリアが無効化されたのはこれのせいなのか?


 十分に距離がある状態からバリアによる分断を試みる。

 だが、やはり効果はない。

 物体に対して圧倒的優位に立つことが出来る攻撃なのにそれが効かないのだ。

 いったいどんな原理で効かなくなっているのだろう。

 少なくとも俺の知識の中では不可能に近い。

 世界の法則を変えるとか、そういうレベルでおかしいのだ。


 鉄球を手から離すと地面に落下するように、鳥が空を飛ぶように、ごく自然で絶対的な法則を捻じ曲げている。

 異世界だからなんでもアリってことなのだろうか。

 自分でも知らないことはまだまだあるのだなと思い知らされる。


 恐らくエーテルカッティングとは俺のバリアのことを意味している。

 これは第一層の機械兵を倒した時に使った魔法だ。

 ミスリルスラッシングとはミスリルの剣による斬撃のことだろう。

 追加でセイント、アイス アトリビュート。

 聖属性、氷属性攻撃への耐性? といったところか。


 聖属性はロイスが放った剣技によるものと考えて間違いない。

 氷属性は俺が魔法で放った氷の槍によるもの。


 つまりあいつはダメージになるような攻撃を受けると、その攻撃に対して完全耐性を会得するという可能性がある。

 常識で考えてはいけないと思うのだが、常識的に考えておかしい。

 もし次の階層も同じ機械兵が出現するとしたらさらに攻撃が制限されることになる。

 そうなるといくら屈強な戦士でも完全に積んでしまう。


 なんでも斬ることが出来る大剣豪でも、その斬撃で斬れなければ恐れることはない。

 とてつもない魔力を秘めた炎の魔術師でもその炎を封じてしまえば怖くない。

 遥か遠方から絶大な威力を誇る狙撃が行えるスナイパーでもそれが効かなければ意味はない。


 まるでご都合主義の詰め合わせ。

 その攻撃さっき受けたのでもう効きません!

 いやいやなんの冗談なんだよ、と言いたくなる。


 機械兵の手のひらの空間が湾曲し、剣が現れる。

 ボディの色と同じく金色のシンプルな刀身をした剣だった。


「実剣なら作戦はさっきと同じでいいのだな?」

「気を付けろよ、ミスリルの剣が効かなくなっているかもしれない」

「……どうしてそんなことがわかるのだ?」

「さっきあいつが言ってただろ?」

「いや私にはなんと言っているのかわからなかったが」


 あれ?

 ロイスには聞こえていなかったのか?

 まぁ今はそんなことどうでもいい、あいつを倒さなければならないことに変わりはない。


 もしかしたらハッタリだけでそんな御大層な能力なんてもってないのかもしれないしな。

 ミスリルの剣を構えるロイス。

 そして次の瞬間、機械兵の体がブレる。


「ロイスくるぞ!!」


 彼女と自分自身に補助魔法を重ね掛けする。

 物理行動を加速させるアクセラレイト。

 純粋なパワーを向上させるブルートフォース。

 思考能力を上昇させるブレインストーム。

 防御能力を高めるイージスオブヘブン。

 魔法攻撃力を強めるプライミーヴァルフォース。

 

「消えた!?」

「これは恐らく空間移動の類だ!」


 追加でハイテンティッド アウェイネスを発動。

 周囲の空間知覚能力を向上させる。

 ロイスの背後に瞬間移動した機械兵は剣を振るう。

 寸前で反応したロイスは剣撃を受け止めるが、巨体から放たれる衝撃は相当なもの。

 吹き飛ばされながらも、体勢整え両足で地面を掴み踏みとどまる。


「ぐっ! さっきとは動きが……!」


 すぐさま機械兵の体がブレ、姿を消す。

 刹那の間に吹き飛ばされたロイスの前方に出現し、再び金色の刀身を振り下ろす。

 さっきのレーザーも厄介だったが、このアクティブな動きはもっとつらい。


「アイスバレット!」


 振り下ろされる剣目掛けて氷弾を射出するが、当たった瞬間弾けて砕け散る。

 効いていない。

 縦に振り下ろされる剣を体の軸をずらして回避するロイス。

 やはり属性がついている魔法はダメだ。


 行動を遅らせるディレイを機械兵に、さらなる加速を生むエクスペデイトをロイスに付与。

 この二つの魔法を掛けることで格上の相手でも対応できるようになる。

 真一文字に横切る剣閃をロイスは受け止めはじき返す。

 機械兵がブレはじめ、姿を消そうとするが、ミスリルの剣が一歩速く追いついた。

 キィンっと金属音が響く。


「う、うそでしょ!」


 クリーンヒットしたにもかかわらずまったく効いていなかった。

 微動だに動くことなく、弾かれるミスリル剣。

 傷すらついていない。


「本機体に妨害工作を確認。 サーバーへのアクセス開始」

「な、なんだこいつ! なんて言ったのだ如月!」

「俺だって知らねぇよ!」


 サーバーってなんだよ!

 こいつを動かしてる本体みたいのがあるってことなのか?

 あーー考えてもわからない!


 そうこうしているうちに剣を打ち合うロイスと機械兵。

 バフとデバフによりパワーバランスが逆転し押しているように見える。

 だが、いくら攻撃で押していようとも、肝心のダメージが与えられないと意味がない。

 しかも空間移動による多方面からの攻撃。

 こちらにとってはかなりきつい。

 集中力が途切れたら一環の終わりだ。


「該当データ検索完了。 プロテクションアップデート。 プロテクション ディレイマジック 適用します」


 アップデート……??

 なんなんだよそれ!?

 そう思っていたのも束の間、機械兵の速度が元に戻る。

 ディレイの魔法が無効化された!?

 やはり魔法が無いと奴の方が一枚上手。

 なんとかつなぎとめているが、ロイスは回避するだけで精いっぱい。

 少しでも油断すると……。

 考えろ、あいつにダメージを与えるにはどうすればいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る