第67話 蒼海の機構世界3
水しぶきが立ち上り、波が荒れ狂う。
それらは鋭利な槍となり、刃となる。
間違いなく俺たちを狙った攻撃だ。
さらにはエーテルすらも侵食するおまけつき。
第一層から継続する空気中のエーテル濃度は相変わらず。
通常では考えられないほどの濃度になっている。
このダンジョンを作った人があえてそう設計したのかわからない。
えげつないことこの上ない。
その一言に尽きるだろう。
周囲は水で埋め尽くされ、魔法の原料たるエーテルを蝕む。
もし泳いでいたとしたらゼロ距離からの滅多刺しで軽く全滅。
そもそも人というのは水の中で自由に動ける存在ではないし、先ほどのウミヘビだけでも物理的に倒すのが困難だ。
本気で殺しにかかっているのは間違いないだろう。
あらゆる方面からの波状攻撃は回避することは不可能だった。
もし、そんなことが出来る人がいるのなら教えて欲しい。
「傷は大丈夫か!?」
「……あまりよくはなさそうだけど、さっきの回復魔法のおかげかなんとか……」
立っていられるというところだ。
ちょっと強がった言い方をしたが、はっきり言って滅茶苦茶痛い。
貫かれた箇所は1か所だけだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
焼けるようにズキズキとした感覚が全身から伝わってくる。
フラッと意識が遠のきかける。
貧血によるものだろう。
さらに計算外だったのは思っていたよりもエーテルへの侵食が早いことだ。
バリアを維持するために自らの保有しているエーテルを変換するしているのだが、ゴリゴリとエネルギーが減っていってるのがわかる。
もしこのバリアが途絶えたら一環の終わりだ。
周囲を取り囲む意志ある水は、体をズタズタに引き裂きさかれミンチにされることだろう。
いや、もしくはあのウミヘビのようにドロドロと溶解し消えてしまうかもしれない。
どっちにしろこの状況から生き残るにはバリアの維持が必要不可欠になる。
「ロイス、エーテルもらうぞ!」
「エ、エーテル?」
ロイスは少し不思議な顔色を見せた。
そうだった、ここではMPって言わないと。
「MPだ! MP!」
首根っこを掴み、足りない分を吸収しバリアへと変換する。
障壁の強度が上がり、安定する。
実際のところほぼ底を付きかけていた。
まずい、まずいぞ。
こんな調子で防御に徹しているとすぐにロイスのMPも尽きてしまう。
そうしたらゲームオーバーだ。
考えろ。
どうしたらこの場面を切り抜けられる?
倒すのは論外だ。
形のない膨大な量の液体を瞬時に消滅させることなど不可能だからだ。
地平線まで広がるこの広大な空間。
そこに敷き詰められている途方もない水量。
考えただけでぞっとする。
もしかしたらこの水を操っている何かがいるかもしれないが、この状況下では探して倒している余裕なんてない。
目と鼻の先に塔は見えている。
あそこまでたどり着けば俺たちの勝ちだ。
だから正面切って戦う必要はないし、倒す必要もない。
しかし、一気に突っ切ろうとしても、それよりもはやくエーテルが枯渇してしまうかもしれない。
氷の道が砕け散る。
それらは水へと還り、俺たちに牙を向ける。
バリアごと大海に飲み込まれ、ふわりと水中を漂う。
反重力魔法で海を抜ける。
続けて周囲の海水を吹き飛ばす。
多少効果は見込めたが、これも継続して使用しているとエーテルの消費量がものすごい。
侵食されて減るエーテル量とさほど差がなさそうだ。
うねる波は上下左右、四方八方から襲い掛かってくる。
どうにか少しだけ動きを止めれたら……。
氷……。
そうだ、こいつらを固まらせたらどうだ?
さっき道を作るときのように氷に変えればいい。
もし、元に戻ろうとしても多少は時間稼ぎできるはずだ。
「フリージング!」
魔法陣を作成し、エーテルを注入。
範囲を広げ発動する。
伝播する魔法の効果は荒れ狂う海水に染みわたり瞬時に凍り付いていく。
まるで絵画のように一瞬を切り取ったかのような光景は何とも言えない造形を作り出していた。
自身をブーストさせる魔法を付与し、氷原を突っ切る。
……これならいける!
そう思ったのも束の間だった。
キィンと耳をつんざくような音が鳴り、氷の大地が溶解していく。
……振動している?
水が氷になるのは分子の振動が少なくなるからだ。
それとは逆に氷に分子振動が戻れば容易に溶け始める。
つまりはそういうことか?
だが、時間は稼げた。
あとはあっちの溶解が早いか、こっちが先に到達するか、どっちかだ。
早めに溶け始めた水が刃となり飛んでくる。
先ほどまでの波状攻撃は避けれないがこれならばなんとかなる。
いや、そもそも溶け始めたのも凍らせればいい。
水を再び氷結させ動きを封じる。
これで安心かと思いきや、あちらもただでは終わらない。
先ほどよりもけたたましい音が鳴る。
刹那の間に液状に戻る海水。
こんなにも適用能力が高いとは……。
だが、入り口は目の前だ。
「エアプレッシャー!」
凶器と化した荒波が、爆発する空気に吹き飛ばされる。
塔へとなだれ込み、前の階層と同じ手順で入り口を封鎖する。
「グラシアルウォール!」
分厚い氷壁が膨大な量の水を阻む。
……だが、急激に足に力が入らなくなる。
「……なんだコレ?」
氷の壁から無数の棘が突き出しており、体を貫通する。
フェリシアとロイスは攻撃範囲外にいて無事のようだった。
意識がさらに遠のきそうになる。
でも、俺がいなくなるとここで全部終わってしまう。
渾身の力を込めて踏みとどまり、体を貫いた棘を折る。
魔法陣を描き、土魔法で建物の構造を操作しさらに分厚い壁を作り上げた。
……突き抜けてくる様子はない……な?
「今回復してやる!」
「あ、ああすまない……」
足手まといだと思っていたけど、ロイスがいなかったらどうなっていたかわからない。
血が流れて、足がガクガクと震える。
そんな痛めつけられた体にロイスの魔法が染みわたる。
しばらくするとどうにか動けるまでに回復した。
完全回復とはいかないが、戦闘はできるだろう。
「進むか……」
「休まなくていいのか? 疲れているのだろう?」
「ロイスのおかげで元気になったし、体力があるうちに進んでいた方がいいと思うんだ」
「そうだけど……」
「それにここに来てから、休憩しててもMPが減っていっているんだ。 こんなこと普通はないんだけど、休んだら休んだ分だけ苦しくなる」
「進まざるを得ないというわけか」
「そうだな。 ところでロイスのMPはあとどのくらいあるんだ?」
「んー如月にさっきいっぱい持っていかれたからな。 この感じだとあと300あるかないかってところだと思う」
「やっぱりさっきの侵食がきつかったか……」
まだ1階層のこっているのに……。
泣き言行ってる場合じゃないけど泣きたい。
はっきり言ってエーテルがない俺はロイスにも劣ることだろう。
もちろんロイスの身体能力だけではこのダンジョンを突破することは不可能だ。
そもそもあの第一階層すら突破できないかもしれない。
そういう理不尽な空間なのだ。
意を決して3度目の長い回廊を抜ける。
そして再び現れる機械兵。
あいつは階層が進むたびに謎の機能が追加されて行っている。
金色に輝く流線形のボディ。
もう見たくもない。
「コード:プロテクション エーテル カッティング、ミスリル スラッシング、ディメンジョン マジック、セイント アトリビュート、アイス アトリビュート コンプリート。 各種属性攻撃の発動を予測。 コード:プロテクション ファイア アトリビュート、ウォーター アトリビュート、ウィンド アトリビュート、サンダー アトリビュート、アース アトリビュート。 近接攻撃へ対応能力向上。 コード:マスター フェンサー コンプリート」
5つの巨大な宝石が輝く。
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