第66話 蒼海の機構世界2
襲い掛かってくるウミヘビのような機械をさばきつつ、まっすぐに伸びた氷の道を走っていく。
ロイスはウミヘビの巨大な顎をサラリと避け、ミスリルの剣を振るう。
すると彼女の剣からガキンと甲高い音が放たれ、弾き飛ばされる。
……ミスリルの剣でさえ弾き飛ばされるのか。
ミスリルの剣は鉄だろうとなんだろうとスパスパ切れてしまう破格の性能を持つ。
それなのにはじき返される理屈がわからない。
第二層の機械兵も通りは悪かったが切れないことはなかった。
例えば何らかの仕組みを用いて跳ね返すとかそういうことはできる。
反重力のバリアを形成するとか、局所的な暴風を障壁として生み出すとか、少し考えただけでもいくつか方法は思いつく。
現に俺のバリアもミスリルの剣は通さない。
ミスリルよりも物理的に強い性能をもつ、エーテルで構成されている障壁だからだ。
何か仕組み的なものがあればアナライズの魔法である程度解析が出来るのだが、あのウミヘビには何ら不自然な形跡が見られない。
つまりあのウミヘビを構成している物質、それがミスリルよりも極めて性能が高い金属であるということは間違いない。
「くっ! こいつの固さ、今までとは段違いだ!」
「ロイスは回避と弾き飛ばすことだけ考えろ! 止めは俺がやる!」
かなりの巨体だが、バリアを使うと豆腐のようにスパスパと切り裂ける。
幸い俺には物質が変わったところで切れない物はない。
……さっきの機械兵は例外中の例外としておこう。
なぜ切れなかったのか検討もつかない。
ミスリルの剣が効いていたにもかかわらず、圧倒的な能力をもつバリアが役に立たなかった。
不可解極まりない。
まぁいまは目の前のことだけ考えよう。
あの怪物の金属はミスリルよりも性能がいいと見て間違いない。
もしかしたらあれもなにかにつかえるかもしれないな。
「ロイスあいつの素材も回収できるか?」
「わ、わかった」
水面から飛び出してくる新たなウミヘビをバリアによって解体する。
崩れていく金属塊をロイスがそそくさと回収した。
歩みは止めず流れ作業でこなす。
1体1体が巨体なため、すぐに十分な量の素材があつまることだろう。
「どのくらいあつめればいいのだ?」
「特に決めてないけど、そのアイテム袋どのくらい入るんだ?」
「んーよくわからないけど、いっぱい入るぞ」
「よくわからないってどうなってるんだよそのアイテムは……」
「限界まで入れたことはないからなぁ。 そこらへんのショップで売ってるものは魔物数頭入れると満杯になるんだけど、これは聖騎士になるともらえる特別性だから」
「じゃあ適当に回収しててくれ……」
アイテム袋すごいな。
やっぱり俺も欲しい。
街に戻れたら買っておこう。
いやでも普通のお店にうってるのではだめなのか。
どこかで手に入ればいいんだがなぁ。
ザバンと再びウミヘビの群れが襲い掛かってくる。
群れと言ってもその姿が巨大なのでとんでもないことになっているのだが。
しかし、恰好の獲物とはこのことだ。
容易くバラバラに分解し、破片がパラパラと降りかかる。
それをロイスが回収し、今までのダンジョンと比べても嘘のようにサクサクと進んでいく。
「楽勝だな」
「ここに限っては相性が良かったのかもな。 普通だったら海で戦うことすらできないし、この固さの敵だ。 1匹だけでもゲームオーバーな気がする」
「正直、私だけだとスタート地点からどうすることも出来なかった」
「だろうな。 俺の努力に感謝するんだな」
そんな調子でどんどんと進み、塔が目と鼻の先に見えてきた。
おそらくこれ以上の変化は見られないだろう。
第一層は金属蔦。
第二層は金属ワーム。
敵は単体の物しか現れなかった。
この階層はあのウミヘビと見て間違いない。
……しかし、突如として腹部に激痛が走る。
焼けるようにジンジンと痛みの波が脳に伝わり危険信号を鳴らす。
……なんだこれ?
腹を貫かれた?
血がボタボタとしたたり落ち、意識が薄れかける。
目の前の光景を見て目を丸くする。
貫通していたのは透き通った液体だったからだ。
いやいや、なんだよこれ……。
口の中に血の味が広がっていく。
「大丈夫か如月!?」
ロイスは透明な何かをミスリルの剣で切りつけるが、それは水のようにするりとすり抜ける。
すぐさま水のような何かは姿を消し、再びウミヘビが襲い掛かってきた。
……あいつは俺が倒さなきゃならない。
ロイスでは傷つけることすらできないのだから。
倒れた俺の前に立ちはだかる彼女。
俺を守ってくれるのか?
そしてまた異変が起こる。
燦然と現れたウミヘビが急に動きを停止させる。
そして体が朽ち果てていく。
ドロドロと溶ける姿は鉄を塩酸に入れた時のようにだった。
なんだ?
何が起こっているんだ?
その隙にロイスは俺に回復魔法を掛けてくれる。
傷口は深く、全快とはいかない。
ダメージは大きかった。
次の瞬間、水面から無数の槍が出現する。
俺の腹を貫いたのはこれか……。
それらは氷の道すら貫通し、鋭利な刃となり俺たちを傷つける。
「ロイスこっちにこい!」
彼女の腕を引き自らの周囲にバリアを張る。
幸い水の槍はバリアまで貫通することなく防ぐことが出来た。
しかし新たな現象が起き始める。
バリアへの侵食。
ちょうどあのウミヘビが溶けていくような……。
どんどんとエーテルのバリアが溶かされて行ってるのがわかる。
……まさか、ここの敵はこの水そのものだっていうのか?
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