第65話 蒼海の機構世界1

 照り付ける太陽にほんのり潮の香が流れてくる。

 四方八方見渡す限りの蒼い世界。

 海は久しく見ていないが、心を穏やかにしてくれるような気がした。


 光りのトンネルを抜けると俺たちは真っ白な円形状の島に降りた。

 どうやら砂で出来ているらしく、歩みを進めるとサクッっと足跡が出来る。

 ただ、それ以外に存在するものが一切ない。

 きれいな光景だと感じるが、それがどこか恐ろしさを秘めているようなそんな気がする。


 そして第一層と第二層と同じく地平線に浮かぶ塔が立っていた。

 恐らくここもあの塔を目指していけば問題ないはず。

 どんな危険が潜んでいるのか……。


「きれいなところだが、上の階層のことを考えると不気味に思えてくる光景だな」

「……ロイスに同意するよ……。 単純だからこそ恐ろしい」


 一面に広がる水面は真正面にそびえる塔を鏡のように映し出す。

 通常の海であれば、波というものが少なからず存在しているがここにはない。

 その事実が疑心暗鬼を生む。

 あの海には何かとんでもないものがいるのではないか、実はただの水ではなく人を容易に殺す猛毒になっているのではないか。

 想像できることに際限はない。

 だから戸惑っていても仕方ないし、とりあえず前に進むしかないのだ。


「水ならば泳いで行けと言うのか?」

「普通ならそうしないとならないだろうな。 ……まぁ今までの経緯を考えるととんでもない化け物が襲ってくるはずだ。 悠長に泳いでいたらひとたまりもない」

「……ではどうするのだ? また足場でも作って空を駆けていくのか?」

「うーん……それも考えたんだけど、ロイスがなぁ……」

「し、仕方ないだろう! 高いところは怖いんだ!」

「幸いロイスのMPが使えるから余裕がでてきたところだ。 別の方法にしようかと思う」


 水面に触れると少しヒンヤリして気持ちいい。

 どうやら毒物やらなにやらの危険な物質ではないようだ。

 水があるならそれを利用すればいい。


「フリージング!」


 地平の果てまで続く氷の道を形成する。

 遥か遠方に佇む塔まで到達していることだろう。

 グラシアルウォールのようにエーテルから直接氷を作るのは結構大変なのだが、水という媒体があるならば多少マシになる。

 あくまで温度変化による形態変化であるからだ。

 そういうちょっとした操作は魔力操作にも似通るところがあって、自身が得意とする分野でもある。


「如月は本当に規格外のことをやってのけるな……。 私だけなら泳いでいくしかなかったところだ……」

「こういうことは得意だからな。 それに空を行っていたんじゃ俺の腕が痛いし……」

「なんか言ったか?」

「いやなんでもないです……」

「そういえばフェリシアはそのままでいいのか?」


 俺の背中で深い眠りに入っているであろうフェリシア。

 彼女は先ほどの戦いで気絶してしまった。

 たぶんそのまま起こしておくと同じようなことが起こるに違いない。

 それなら寝かせたままの方がいいと思ったのだ。

 催眠効果のある魔法を付与し、起きないように細工するのは造作もない。


「たぶんこれからも激しい戦いは続くだろうしこのまま寝かせてやった方がいいだろ?」

「それもそうだな」


 俺とロイスは軽く打ち合わせを実施し、氷の道を進んでいく。

 氷をそのまま張るとただのスケートリンクみたいになってしまうのでそこは一応配慮している。

 少し引っ掛かるような凹凸をつけるとともに、自分たちが通る直前に再氷結させている。

 照り付ける太陽の熱は簡単に氷を溶かしてしまうためすぐにつるつるの状態になるのだ。

 乾いた氷は滑らないとはよく言ったものだと思う。

 進んでしばらくするとロイスが一言声をかけてきた。


「なにもこないな」

「何も来ないのはありがたいことだけどな」


 そうこう言っているうちに右手前方に巨大な波紋が浮かび上がる。

 そら言ったことか。

 次はなんだ。

 不死身めいた化け物はやめてくれよ……。


「来たか……」

「止まっていても仕方ない、駆け抜けるぞ!」


 大きな波しぶきとともに現れたのは巨大なウミヘビだった。

 もちろん普通の生物ではなく、機械で出来ているように見える。

 イルカのショーのように大ジャンプし、俺たちの頭上を飛び越し再び海の中に戻っていく。

 こいつも切って増えたりしないよな?

 切っても元通りになったりしないよな?

 そんなふざけた性能がないことを祈る。


 再び前方に現れた巨大ウミヘビは大きな口を開ける。

 放ってきたのは莫大な量の海水だ。

 バリアで襲ってくる激流をはねのける。

 効果なしと判断したのか再度海に潜るウミヘビ。

 今度は尻尾を海面上に突きだし叩きつける。


 幸い俺とロイスはなんなく攻撃を避けることが出来たが、後方の氷道が崩壊する。

 攻撃力はかなり高いみたいだがあたらなければ問題ない。


 今度は大きな口を開けて俺たちを飲み込もうと襲い掛かってくる。

 もちろんそんなことはさせるつもりはない。

 こちらに届く前にバリアによる切断を試みる。


 スパッっと真ん中から切断されたウミヘビはそのまま二つの塊となり、大きなしぶきを上げ海に還っていく。

 ……あっけなかったな。

 でもこれからが重要だ。

 再生するのか? 分裂するのか?

 どっちだ?

 後方を振り返りつつ、残骸と化したウミヘビを見るが変化はない。


「変わった様子はないな」

「逆になにもないと不気味なんだが……」

「いや、ちょっとまってくれ。 なんかさっきの化け物がおかしくなってるぞ」


 まだ後方を確認していたロイスから声がかかる。

 少し遠目に見える残骸は再生も分裂もすることはないようだが……。


「なんか溶けて行ってないか?」


 ロイスの言う通り巨大な金属塊が少しずつだがドロドロと溶けているように見える。

 さっき水に触った時は特に何にも感じなかったしどういう理由なのだろうか?

 そんなことを考えていると再び前方からウミヘビが襲ってくる。

 2体か……さっきのとは別の個体のようだ。


「なんにせよ俺たちは突き進むのみだ!」


 大きな口を開ける2体のウミヘビをバラバラに分解し、金属片がドバドバと海に落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る