第64話 砂塵の機構世界4

 意味不明な言葉を発した謎の機械兵。

 攻撃は完全にとらえたはずなのに壊れる様子が全くない。

 エーテルの超平面による影響そのものを無効化した?

 そう考えることしかできないが物理的にありえない。

 モノが存在している時点で、それらを構成する何かがあるはず。

 だからその構成成分ごとぶった切るバリアが通用しないことなんて考えられなかった。


 第一層と同じく、尖った片腕を俺たちに向け極太のレーザー光線を放とうとする謎の機械兵。

 バリアで防ぐことが出来るのか? そんな疑問が脳裏をよぎる。

 絶対的な信頼を置いていた攻撃が無効化されたのだ。

 もし、防ぐことが出来なければ一貫の終わり。


「ロイス、前のやつとは違う避けろ!」


 彼女は相槌を打ちつつ、回避に専念する。

 寸前のところで膨大な熱量をもつ光線が通り過ぎた。

 赤熱する床は、攻撃のすさまじさを物語る。


 攻撃が単発で終わることはなかった。

 俺たちをロックオンし、莫大なエネルギーを凝縮した光線を連射してきた。


「攻撃が効いてないのか!?」

「効いていないのは間違いない!」


 着弾した地面がジュワっと蒸発する。

 相変わらずなんつう威力なんだ……。

 触れたら終わり。

 額から冷や汗が流れ落ちる。

 思考している時間を打ち砕くかのように、絶え間なく攻撃を続ける機械兵。

 途切れないエネルギーの放出が背後に迫り追いかけてきた。

 疾駆しながら各種バフを付与し、能力を向上させる。


 物理行動を加速させるアクセラレイト。

 純粋なパワーを向上させるブルートフォース。

 思考能力を上昇させるブレインストーム。

 防御能力を高めるイージスオブヘブン。

 魔法攻撃力を強めるプライミーヴァルフォース。


 ロイスにも同じ支援魔法を使い強化する。

 それが完了すると同時に床面を抉り焼くエネルギー塊が通り過ぎた。

 大きく後方宙返りをして回避する。

 同時に氷の槍を形成し放つ。

 無論これもただの氷などではない。

 圧縮したエーテルが付与されている特別製の氷だ。

 音速を超える氷弾は、周囲に衝撃波をまき散らし耳がおかしくなりそうな爆音を響かせる。

 瞬時に着弾した氷塊は金属のボディをわずかながらに傷をつけた。


 ……攻撃が効かないわけではない。

 効かないわけではないが、ただの金属とは思えない頑丈さだ。

 先ほどの氷弾は鉄の塊であれば粉々に粉砕するほどの威力を持っていた。

 しかし、砕け散ったのは俺の氷の方。


「前に出れるかロイス!」

「無論だ!」


 ターゲットが俺に移っていた隙を突き、ロイスは剣が届く範囲まで接近。

 ミスリルの剣と言えど、弾かれる謎金属は驚くべき程の硬度だ。

 しかし、支援魔法により強化されたミスリルの剣は一味違うぞ。


 ロイスはレーザーを連射している腕に集中し、渾身の力を振り絞って切り上げる。

 それに伴い、機械兵が射出していた光線がジュアッ! っと縦に流れた。

 斬れたわけではないが、少し腕に食い込むぐらいのダメージは与えれたようだ。

 攻撃が効いていることを加味すると、バリアの攻撃だけが無効化されてる可能性が高い。

 事実として受け止めることはできないが、理解はした。


 ロイスにヘイトが移り、機械兵も近接モードに移行する。

 極太のレーザー光線が収束し、剣が出来上がった。

 あんなこともできるのか……。

 次々に起きる予想だにしない機能に驚かされる。


「剣で受けるな! 貫通するかもしれない!」


 恐らくあの剣はレーザー光線と同じ機能を持っているに違いない。

 剣で受けることはできないだろう。

 ブゥンとロイスのいた空間を薙ぎ払う攻撃は、凝縮された熱エネルギーも併せてまき散らす。

 支援魔法がなかったら接近すらできないだろうな。


「で、ではどうすればいいのだ!」

「避けて、避けて、避けろ!」


 悲鳴を上げながらもロイスはさすがの身のこなしを見せる。

 焦げるような熱風とあらゆるものを蒸発させ、斬ってしまうであろう輝きを見せる剣。

 バリアだけ効かないなら、倒せる手段はある。

 

「ディメンジョンブレード!」


 時空を切り裂く刃を発現させる魔法だ。

 これならば敵の固さは関係なく切断できる。

 バリアは物理的に分離する類の攻撃だが、これは時空間を切り裂く。

 消費エーテルが大きいが威力は折り紙付きだ。


 機械兵はディメンジョンブレードを察知しのけ反って回避する。

 ……くそやっぱり着弾までの時間が遅いか。

 ロイスは攻撃が止んだ瞬間を逃さず追撃を仕掛ける。

 機械兵の首目掛けてはなった斬撃はクリーンヒットするが、それでも破壊するには至らない。

 ノックバックを起こしギコッっと不思議な音を発したが、とどまることなく再び動き出す。


「もう一発だ! ホーリーブレード!」


 聖なる輝きを宿すミスリル剣は機械兵の腹部を捉える。

 今までの攻撃よりも数段威力は高いだろう。

 それでも腹部の中間あたりまでたどり着くのがやっとだった。

 振るった剣の進行方向にズザザと押される機械兵は、反撃とばかりにレーザーブレードを振るう。

 白銀の聖騎士は、その攻撃を危なげなく躱した。


「ナイスだ! ディメンジョンブレード!」


 避けられない範囲まで近づいた俺は再び魔法を唱える。

 今度は外さない。

 追加でディメンジョンブレードを3回発動し機械兵へ発射する。

 体勢を崩した機械兵に着弾し、ギギィという音を発しつつバラバラに崩壊した。


 なんとか倒せたか……。

 緊張していた糸がふっと切れるようだった。


「大丈夫かロイス?」

「なんとか……な。 こんな強いモンスターがいるとはな……魔王軍のやつらもこんなに強いのだろうか……」

「……わからないが、ここにいる敵は違う気がするな」


 デネブというやつは確かにアーティファクトと呼ばれる機械のようなものを扱っていた。

 だが明らかにここの敵とはことなるものだ。

 カノープスは感じが違うし、もう一人いたレグルスという者もそうだ。

 あくまで生身がメインは変わらない。

 対してここにあるのは機械そのもの。

 なんかこう、高度な文明によってつくられた機械、そんな印象を受ける。

 まったく別次元の存在と言っていいのではないだろうか?


 そもそも魔物が攻めてくるという伝説だ。

 こいつらははっきりいって魔物とは呼べない。

 機械という言葉があまりにも適切なのだ。


「それよりロイスMPを分けてくれないか……使いすぎて頭がクラクラする……」

「お安い御用だ。 如月の能力ははなんだか面倒なのだな」

「ここの空間が異常ってのもあるんだけどな……。 こればっかりは愚痴を言っても仕方ない」


 ふとフェリシアの様子を確認すると再び気絶していた。

 ……すまないフェリシア。

 だけど、気絶していた方が気が楽かもしれない。


「素材は私が回収しておく」

「ああ、助かる」


 次は蒼海の機構世界と呼ばれる場所。

 海が広がるような空間であることが想像できる。

 素材を回収したロイスと一緒に出現した魔法陣の中央に立つ。

 体が光に包まれ、俺たちを別の世界へと誘う。

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