第69話 蒼海の機構世界5

 フェリシアを部屋の隅に座らせ、周囲に強固なバリアをセットする。

 攻撃手段としては使えないが、防御だけならできることが判明した。

 このまま背負ったまま戦えばかなり危険だし、自分自身も動きやすくなる。

 ただずっと防げるというわけではなく、機械兵も何かしらを利用してエーテルの障壁を破壊するので気を付ける必要はある。


 魔法という特性上、人を背負っていても戦うことはできるのだが、今相対している機械兵はとても危険な存在。

 できるだけ戦いやすい状態で挑む必要がある。

 信じがたいことにディレイの魔法もかき消された。

 それだけではない。

 高重力場を形成する重力魔法。

 死者の怨念を具現化し呪いの攻撃を与える闇魔法。

 振動をより攻撃的な現象に変換することができる音撃魔法。

 物理的な現象を引き起こす無属性魔法。

 これらを放ったところ、最初は効いていたがすぐに耐性を獲得した。


 とてつもないスピードで俺たちの攻撃を無効化していったのだ。

 詰将棋のようにどんどんと迫ってくる対応力の高さ。

 信じがたい。

 恐らくこのまま魔法を使っていても無効化能力が増えていくだけ。

 しかもたいしてダメージを与えられない。

 このままではこちらが消耗していくだけ。


 だが戦っていて気づいたことがもう一つある。

 その一つがパンチやキックといった魔法ではない物理的な攻撃は無効化されていないように見える点だ。

 原理としては同じはずの物理魔法、それが効かなかったので不可解ではあるんだが、ありのままを受け入れるしかない。

 単純な物理攻撃は魔法や剣と比べて攻撃力は低い。

 だから無効化する必要はないと判断されているのかもしれない。

 本当に効くかは難しいところだな。

 それでもロイスが放った蹴撃でよろめく様子が見えたのは一つの光明といえるだろう。

 このダンジョンを作った人はモノに頼らず、自分の肉体だけで戦え、といっているのだろうか?

 もしそうであるなら物好きにもほどがある。


 普通なら魔法使いというものは近接戦闘は不得意だ。

 もちろん俺も遠距離から魔法を打つ方が得意だし、安全なところから一方的に制圧できるのであればそれに越したことはない。

 ただ……、やれと言われればできないことはない。

 如月の家に生まれてきたことに感謝することになろうとはな……。


 “カグヅチ”を近接モード解放状態にする。

 あの機械兵に炎は効かないが、カグヅチの炎を推進力に使えば俺でも十分な近接戦闘が出来る。

 普通であれば常にカグヅチを発動し、攻守ともに身体能力を向上させることができるのだが、それは恵まれていない俺にはできない。

 だからいつでも発動できるような状態である解放状態を維持する。

 解放状態まで持っていくことが出来れば、魔法を発動するまでの時間にラグがほとんどない。

 ……あいつだったら常時発動なんかお手の物だろうがな。


 カグヅチの力を魔力操作により圧縮し、膨大な推進力を生み出す。

 暴れだすような力の波動は強化魔法を付与していても体への負担が凄まじい。

 先ほど受けた傷のせいもあるが、単純に体が追い付いていないのだ。

 軋む骨と筋繊維が千切れるような感覚は正気の沙汰とは思えなかった。

 もっと良い方法があったかもしれない。

 そんな考えが頭をよぎるが、思考している時間も限られている。

 目の前でロイスが必死に耐えてくれている。

 一瞬でも気が抜けるとあの刀身が彼女の体を八つ裂きにすることだろう。


 襲い掛かる機械兵の攻撃を受け流すロイス。

 振り切った瞬間目掛けて、金色の刀身をバリアにより固定する。

 そして渾身の一撃をお見舞いする。


「くたばれ!」


 燃え盛るアーティファクトの左腕をバリアで覆い、衝撃を緩和。

 莫大なエネルギーにより加速された身体と、振りかぶった拳が相乗効果を生み、機械兵の顔面に強烈な左フックをぶちかます。

 保護したとしても自分に伝わってくる力は相当なもので、生身であれば手の骨が砕け散っていただろう。


 ギギギ、とノックバックする機械兵。

 やはり効いている。

 顔面にはヒビが入りこちらを睨み返す。

 倒すまでには至っていない。

 それは想定内だ。

 恐らくこの状態で相当な数の攻撃をこなさないとたぶん倒せない。

 しかし、機械兵に不可思議なことが起こっていた。

 メッキが溶けている!?

 炎は効かないんじゃないのか?


「本機体に損傷を確認。 サーバーへのアクセス開始」


 無効化能力を獲得する時の音声が流れる。


「……無効化される前に倒してやる!」

「さらなる近接攻撃への対応能力向上。 コード:グレーター マスター フェンサー」


 もう一方の手に二つ目の金色の刀身が現れる。

 ……二刀流!?

 のけ反るようにして俺の攻撃を回避する機械兵。

 しかも、はやい!?

 カグヅチで限界まで向上させたスピードについてきている。

 いや、あっちの方が一枚上手だ。

 だが、カグヅチの熱によりメッキがドロドロと溶けだしている。

 間違いない効いてる!


「舞え! カグヅチ!」

「ギギギ……該当データなし。 プロテクションアップデート不可。 優先度を変更。 対象の攻撃に対する回避行動および解析時間の確保に移ります」


 体中にカグヅチの炎を纏い、それをレーザー光線のように射出する。

 だが機械兵は言葉通りワープで回避した。

 厄介な能力だ……。

 さっきまではロイスが戦っていたため魔法を当てることができていたのだが一対一だときつい。


 どこいった?

 いつどこから攻撃をしかけてくるかわからない。

 張り詰めた空気。

 全方位に集中しカウンターでカグヅチを当てる。

 ゼロ距離ならあいつもさすがに避けれないはずだ。


 空間を侵食する感覚が背後から感じる。

 後ろか!?


「なっ!」


 機械兵が現れたのはロイスの目の前だった。

 先ほどまでの攻防で体力の消耗が激しいらしく肩で息をしている。

 この距離じゃ間に合わない!

 バリアを展開するんだ。

 これならあいつを守れる!

 ロイスを守る障壁が出現。


「オフェンスブースト:コード ブレイク マジック」


 今まで防げていた剣撃。

 しかし剣が触れた瞬間、バリアが粉々に砕け散る。

 ふざけるな、なんなんだよそれは!

 一振り目の金色の刀身はミスリルを砕き、ロイスの体に到達する。

 二振り目の金色の刀身もロイスに届いた。

 横っ腹を強打し、人形のように飛んで行く。


「ターゲット残存HP10%以下、再起動まで約20時間」


 カグヅチによる蹴撃を繰り出すが、ワープにより再び回避される。

 息つく暇もなく背後に出現し斬りかかってくる機械兵。

 避けたら攻撃を当てることは難しい。

 ならば……


「燃え上がれカグヅチ!!」


 自身の周囲を焼き尽くす炎が出現。

 焼け溶ける空間。

 金色の刀身、ボディが赤熱し、ドロドロと溶けだした。


「ギギギ……回避……不、……収集……サーバーへ……送……」

「やった……か……?」


 ……エーテルを使いすぎたうえにカグヅチの反動もでかい。

 体がギシギシと痛み始める。

 ……だめだ、瞼も重く……。

 ロイスは……大丈夫だっただろうか?

 意識が……。

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