第62話 砂塵の機構世界2
金属砂から現れたのはとてつもなく巨大な存在だった。
見た目はゴカイに似ている。
よく釣りのエサで使う虫みたいなやつだ。
すべてを粉々に砕いてしまうような口は、幾重にも並ぶ刃で埋め尽され、それらは互い違いに回転している。
こちらはヤツメウナギの口に似ているがそれよりもかなりゴツイ。
触れただけで瞬時にミンチにされてしまうだろう。
高層ビルにも等しい大きさの敵。
俺たちを飲み込もうと大きな口を開け迫ってくる。
もちろん食われてやるつもりはない。
狙いを定め発動する、すべてを両断する境界線。
避けることは不可能だ。
容易く超質量の物体に着弾し、勢いよく回転していた刃がギギギと嫌な音を発する。
徐々に動きが悪くなっていく金属ワーム。
ある部分を境にその巨体はズレ、金属の塊へと還っていく。
二つに分かれた金属ワーム。
空中を落ちていく最中、ゆっくりと分解し裂けていく。
時間をかけ地面に叩きつけられた金属塊は、ズゥンと心臓に響くほどのけたたましい轟音をまき散らした。
それと同時に、金属で出来た砂が舞い上がる。
斬れないことはないと思っていたが、油断はできない。
遥か上空で注意深く金属ワームの様子を観察する。
果たしてどうなるだろう。
無論このまま壊れたままでいて欲しいが、ここは未知の世界だ。
最悪のパターンは金属蔦のように再生することなのだが、いくらなんでもそれはないと願いたい。
「や、やったのか!?」
「どうだろうな。 あまりにもあっけない気がするけど、俺みたいな攻撃手段がないと一瞬でゲームオーバーレベルだし……ただでさえ普通に戦っていたら巨大すぎて話にならない。 これで終わってくれればいんだが」
そもそも硬度や性質に関係なく切断できるバリアだからこそ簡単に倒せたわけだ。
通常であればこの巨体だけで脅威になるし、体は重なりあった刃がひしめき合っている。
生身で近寄って攻撃してたらひとたまりもないことだろう。
剣を持った戦士が戦ったところで、剣は弾かれすりつぶされる。
強力な魔法使いでもあいつの質量が大きすぎるため大したダメージも見込めない。
そんな場所に攻撃する勇敢なやつを見てみたいほどだ。
様子を伺っているとジジジと電気のようなものが放電する。
中身は様々なパーツが幾重にも重なり、複雑な構造になっていた。
一言でいうなら機械だが、こんな機械は見たことがない。
そしてやはりというかなんというか、嫌な予感は的中する。
切断された断面からにょきにょきと液体になった金属のようなものが伸びだした。
俺の腕にしがみつくロイスが口を開く。
「こいつも復活するのか……?」
「だああああああーーもう! こんなやつに構ってられるか!!」
金属蔦にせよ金属ワームにせよかなり異質なものだ。
再生能力も含め、エーテルに関する親和性も高い。
元々俺がいた世界では機械は電気で動くものであり、エーテルを使うことはなかった。
だが、こいつらは違う。
俺の予想だが、この謎機械たちはエーテルを元に動いている。
そもそもエーテルはとてつもないエネルギーを秘めた物体であるため、もしそれらを空中から容易に補給できるとしたら……?
その恩恵は計り知れないものになることだろう。
石油も原子力もいらなくなる究極のエネルギーだ。
だがそう簡単にいくものではない。
エーテルを使うのにはとてつもなく高い技術力が必要になるからだ。
もちろん現代世界では機械に応用するレベルには至っていない。
せいぜいできるのが魔法に使うくらいなのだ。
たとえば魔法陣がいい例だが、術式にエーテルを取り込み炎や氷、雷といった自然現象を発生させることができる。
もちろん、その術式を機械に取り込めばエーテルを用いて機械を動かすことは可能だろう。
だがそれはエーテルによって発動された魔法で動いているのであって、エーテルを動力源にしているとはいえないのだ。
エーテル自体は膨大なエネルギーの塊としてみることができるが、そううまくは使えない。
なんらかの術式を媒介することで、本来持つエネルギーの大半を失ってしまうからだ。
あの巨体を動かすための力ととてつもない再生能力を鑑みるに、常識範囲外のテクノロジーが使われていることは間違いないだろう。
こうなったら手段は選んでられないか。
「しっかりつかまれ! 飛んで行く!」
「え?」
ロイスが腑抜けた声を出すが、構っていられない。
もたもたしているとあの金属ワームが再生し再び襲ってくる。
空中に描かれた魔法陣になけなしのエーテルを注ぎ込む。
エーテルの消費量は大きいが、塔へいくための最短手段だ。
少し頭痛がする。
今保有している2割程度のエーテルではエネルギー不足だ。
仕方ないがマジックポーションを飲もう。
鞄をゴソゴソと漁り、真っ赤な色をした液体を取り出し、一気に飲み干す。
初めて飲んでみたが、なんだか薬っぽい苦みを感じる。
……はっきり言ってまずい。
でもエーテルの保有量が回復するならこれくらい我慢だ。
「如月それは!?」
「店で買ってきたんだ。 俺はMPが少ないから必要になるかと思って」
「あ、ちょっと待って! 何する気だ如月!」
ロイスが何か言おうとしたが、それよりも早く魔法が発動する。
ふわりと空中に浮かび、全速力で金属ワームから離脱する。
通常であれば息ができないほどの高速飛行だが、周囲を空気の膜で覆うことによりその問題は解決している。
あっという間に砂塵の障壁に到達。
視界はかなり悪いが、大まかな位置は大体わかっている。
「前から来てるぞ!」
ロイスが指さした方向には先ほどとは別の金属ワームが出現していた。
足場を作り、飛行経路を急激に曲げ、強襲を避ける。
目が回りそうな立体機動。
フェリシアは大丈夫だろうか。
そんなことを頭の片隅に入れてはいるが、あの巨体に捕まると終わりだ。
巨大な顎が通り過ぎる。
それと同時に、砕け散る金属ワーム。
格子状に出現させたバリアで粉砕したのだ。
通常ではひとたまりもない攻撃だ。
バラバラと舞い落ちる金属塊。
息をする暇もなく背後からもう一匹が出現する。
避けている暇はなかったので、巨大なバリアを出現させ突撃を受け止める。
エーテルがゴリゴリと削られているような感覚が襲ってくるが、再び格子状のバリアを展開し破壊する。
とてつもなく巨大なワームだが、砂嵐のせいで気づくのが遅れる。
対応も後手後手になるのが非常につらい。
しかし飛行魔術のおかげで、進路が若干ズレたとしてもハイペースで進んでいることは間違いないだろう。
左右から出現した2体の金属ワームを急降下で避け、再びバラバラに分解する。
チラッと破壊した欠片を見てみるとそれぞれが小さなワームに変化していっているのが見えた。
幸いこちらの攻撃が当たってから再生するまでに時間がかかるようで、その隙に駆け抜けてしまえばなんとか塔まで持つだろう。
塔に近づくほど奴らは群れを成して襲ってくる。
はっきり言って異常な光景だ。
戦っていたら命がいくつあっても足りない気がしてならない。
戦いを避けているからこそ進めているだけなのだ。
そして吹き荒れる砂嵐の中、塔の影を見つける。
あそこに入れば俺たちの勝ちだ。
一層激しくなる強襲は四方八方から押し寄せる。
とてつもなく巨大であるはずなのに、その数を数えるのすら困難になるほどだった。
加えて小さくなったワームも参戦し阿鼻叫喚の光景が広がる。
物理行動を加速させるアクセラレイトと、さらなる加速を生むエクスペデイト。
二つの魔法を重ね掛けする。
そして、空中に作った足場に目いっぱいの力を込め、入口目掛けて突撃した。
もう破壊している余裕はない。
避けれる攻撃は避け、避けれない攻撃は防御し突っ込むしかない。
エーテルの使いすぎで頭がクラクラしてきた。
だが、もう少し……。
なけなしのエーテルを使い魔法を発動する。
「エアプレッシャー!」
圧縮された空気が爆発し、一瞬だが無数の金属ワームがのけ反る。
反対に俺たちは入口目掛けて吹っ飛び、一層加速する。
迫るワームの顎はギラギラと光り、俺たちの命を狙う。
だが、ほんのわずかだった。
俺たちの方が先に入口に到達した。
「グラシアルウォール!」
一つ前の階層でも使用した凍てつく氷河の壁。
ワームたちは氷壁にぶつかり跳ね返る。
だが前回みたくうまくは行かなかった。
あのミキサーのような口でガリガリと氷を砕いて行っている。
勢いはそこまででもない。
もっと壁を厚くすれば……。
そう思い魔法を発動すると、視界が真っ暗になり意識が遠のいていく。
エーテルの使い過ぎ……か……。
もっとレベル上げていれば良かった……な……。
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