第60話 新緑の機構世界6

 通路を抜けるとドーム状の広い場所に出た。

 円形状の一切無駄のないシンプルな構造。

 それらを構成する灰色の謎金属が冷ややかな印象を俺たちに与える。

 そして、中央に佇む不可思議な人形が一体。


 今まで見たこともないようなフォルムをしている。 

 人型ではあるのだが中世ファンタジー世界に出てくるとは到底思えないもの。

 どちらかというとSF世界に出てくるような感じと言ったらいいだろうか。

 近未来的な形状に、金色に輝く流線形のボディ。

 おそらく金属で出来ているのだろうが、もはや解析不能。

 そして大きな特徴として巨大な宝石のようなものが5つ埋め込まれていた。

 両腕に2つずつ、額に1つ。

 その両腕は爪のように尖っており、一突きされるとひとたまりもなさそうだ。


 少し手に力が入る。

 嫌な予感しかしない。

 道中でも相当厄介なダンジョンだったんだ。

 この空間の最終地点を防衛するモンスターが弱いわけがない。

 そもそもモンスターなのか疑わしいのだが。


「あいつは何かやばそうな感じがする」

「俺もロイスの意見に賛成だ。 このダンジョンは一体どうなってるんだ……」


 何か起動音みたいのがあの人形から発せられた。

 人形というよりかロボットといったほうが正確なのかもしれない。

 尖った片腕を俺たちに向け何かをしようとしている。

 そして宝石が輝いたかと思うと先端が瞬く。

 次の瞬間には目が眩むほどのレーザー光線が放たれた。

 空気が焦げるほどの膨大な量のエネルギー。


 危険を察知した俺は瞬時にバリアを展開する。

 着弾の瞬間ゴリゴリと削られるような感覚が襲ってきたが、軌道を逸らすことに成功した。

 レーザー光線が通り過ぎた後は床が真っ赤に色づいていた。


 ジジジとあの機械から電光が漏れ出ている。

 攻撃をするために蓄えられたエネルギー。

 その過剰分が放出されているものだと思われる。

 カノープスの攻撃程ではないが、かなり強烈な威力だった。

 なにより、こいつの攻撃もエーテルに干渉してくるような性能をもっているみたいでかなり厄介だ。

 いつもは最低限の厚みを持たせるだけのバリアだったが、今までの経験から相当分厚いものにして正解だった。

 そうしなければ粉々に粉砕されていた可能性もある。

 

 現代世界にも、こんな異質な存在はいなかった。

 こいつも切ったら元通りになったりしないだろうな?

 嫌な予感を思い浮かべるが、とりあえず攻撃を仕掛けてみるしかない。


 ロイスは接近しミスリルの剣を一振りする。

 謎の機械は鋭い腕でカンっと弾くと、頭上からもう片方の腕を振り下ろす。

 さっと飛びのき、その攻撃を躱すロイス。

 彼女のいた位置には鋭い爪が突き刺さる。

 数度の攻防の末、ロイスの攻撃が腹のあたりに命中する。

 だが、ミスリルの剣では体勢を少し崩すのが限界のようだった。


「一体何で出来ているのだこのモンスターは!」


 ロイスがそう嘆く。

 ミスリルの剣の切れ味は俺も知っている。

 しかしそれでも切れないとはな……。


 俺も攻撃に移ろう。

 ひとまずバリアによる切断を試みる。

 とてつもなく薄く、強固な障壁。

 これを物体中に形成することで、あらゆるものを切断することが出来る。

 正確には分離、と言った方がいいのかもしれない。


 どんなものにでもそれを構成する分子や原子と言ったものがある。

 原子は電子や陽子で形成されているのだが、エーテルはそれを上回る微小な粒子だ。

 観測上最も微小とされているエーテルは魔法を使う際の燃料にも使われる。

 簡単に言えば不思議な物質ということだな。


 そんなエーテルを圧縮した超平面。

 それが俺の使っているバリアだ。

 すべてのものは最小といえる構成粒子が存在している。

 その隙間にエーテルの平面を形成するのだ。

 形成された面は微粒子間の物理的な結合を遮断する。

 結果としてあらゆるものを切断、分離することができるのだ。


 再びロイスが隙を突き胴体に剣線をぶち当てる。

 少しよろめくが、ただそれだけ。

 俺は有無を言わさず、バリアによる切断を試みた。


 肩から脇腹にかけての一閃。

 各種腕、足の付け根に対する分離。

 首を切断。


 間違いなくとらえたであろう。

 謎の機械は次の動作を行うと同時に切断面から崩れ落ちる。

 振るわれた腕が落下し、切断された胴体がずれる。

 首が落ち、配置されていた宝石のようなものにひびが入る。


 後方に飛びのいたロイスは油断なく構えを取る。


「倒したのか?」

「そうだといいんだがな」


 通常であればこれで終わりになるだろう。

 しかしこのダンジョンの敵だ。

 ただでは終わらない気がする。

 道中に出現してきたあの金属蔦がいい例だ。

 いくら切り刻んでも再生し、増えて襲ってくる。

 もしそんな再生能力があるのなら……とてつもない強敵になるだろう。


 崩れ落ちた謎の機械。

 徐々に小さくなっていく起動音。

 輝いていた宝石の光が無くなり、機能が停止したように見える。

 ロイスが恐る恐るミスリルの剣を当ててみるが動く気配はないようだ。


「……だ、大丈夫みたいだな」

「こんなもので終わるとは思ってなかったが……本当に大丈夫だよな?」


 俺も少し動揺しつつ、もう2、3枚、バリアでの切断を試みる。

 しかし動く気配はなかった。


「ミスリルの剣が弾かれたのは正直驚いたが、さすがは如月だ」


 ボスを倒したからなのであろうか、中央に魔法陣が出現する。

 半信半疑だったけど本当に倒せたんだな。


「フェリシアも大丈夫か?」

「……私はだいじょうぶ。 ……だいじょうぶです」

「そうかよかった」

「それはそうと、如月。 こいつはいらないのか?」


 魔法陣に向かおうとしているとロイスが引き留めてきた。


「どうゆうことだ?」

「素材として使えばすごい武器とか作れそうだよ」

「そういう使い方もあるのか。 でもとてもじゃないけど持って行けそうにない」

「では私のアイテム袋にしまっておくとしよう」


 ロイスは白い袋を取り出すと、崩れた機械人形の前に行きその袋に収納してしまった。

 これがアイテムショップで見た袋か。

 便利なもんだ。


「じゃあ行くか」


 魔法陣の上に乗り、周囲が真っ白に染まり始めた。

 まだ3階層分ある。

 今までで経験してきたどんな場所よりも危険な場所になることだろう。

 一掃気を引き締めていかなければ。

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