第58話 新緑の機構世界4
徐々に明らかになってきたダンジョンの構造。
明確に危険地帯だと認識させられた。
油断はすぐに命取りになることだろう。
全方位から伸びてくる金属製の蔦。
ロイスは最小限の動きでそれを避ける。
次いでミスリルの剣線が走り、いくつもの蔦が地面に落下する。
切断された断面からはジジジと雷のようなものが発せられていた。
しばらくするとそれらは再生し再び襲ってくる。
きりがないとはまさにこのことだ。
いくら倒しても元に戻る。
厄介極まりない。
そして新たな特徴も発見した。
切り落とされた先端部分は地表につくと根を下ろし、新たな蔦が形成される。
いくつかこのモンスター? の正体について考えていたが、あれを操っているようなモンスターがいるわけではないことがわかった。
あの蔦自体が本体なのだ。
そうなると、あれを倒すにはこの森を破壊しつくすしかないだろう。
俺は迫りくる蔦をバリアで一掃しながら森を走る。
しかしながら、あらゆる方向から迫る攻撃への対応はかなり難しい。
そんな中、ロイスが役に立ちつつあった。
思っていた通り彼女の戦闘力はすごい。
回避の動作一つとっても、それが次の攻撃に移るための予備動作になる。
一連の流れが淀みなく繋がっている。
そんな印象を受ける動きだった。
俺のようにつけ焼き刃ではなく、戦闘スタイルとして確立された技術といっていいだろう。
頭上から迫る蔦を一歩下がることで避け、それと同時に剣が通り過ぎる。
走るスピードが遅くなることもなく、無駄なく敵を薙ぎ払う。
実に優雅な戦い方だ。
なお、森林地帯は草が生い茂っていたため、そのまま進むとミンチになってしまう。
それを防ぐために魔法で通り道を作っている。
ゲイルブロウにバリアを混ぜた魔法だ。
バリアで余計な障害物を切り払い、風圧でそれらを吹き飛ばす。
今更ながら思うのだが想定外のことばかりで当初の計画から大幅に路線変更している。
結果的にエーテルの消費量も多くなっているような気がしてならない。
それでも消費量が少ないタイプの魔法を選んで使っているので多少はマシ、といったところか。
エーテルを枯渇させてもいいから飛行魔法で飛んで行ったほうがよかったかもしれないな。
塔に近づくにつれてあちらの攻撃密度も増していく。
幸い今のところは十分に対処できている。
相手の攻撃力と防御力が低かったおかげもあるかもしれない。
「如月! 変なのが来たぞ!」
ロイスが右前方を指さす。
俺たちより一回り大きな体躯。
緑銀色の輝きは、先ほどから攻撃を続けている蔦のように見える。
「蔦の集合体か?」
奴隷の少女が俺の肩をギュっと握りしめる。
なんだかんだ言って怖いのだろうな。
短く返事をする。
「俺が守ってやるから安心しろ」
新たな敵は上半身は人のような形、下半身は地面と繋がっている。
蔦が収縮されて集まったようなものだった。
しかし、そこらへんに生えている蔦とは明らかに動きが違う。
スピードが段違いだったのだ。
さらにはその大きな拳を振るってきた。
金属で出来たような地面が陥没するほどの高威力。
もろに食らうとかなりダメージを受けることだろう。
ロイスが一薙ぎすると、ざっくりとお腹のあたりで切断される。
防御力はあまり変わらないだろうか?
ミスリルの剣の切れ味が良いこともあるだろうけど。
単に攻撃力が上がっただけか?
と、思ったのも束の間。
切断されたところは互いにくっつきあい、元に戻った。
再生力も強化されている。
「千斬殺!」
ロイスが掛け声と同時に強力な斬撃を繰り出す。
幾重にも折り重なった斬撃の嵐。
謎のモンスターは木っ端みじんに切り裂かれた。
「こいつ、攻撃力がかなり高いみたいだな。 しかも一太刀当てても元に戻る」
「多少斬っただけでは元に戻るわけか……。 おそらくこいつもこの蔦たちと同じようなもんだろう」
そうロイスに伝えると先ほどのモンスターが出現する。
しかも数えるのも馬鹿らしいくらい。
「如月、いっぱい来たぞ……」
鬼畜すぎるだろこのダンジョン!
一つ前の階層と比較にならないレベル。
この世界そのものが人の生存を許さない。
そんな意図をもって作られたような空間だった。
「アクセラレイト!」
物理行動を加速させる魔法。
これを自分とロイスに発動する。
「む? なんだこれは?」
「行動が早くなる魔法だ。 いちいちこいつらに構ってられない。 一気に突っ切るぞ!」
立ちはだかる蔦の怪物を弾き飛ばし猛烈なスピードで森林を抜けていく。
多少斬っただけではすぐに再生してしまうし、あいつらの攻撃は止まらない。
だから、斬るのではなく吹き飛ばすことにしたのだ。
ロイスも剣の腹で殴打しノックバックを発生させる。
疾走し森の中を一気に駆け抜ける。
そして、森が途切れた。
塔だ。
何かの遺跡のような風貌をしている。
苔むした外壁と風化したような見た目。
そして思ったよりも大きかった。
背後には大量に押し寄せる蔦の怪物が津波のように押し寄せる。
比喩ではない。
文字通りすべての蔦が絡み合い、一つの巨大なモンスターと化していたのだ。
もはや手が付けられないレベルにまで成長している。
「入口が見えたぞ!」
ロイスが声を上げる。
しかし、あの蔦の怪物、かなりの速さだ。
このままでは追いつかれてしまう。
「先に行け!」
「わかった!」
振り返り魔法陣を展開する。
ほとばしる炎、焼け付く熱線。
尋常ではないエネルギーがあふれ出る。
あまりこの魔法は使いたくなかったんだが、背に腹は代えられない。
遺跡の入り口から怪物の位置まで巨大なドーム状のバリアを形成する。
だが、それも容易く破壊された。
わかっていたことだがこいつらはエーテルを吸収しているためバリアは通じない。
ならば、吹き飛ばす!
「カグヅチ!」
励起されたエーテルはすべてを焼き尽くす炎となる。
広範囲を蒸発させる火魔法の最高峰。
触れたものは最後。
原形すらとどめていないことだろう。
いわずもがな。
目の前にはドロドロと溶けた金属の海が広がっていた。
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