第57話 新緑の機構世界3
ロイスは空中に響くような大きな悲鳴を上げていた。
落ちても下は木が生い茂っているし、彼女の身体能力なら全く問題ない。
それなのにどうしてこんなにもうろたえているのだろう。
……無駄なことは考えても仕方ないか。
俺は流れに身を任せる。
しかしバリアが破壊されるなんて想定外だった。
あのまま空中を進んでいても足場が破壊されるだろうししかたない。
まぁ破壊されても空を進んでいく方法はあるにはある。
だが今の状況を考えると少し難しいと言わざるを得ない。
その方法とは足裏だけにバリアを展開する方法だ。
単純に、足へ力を入れるときだけ、その床となる足場を作り出す。
そうすれば通ったあとの足場は用済みとなる。
用済みの足場は壊されても影響はなくなるのだ。
ただし、それは俺一人の場合に限る。
やはりというかなんというか、ここでもロイスが問題に上がってくる。
もしこの作戦を実行した場合、ロイスが宙ぶらりん状態になる。
きっと今まで以上に俺の手にダメージを与えることになるだろう。
それはぜひとも避けたい。
だから潔く森の中を進んでいく方がいいと思ったのだ。
空中にいても、この蔦から攻撃されるのは変わらないだろうしな。
それにあの蔦は厄介極まりない。
いくら攻撃しても生え変わってくるし、エーテルを吸収しているような気配もする。
一つ一つは対処が簡単だが、そのしぶとさ、対処のしにくさは相当なもの。
難敵と言ってもいいだろう。
一々立ち止まって相手をするのは好ましくないモンスターだ。
モンスターなのかさえよくわからないのだが。
そんな考えを浮かべつつ落ちていく。
「あああああああああああああああ!」
「大した痛くもないだろうに、どうしてそんなに怖がるかねぇ……」
だんだんと近づいてくる地表面。
やはり蔦以外は普通の森のようだ。
そんな折、ロイスとは異なる声音が俺の耳に届く。
「……あれ? どうして私……死んだはずじゃ……」
「目が覚めたか?」
「だ、だれ?」
落下の風切り音で少し聞こえにくいが確かにそう聞こえた。
少し暗い雰囲気をしている奴隷の少女。
頭はまだ冴えていないみたいだな。
ふわりとした重力落下の最中。
このタイミングで目を覚ますのか……。
「悪いが説明してる時間はない、少し落ち着いてから話す」
「……わかった」
散々な目にあっていたというのにすごく落ち着いているな。
いや、逆に酷い目にあわされたから諦めがついているという感じか。
死の運命を受け入れているんだろう。
ひとまず安心できるところまで移動したい。
不幸中の幸いというかなんというか。
落下地点に落とした剣が見えてきた。
剣があれば多少エーテルを温存できる。
使うに越したことはない。
いや、しかし、なんだあれは?
近づくにつれて違和感が増していく。
そう、それはもはや剣とは言えないものになっていた。
それこそスッパリと刃物で切り裂かれたような形だ。
どうしてあんなことに?
しかし、悠長に考える暇も与えてくれない。
落下途中に例の蔦が襲い掛かってきた。
四方八方上下左右、あらゆる方面からの波状攻撃。
だが、なめてもらっては困る。
俺もそこそこの困難は掻い潜ってきたつもりだ。
物質を分離する超平面を出現させる。
俺のやっていることが理解できない人はとてつもない斬撃を出現させたと考えることだろう。
現れた敵をまとめて切り落とし、振り払う。
できるだけこちらに接触しないうちに対処する。
切り落とされた蔦が地表へと落下する。
そしてそのおかげで気づいた。
蔦の一部が木々や草むらに接触するたびバラバラになっていくのを。
包丁で豆腐を切るような感じの、実に滑らかに切り裂かれている。
……あれはまずい。
「ロイス! あの植物やばいぞ!」
「ああああああああああああああ!」
ロイスはそれどころじゃない。
なんなんだよあれは!
ただの植物じゃない!?
この森事態も危険地帯ってわけなのか……。
今更空中にも戻れない。
それならば、安全を確保しなければ。
地表面スレスレにバリアを展開。
範囲は少し広めに……
根元から、ザンッっと植物らしきものを切断する。
これだけでは不可思議な植物に接触してしまう。
だから、これで吹き飛ばす!
バリアで魔法陣を描き、エーテルを注入。
励起したエネルギーを魔法へと変換。
「ゲイルブロウ!」
どんな巨体でも吹き飛ばしてしまう圧倒的風力。
地上に打ち付けるダウンバーストは、切断された木々や草を一掃する。
森林地帯の一部が更地と化した。
今の攻撃で周囲の蔦も吹き飛んだみたいだ。
だが、ただの時間稼ぎだ。
「ぶつかるーーーーーー!」
俺は重力魔法を使い、ふわっと着地する。
ロイスにも同じ魔法を使ってやろうか……。
地面とぶつかる寸前にふわっとロイスも着地した。
「わっ……っと、し、死ぬかと思ったぞ」
「ロイスならこんなことしなくても大丈夫だったろうけどな」
「そ、そんなことはないぞ!」
「それよりも一気に塔までいくぞ。 あの植物だか機械だかわからない蔦が襲ってくる」
ロイスの表情が変わる。
エーテル残量も気になるところ。
少しでも剣で牽制できればいいのだが。
マジックポーションというものもあるし、足りなくなった場合はそれに頼るのがいいだろう。
「あと、ここの植物、植物に見えるが植物じゃないみたいだ。 かなり危険なものだと思った方がいい」
「だから、ここを更地に変えたのだろうか? 色々聞きたいことはあるのだが……」
「言いたいことはあるだろうが、今は一刻も早くここを抜け出さないとだな」
そこらへんに落ちている石ころ、いやこれも金属で出来てるな……それを森に向かって投げる。
その金属塊は木の葉にあたるとスパッと切れてしまった。
「恐らくあの木、何かしらの金属みたいなもので出来ている。 そんじょそこらの名刀を鼻で笑うような切れ味だ。 下に生えている草もそうだ」
「……信じられん」
「誰も戻ってこない理由がわかってきた気がするな」
木々の間から蔦が伸びてくる。
休む暇を与えない容赦のない攻撃が畳みかける。
蔦の攻撃力が弱いが、その理由が分かった気がする。
少しでも引きずらせることが出来れば森の植物に接触しバラバラになるからだ。
これが機構世界というものなのだろうか。
「ロイスも戦力に加えていいんだよな!?」
「ああ、もちろんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます