第48話 奴隷
昼間の温かさは無くなり少し肌寒くなってきた。
月光を受けて輝くのは先ほど購入したエメラルドグリーンの剣。
透き通った刀身からは一種の美しさを感じる。
お金はギリギリだったがなんとか買うことができた。
金貨80枚という高額品。
ダンジョンに行けばすぐ稼げるだろうし、そんなに痛手でもないだろう。
剣を買ったあともアイテムショップで買い物を続けた。
城の人から支給品は出るものの、実際にどんなものが売られているのか気になっていたのだ。
現代世界では見ることのできなかった珍しいものがたくさん。
特にマジックポーションには心を惹かれた。
名前の通りMPを回復することができるアイテムである。
俺のようにMPに難がある人にはうってつけのアイテムだろう。
結構有用なアイテムのようだが、どうして城の人はくれなかったのだろうか?
ダンジョンの上層では必要なしと判断したのかどうなのか……。
まぁあれこれ考えてもしかたないか。
その他、気になったものとしては、アイテムを収納する不思議な袋がある。
見た目に反して容量の何倍、何十倍というアイテムが入る代物らしい。
ダンジョンていた。
手持ちに余裕があれば買いたかったが、もうお金がない。
店の人も原理はわかっていないようだったが、なんでも内側は亜空間と繋がっているらしい。
そこにいろんなものを保管することができるのだそうだ。
俺にも空間魔法の知見はあるし、工夫次第では同じものが作れるかもしれない。
あとで試してみよう。
飛騨、桜田と別れたあとは街をブラブラしていた。
何物にも囚われることのない自由な時間。
そんな何気ない散歩は楽しささえ感じる。
この世界がどんなものなのか、どんな人が生活しているのか。
城の中にいるだけではわからない情報がどんどんと流れてくる。
多種多様な人種が行き交い、周辺諸国の情勢を語り合いう人、町で流行しているものについて話しをしている人など様々だ、。
自然に聞き耳を立ててしまう。
特に今のところはデモンズロードの話題が多いようだった。
先日起きた城への襲撃事件。
この事実はラウム王国の人々にも知れ渡っていることだろう。
大々的に城からも通達が出ており義勇軍の編成も進められているようだ。
ついに1000年に1度の戦いが始まる。
不安になる者、勇み戦おうとする者。
反応は様々であった。
そして散策しているさなか、ある建物を見つけた。
その店を見ると嫌悪感を抱かずにはいられない。
なにせ人を売る商売。
つまり、奴隷を売っているところだ。
元の世界でも奴隷と言う存在はいたのだろうし、恵まれない人々も多くいたのだろう。
しかし、実際にこの目で見てしまうとどうしても心が揺り動かされてしまう。
なぜならば、彼らは物として扱われるからだ。
そんなことはあってはならないと思う。
まぁそれは個人的な見解だ。
だからこそ実際の現場を見てみないとわからないことも多いと思う。
国が奴隷を認めているならばなおさらだ。
商売というのはある程度のルールがあって、それに基づいて行われるはず。
信頼のない店で物を買うよりも、信頼できる店の方が買いやすい。
ぼったくりもされるかもしれないし。
周囲の建物より一回り大きい店で、中に入るとちょっとした異臭がする。
所狭しと並べられている鉄格子。
その中には奴隷がいた。
ボロボロになった麻のような服を着ている。
男も女もいるがどの人たちも比較的若い。
少なくても年寄りはいないという感じだ。
そして種族も様々。
耳の長さが特徴のエルフ。
比較的背の小さいドワーフ。
猫と人間を足して2で割ったような猫人。
一部虫の外見をしている虫人。
どの奴隷も一様に目が死んでいる。
それもそうだろう。
自由を奪われ冷たい鉄格子に閉じ込められている。
そして自分が物として売られていくのだ。
希望も何もあったものじゃない。
そんな絶望を今、彼らは感じているのだろう。
俺が店に入ったのに気付き店員のような人が現れる。
中年のおじさんといった感じ。
身なりは特に悪くも良くもないといったところ。
「いらっしゃい。 どんな商品をお探しで?」
商品と言われ少しムッっとする。
こいつらだって必死に生きているのに……。
だが、相手も商売人だ。
落ち着いて話そう。
「奴隷の相場がわからないんだが、教えてくれるか?」
「お客さんこういうとこ初めてですかい?」
「ああ」
「人間の奴隷は金貨20枚、獣人とドワーフは15枚だ。 エルフは希少だから、ちーっと高いが金貨300枚ってとこだな。 もちろん性能や見た目で値段は大きく変わる。 有用なスキルを持っていればそれだけで価値が上がるのさ。 女の奴隷は性奴隷にも使われるんで見た目も重要だ」
思ってはいたが高い。
しかし、手が届かないわけではない。
ダンジョンで金を稼げばこの人たちを助けることができる。
簡単なことだったのだ。
店主は話を続ける。
「特にうちのおすすめはこの子だ」
真っ青な髪に青い肌。
ヒレのような形をした耳。
そして鱗でびっしりと纏われている尾びれ。
なんとも美しい存在だった。
「こいつはウンディーネだ。 めったに入荷しない種族で安く見積もっても金貨2000枚は欲しいところだな。 人魚と違って足が生えているから陸でも生活できるレアな種族だ。 魔法適正能力も抜群に高い」
青い瞳が俺を見つめる。
とても冷たい視線だ。
2000枚か……。
「ま、にいちゃんには少しばかり値が張るかな」
「そうだな、こいつは少し無理だ」
「で、どんな奴隷が欲しいんだ?」
一刻も早く彼らを解放してあげたい。
だが、もうお金が……。
こんなことなら剣なんか買うんじゃなかった。
代わりにこの剣と取引はできないだろうか。
「この剣と物々交換ってのはできるのか?」
「……馬鹿いっちゃいけねぇよ。 俺は剣がどのくらいしてるもんなのかしらねぇんだ。 買うなら現金持って来な。 ちっ、とんだ冷やかしだな」
幸いにも手段がある。
ダンジョンに行かなければならない。
金で解決できるのだから、何も問題はない。
今、俺に必要なものは金だ。
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