第47話 不思議な剣

 店の中に入ると街の雑音が少し和らぐ。

 アンティーク調の内装をしており、なんだか落ち着く雰囲気だった。

 展示されている武器は多種多様。

 剣はもちろん弓や槍、加えて杖などがあった。

 ごく一般的なラインナップだろう。

 店の大きさも中々で、俺たち以外にもお客さんはいるようだ。

 彼らは思い思いに武器を手に取り、感触を確かめている。

 重さはどうか、値段はどうか、さらには刃先を熱心に確認し品質の良さを確認する。

 見た目も重要だし、それらすべての項目に納得がいくまで丹念に調べる。

 そして気に入ったと思ったら値札を見てそっと戻す。

 まぁ家電とかちょっと高いものを買うみたいな感じなんだろうな。

 冒険者にとっては生活必需品だし。


 そう考えると武器は結構高いものなのかもしれない。

 もちろん安いものもあるだろうが、そういったものは大した性能を持っていないと思う。

 もしくは、すぐ壊れるとか。

 そんな信頼性の乏しいものを買うわけには行かないし、命を預ける大事なもの。

 だからこそ、買う人は自分に合うものを真剣に選ぶ。


 その点では資金面のハードルはクリアしているといっても過言ではない。

 ……たぶんだけど。

 ジャラジャラとした音がする革袋を少し覗く。

 そこには黄金色に輝く金貨がたんまりと入っていた。

 何を隠そうこれは、ダンジョンで拾った魔石を換金したものだ。

 数にして約85枚。

 相当な金額になるだろう。


 ギルドで食べたチキンが銅貨5枚なので、大体これを500円と考えると銅貨は100円。

 銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚なので、それぞれ銀貨が1000円、金貨が1万円ぐらいの価値があると考えられる。

 つまり俺は、日本円で85万円くらい持っているとみていいだろう。

 武器も高いものは高いのかもしれない。

 しかし、85万円も持っていればかなりいい武器が買えるはずだ。


「あ、これよくない? あんたにぴったりよ」


 自分でも一つ一つ見ていこうと思った矢先、桜田から声を掛けられた。

 桜田の持っている剣は鈍い茶色見を帯びている。

 よく見ると刃はガタガタ、茶色い何かにコーティングされているのかと思えば錆だった。

 周りを見てみると店の隅に置かれている樽から持ってきた見切り品。

 こいつ本当に何しに来たんだ……。 


「なんでそんなボロボロの剣買わないといけないんだよ!」

「えっ!? あんた、とりあえず格好付けばよかったんじゃないの!?」

「そんなわけあるか! ちゃんと使えないと意味ないだろ!?」

「どうせ使えないんだから、高い剣でも安い剣でも関係ないでしょ?」

「ま、まぁまぁ二人とも落ち着いて」


 丁度良いタイミングで飛騨が止めに入る。

 桜田のやつ馬鹿にしやがって……今に見てろよ。

 剣術は習い始めたばかりでお世辞にもうまいとは言えない。

 反論しようもないのがつらいところ。


 そういえば桜田はどうなのだろう。

 大層なスキルを持っていると聞いたが、実のところよくわからない。

 本当はあいつも大したことないんじゃないだろうか?

 基本的にスマホで遊んでいるだけに見えるし、武器を持っているとこさえ見たことがない。

 というか前から気になっていたんだが、どうしてこの世界でスマホが使えているんだ?


「そういや桜田のスマホって何で動いているんだ?」

「スマホががんばってるからよ」


 ……こいつ何言ってるんだ。


「頑張ってるってわけわかんねぇよ!! そもそもお前、武器はどうしたんだよ!」

「武器? 私に武器なんて必要ないのよ?」


 全部飛騨君が倒してくれるし、と付け加える。

 あきれたやつだな……。


「飛騨もこんなのでいいのか!? 全部お前にまかせっきりだぞこいつ!」

「人には得意不得意があるし、仕方ないよ」

「得意不得意以前の問題な気もするんだが……」

「如月の言うこともわかるけど桜田は少し特殊なんだよ。 スマホが動いているのもスキルに関係するものだしね」

「スマホを動かすスキル?」


 そんなスキルもあるのか。

 この世界はなんでもありなのかよ……。

 でもスマホを動かせるだけだとあんまり使い道はない気がする。

 ネットにつながっていないと情報も得ることはできない。

 異世界なのだから現代の情報が見れても意味はない気がするし。


 加えてスマホ1台だけではさらに有用性が狭まる。

 他人と連絡をとったりするツールが使えるわけでもない。

 電話をかけても話し合うことも出来ない。

 なにせ動いているのは桜田のスマホだけだからだ。

 スマホ単体で動かせるとしたら時計やメモ帳くらいか。

 カメラもそういう意味では使えたりするのかもしれない。


「スマホ動かせるだけじゃ役に立たないだろ……」

「はぁー? あんたよりよっぽど使えるわよ!」

「いやだってなぁ……」


 今の局面、必要となるのは敵を倒す戦力だ。

 それは間違いない。

 だから、スマホを動かせるからといってそんなものが必要になるとは思えない。


「疑問に感じるのも最もだけど、普通のスマホとは少し違うんだ」

「そうよ私は役に立つ女なのよ。 あんたと違ってね」


 いちいち余計なことをいうやつだ。


「実は俺と桜田と東雲には新しいスキルが追加されたんだ。 桜田が覚えたのはクリエイトっていうスキルなんだけど、物体を改造していろんな機能を追加できるような能力と思ってくれればいい」

「そんな単純なものじゃないっぽいんだけど、使いやすいスマホにその機能を集約してる感じね。 だから、私はスマホがあれば武器なんかいらないのよ」

「そういった意味ではスマホが武器、ということになるのかな」

「スマホが武器……?」

「そうね。 例えば……」


 スマホを取り出しサササと操作する。

 すると桜田の周囲に鈍い光が浮かび始めた。

 まるでゲーム画面のウィンドウのような。


「こっちの画面は周囲を表示したMAPね、こっちは登録している人の現在の状況を確認できたりするのよ。 HPが減っていないか確認して、減っていたら私の魔法でHPを回復させるし、危なそうな敵が出てきたら補助魔法をかけるの」

「ぐ、なんかすごい使えそうだな……」

「だから言ったでしょ? 私は使える女なのよ。 魔法を掛けるのも直接画面に触れればいいだけだから危険地帯に飛び込むこともないし。 そ、それに飛騨君が私を守ってくれるし」

「もちろんさ」


 MAPに表示されている点は生物を表すものらしい。

 色分けもでき、例えば見方を青の表示、敵を赤の表示にすることもできるそうだ。

 大まかな相手の力量も判断できるらしく、後方支援という意味ではとても役に立ちそうなスキルだった。

 めちゃくちゃ馬鹿にしてたんだが、ここまで応用の効く能力だとは思わなかった。

 素直にすごいと感じる。


「そのスマホで良さそうな剣を見つけたりもできるのか?」

「え? あんたこの剣でいいでしょ?」


 再びボロボロの剣を俺に差し出す。

 くそう馬鹿にしやがって!

 いつか痛い目に合わせたいところだが、ここは我慢だ我慢。


「まぁ冗談は置いておいて、どんな剣が欲しいのよ?」


 急にまじめになると調子狂うな。

 ミスリルの剣とは対照的な剣が欲しいわけだが、どういえばいいだろうか。


「ただ斬るだけじゃなくて特殊な能力みたいなのついていると嬉しいんだが」

「曖昧な答えね……まぁいいわ適当に検索してみようかしら」


 そういうと桜田はスマホに何やら入力し、サクサクと操作をしていく。

 本当は飛騨に選んでもらう予定だったんだけど、どうしてこうなった。


「普通の剣じゃないものね、えーっとえーっと」

「何か良さそうなのみつかったか?」


 俺に目もくれず店の中を歩き回る桜田。

 どうやら1階ではなく2階にあるようだ。

 階段を伝い足を踏み入れる。

 2階もあまり雰囲気はかわらないが、少し高めの武器が置いてある気がする。


「これはどうかしら?」


 何気なく桜田は一つの剣を持ち上げる。

 結構重いようで、両手で持たないと落としてしまいそうだ。

 無骨な作りで、鞘もついていない。

 しかし、他の剣と違い目に付くところがあった。

 エメラルドグリーンの刀身だ。


「魔法剣と呼ばれる類のものらしいわね。 MPを注ぐと魔法が発動するとかなんとか。 値段的にはちょっと高いみたい。 だけど、特殊なものと言ったらここではこれ以外なさそうね」


 はいっと言って桜田は俺の手にその剣を預ける。

 MPを持っていかれるような感覚があり、刀身が少し輝く。


「俺もその剣は良さそうな気がするな。 ミスリルの剣に比べたら、ミスリルの剣のほうが良いと思うんだけど」


 飛騨の太鼓判ももらえた。

 重さもしっくりくる。

 動きやすさを考えるとこのぐらいがちょうどいいだろう。

 何より魔法が放てる武器っていうのがいい。

 この世界の魔法にも色々触れてみたいし。


「確かに飛騨の言う通り良さそうだ」

「ふふん。 私に感謝しなさい」

「桜田もありがとうな」


 心のこもっていないありがとうを彼女に伝えよう。


「ところであんたお金もってるの?」

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