第44話 見てはいけないもの
そういえばデネブというやつに遭遇したのは城の人にも報告済みだ。
まぁ、厳密にはロイスの兄であるマグナスとアリオーシュだけなんだけど。
カノープス含めデネブや新たに現れたレグルスという魔族。
奴らは桁外れだ。
圧倒的強者が放つオーラ。
疑いようのない実力を兼ね揃えている。
それに加えおどけた顔で人を茶化すように戦闘する様子。
彼らは自分が負けることなど一切感じていないようだった。
デネブというやつについても同じだ。
人をおもちゃのように観察し手玉に取る様子。
あいつの言っていた通り俺を見に来ただけだったのだろう。
多少なりとも加減をしていたが、あいつに一切のダメージを与えることはできなかった。
加えて数多の不思議なアーティファクト。
街が破壊され、多くの人が死んだはず。
それなのに、すべて時間を巻き戻したかのように元通りになったのだ。
アークトゥルスが言うには、俺たちが探す予定の伝説のアーティファクトと呼ばれるものも持っていたらしい。
本物とか本物じゃないとかそんなことはわからない。
だが、こちら側の陣営としてはよくない知らせだ。
人類存亡の危機を打破するアーティファクト。
ラウム王国の希望として、取りに行く予定であったアーティファクト。
それを既にあちらは保有しているということになる。
これが王国軍に知れ渡れば混乱を生むことだろう。
だからこそ、マグナスとアリオーシュは口外を避けているのかもしれない。
とりあえず、俺の魔法がかかっているカノープスはなんとかなるはず。
警戒すべきはデネブとレグルスという魔族だ。
幸いバリアで防げる攻撃と防げない攻撃があることはわかっている。
いくらあいつらが強くても、カノープスほど馬鹿げているわけではない。
大勢の異世界の勇者に加え聖騎士やブラックナイトがいるのだ。
まだまだ希望は残されている。
もしかして、この状況を打ち崩すために俺はここまで魔法を極めてきたのかもしれないな。
そんなことを考えながら城内をうろついていると怪しい人影が見えた。
漆黒の鎧を身に包み、ふわっとしたブロンドのロングヘアーとお似合いの赤い瞳が印象的な少女。 左目には眼帯を装着し、斜めに被ったバイザー、頭には羽飾り、ひらひらしたスカートと禍々しい鎌のような武器を背中に背負っている。
ていうかラフタルだった。
「あ、ラフタルじゃん」
「貴様何しておるのじゃ! 早く隠れるのじゃ」
こいつはなんというかあほっぽくて話しかけやすい。
それよりこいつはなにしてるんだろうか。
アリオーシュが探していたんだけど、まぁいいか。
大した重要そうでもないし。
探し回ってる彼がかわいそうであるが。
「いいから早く隠れるのじゃ!」
「へいへい」
彼女に促され俺も茂みに隠れる。
ふんわりと草や木のにおいがした。
子供の頃とかこんなふうにかくれんぼしたな。
いや、しかし何が悲しくてこんなとこに隠れているのだろうか。
「……で?」
「で? ではないアレをみるのじゃ!」
茂みから遠くを覗き込む。
何やら人影が見えた。
長い黄金色の髪にカチューシャをつけた女聖騎士。
神々しい鎧とその凛々しい姿はまさに戦乙女というところだろう。
てゆうかロイスじゃん!
彼女の手元にはかわいらしい猫のような生物がいる。
あれはまさか、にゃーたんではないだろうか。
少し前の出来事を思い出す。
訓練初日の日に城内を散策していると怪しい人影を見かけた。
影から覗いてみるとそれがロイスだったのだ。
緩み切った表情でにゃーたんを溺愛する。
りりしい騎士の姿はそこになく、これは見てはいけないものだと確信した。
そう感じた次の瞬間、俺は大きな木に押さえつけられていた。
顔の横には刃こぼれの一切ない剣が深々と突き刺さり……。
「はぁ~にゃーたん今日もかわいいでちゅね~!」
「にゃー!」
「ああ、私はもうずっとにゃーたんと一緒に暮らしていくわ……」
「にゃにゃ?」
「もうあんな怖いお仕事は……」
やはりこれは前と同じ状況だ。
ジッとラフタルを睨みつける。
「見つかったらやばいじゃないか!」
「だから言ったであろう! 怒ったロイスは怖いのだ!」
「じゃあ俺はこれで……」
「待つのじゃ! 連帯責任という言葉を知っておるか?」
去ろうとした俺の服の裾を掴み必死に食い止めるラフタル。
まさか見つかった時に一人だと怖いとか、そんなこと抜かすんじゃないだろうな。
先に見てたのはお前のほうだからな。
俺は部外者だ。
「一人で怒られるより二人で怒られた方が良いとは思わんか?」
「勝手に一人で怒られてろよ! 俺を巻き込むな!」
くそっ。
こんなことしてたらばれるじゃないか。
早くその手を放せ!
必死に振りほどこうとするが、中々離れない。
無理に引きはがそうとすれば、服が引きちぎられる。
なるべくそれは避けたいところ。
「誰かそこにいるのか?」
まずい、やっぱり気づかれた。
どうしよう。
とりあえず降伏しよう。
話し合えばわかるはずだ。
第一ラフタルが悪いのだ。
それを話せば矛先はラフタルに向かうだろう。
よし完璧な作戦だ。
「なんだ貴様らか……」
「こ、こんにちはロイスさん」
「こ、こんにちはなのじゃ!」
二人とも声が裏返っていた気がする。
こうなったら覚悟を決めるしかない。
そうは思っていたのだが、今回は何か雰囲気が違うな。
まっさきに剣を突き立てられるのかと思っていた。
しかし彼女は剣を抜くことすらしなかった。
にゃーたんを抱きしめたまま、こちらを振り返る程度だったのだ。
これはおかしい。
もしかして俺は既にロイスの秘密を知っていて、ラフタルも公認されているとか?
いやいや。
そんなはずはない。
それだったら、ラフタルもこんなにコソコソしているわけないだろうし。
ラフタルと目を合わせる。
やはり彼女も同じような心境みたいだ。
なにが起こっているのかわからない。
「どうした? 私に何か用か?」
うむ。
普通のロイスだ。
いや違うか。
口調はいつもどおりだが、行動がおかしい。
「い、いや、特に用はないのじゃ!」
「そうか」
ロイスは一言返事をすると振り返り、再びにゃーたんと遊び始めた。
時々、「うりうりー!」とにゃーたんのお腹をなでる。
その笑顔がかわいらしい。
「怒ってないのか?」
「何の話だ?」
「いや、前はものすごい形相で怒られたからさ」
「そんなことか。 そんなことはもうどうでもよくなったんだ」
彼女なりに何か心境の変化があったのだろうか。
堅苦しい雰囲気を纏っているよりかはいい気がするけど。
「私は聖騎士になるため必死に頑張ってきたんだ。 この国を守る立派な聖騎士になろうとな。 だが、私は逃げたのだ。 死というものは何よりも恐ろしい。 だから私は……」
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