第43話 勇者のスキル
「シールド」
ミステリアスな雰囲気を醸し出す不思議な少女が一言口にする。
すると、謎の金属でできた盾が出現した。
同じダンジョン探索メンバーの下地のスキルだ。
彼女のスキルはペイントイマジネーションと言い、絵に書いたものを具現化できる。
一言でいえば万能と言って差し支えない。
魔法のようなこともできれば、身体能力を向上させることもできる。
補助的なことから遠距離攻撃も近距離攻撃も可能。
まさしく創造通りに具現化することができるのだ。
非常にずるいスキルと言っていいだろう。
対するは龍化のスキルを得た末永だ。
頭に真っ白な角が2本と、腕に鱗、鋭く尖った爪、長いしっぽが生えている。
今では髪の色もきれいな銀色に。
ますます竜人族とかそんなものになってきている気がする。
ギィンという耳をつんざくような音が鳴る。
ミスリルによりつくられた銀色の長槍による突き。
それが盾により弾かれたのだ。
下地は攻撃をただ弾くだけでは終わらない。
末永の足元を隆起させ空中へといざなう。
重力に逆らいふわっと飛び上がった彼女は身動きできず無防備な状態に。
そんな絶好のチャンスに下地は追撃を仕掛ける。
魔法のようで魔法でないとても不思議な攻撃だ。
「エアプレッシャー!」
圧縮した空気を吹き付ける技。
通常、自由落下により落ちてくるはずの末永。
しかし暴風により空中で身動きを止める。
恰好の的となった末永にさらなる追い打ちをかける。
「剣舞」
そう一言、口にするとスキルによりその事象が具現化する。
現れたのは無数の剣だ。
それらは下地の周りに土星の環のように配置され、くるくると回り空中浮遊する。
その一つ一つが意志を持つかのようだった。
まさしく剣が舞う、「剣舞」といったところだろう。
右手を末永のほうにむけると高速で周回していた剣が瞬時に停止。
剣先が末永に向けられる。
一呼吸をする間もなく、それらが末永に襲い掛かる。
「え、ええーい!」
末永のほうも動じない。
何とも間の抜けた声をだすが、これが彼女の平常運転。
振るわれる長槍はすさまじい力を秘めた一振りに。
舞い狂う剣をその槍圧だけで叩き落す。
はじき返された剣が下地に向かうが既にそこには彼女の姿はなかった。
特殊な歩法により瞬間移動したかのように移動する技術。
縮地というらしい。
これも彼女のペイントイマジネーションによるもの。
彼女の想像力がそのまま現世へ具現する。
思いのままに攻撃し、思いのままに移動する。
さながらゲームや漫画のキャラクターのようだった。
軽く添えられた手は末永の腹部に。
なんだかよくわからないがこれは気というものを使うらしい。
集中された力は静から動へと瞬時に切り替わり衝撃となって現れる。
「発勁」
ズンっと込められた力が彼女の体に伝わる。
既に下からの風は収まっており、自由落下と発勁による高速落下。
普通の人ならばひとたまりもないだろう。
石畳の上に激しく叩きつけられる末永。
地面がひしゃげるほどの勢いで追突した。
したのだが、彼女はケロっとした表情を浮かべ、ムクリと起き上がる。
……末永お前はいったいどうなっているんだ?
「いったいよおー下地さん」
「……普通ならいったいーじゃすまないと思うのだけれど」
「俺も同感だぞ末永……」
「ええっー! 二人ともひどくない!?」
下地も下地だが、末永も末永だ。
今まで普通の人として暮らしてきた彼女たち。
しかし、今ではとてつもない力を持つに至った。
勇者のスキルおそるべしである。
「でも末永さんが頑丈で助かったわ」
「えへへ、褒められたぁ~」
「私の夢だったこのキャラの再現も、あのキャラの再現も可能だなんて! 異世界に来て本当によかったわ! 見てなさい二人ともこんなこともできるのよ」
下地はそういうと手の平を合わせて、体の前へ突き出す。
手の先を開き、指を曲げるとそれを腰のあたりに持ってくる。
見てなさい、と、念を押すとぴかっと光るものが生まれ始めた。
「かー」
「……」
「めー」
「……」
「はー」
「……い、いやそれはちょっとまずいんじゃないか?」
「そ、そうだよ! なんか大人の事情とかありそうだよ!」
「……はぁそんなのどうだっていいわよ。 私は私のやりたいようにやるって決めたの」
「「いやいやいやいや!」」
末永と俺の声が重なる。
そんな自主練をしているとアリオーシュが城の廊下を伝い現れた。
「勢がでますねみなさん」
「アリオーシュさんこんにちはー!」
末永がぽわぽわとした雰囲気で挨拶をする。
こんなにまったりしている彼女。
今の様子からは信じられないほどの戦闘力を持ってるんだよな……。
龍ってコワイ。
「今日も午前中はパーティでダンジョン探索へ行ってきたのですよね? 午後はゆっくりと休憩しててもいいのですよ?」
「私は午後からもダンジョンに行きたかったところだけど」
「そう焦らないでください。 3日後には嫌というほどダンジョンに行ってもらいますから」
「そうだぞ下地。 長期間ダンジョン内に潜ることになるんだ。 色々準備が必要なんだろ?」
ダンジョンには転送装置が存在するが後半になってくると無くなるのだそうだ。
だから、食料や回復薬、寝袋や生きていくうえで必要なものを準備しなければならない。
特に第30階層を超えるとダンジョンの規模がさらに広大になり、一つの世界と言っても過言ではなくなるらしい。
敵も強くなるため万全の準備をしたうえで臨むのがいいだろう。
まぁ俺ならそんなもの関係ないけどね。
「今のうちにスキルのストックでもしておこうかしら」
「ええ、そういう準備は重要だと思いますよ。 下地さんのスキルは描いた絵を具現化する能力でしたよね? 貴重な戦力ですよ」
「ま、まぁ、私がいれば百人力よ」
少し褒められて照れている。
こういう素直に褒められることには慣れていないのかな?
「ところで如月さん、例の左腕はいかがですか?」
「ああ、ばっちりだ」
ミスリルでできた左手を握りしめる。
エーテルをなじませることで俺の思うままに動く。
今までなかった左腕が嘘のよう。
本当にいままでなかったのか疑問に思うくらいの自然さだった。
変な違和感もないし、作ってもらってよかった。
しかもミスリル製なのでエーテルを循環させているとほぼ重さを感じない。
実に丁寧な仕上がりのアーティファクトである。
アークトゥルスに感謝しなければならないな。
「本当に素晴らしい一品ですね。 アークトゥルスといえばこの国でも相当名のある錬金術師です。 彼の仕事であれば間違いないでしょう」
「へー、アリオーシュもあいつのこと知っているのか」
「無論ですよ。 私はこの国を守る立場にいるのですから、めぼしいところはほぼ抑えています。 でなければやっていけませんよ」
「ふーんそういうもんなんだな」
「そういうものですよ。 ですが、あの方は少々評判が悪いのです。 何でも奴隷を買い漁っているとか……」
奴隷を買い漁る?
奴隷というその考え方が俺は好きではない。
だが、奴隷自体は国が認めていると聞いた。
それがなにか悪いのだろうか?
「でもこの国だと奴隷は問題ないんですよね?」
「ええ、もちろん問題はありません。 私も風の噂で聞いた話しか知りませんが、何百人という奴隷を買っているそうなのです。 不気味だと思いませんか? 一体何のためにそんな大人数が必要なのか見当も尽きません。 人は得てして理解できないものには恐怖が芽生えるものなのです。 だから、そういう悪いうわさが流れているのかもしれませんね」
「そんなに悪い人には見えなかったけどな」
「気に留めておくだけでいいと思いますよ。 技量は一流ですからね。 安心して使ってください」
そうだな、噂は噂か。
この左腕のアーティファクトに罪はない。
大事に使っていこう。
「では、私はラフタル様を探さなければなりませんので失礼します」
そう言うとアリオーシュは去っていった。
あいつ、またどっかいったのか……。
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