第29話 天罰
激しい地鳴りが続き、森林地帯が一気に燃え上がる。
火山が噴火したような、そんな場所に連れてこられたような気分だった。
まだ戦いは続いている。
兄上たちとも合流したが、新たに加わったメンバーはいなかった。
追加で来てくれたのは勇者の飛騨という者だけ。
なんとも心もとないが仕方がない。
こちらに来ていないのには理由があるみたいなのだ。
兄上達はヴィネー様と合流し、ひとまず和解の交渉をすることを伝えたそうだ。
敵の強さは尋常ではない。
それはヴィネー様もいち早く察したようで、作戦には賛成してくれたそうだ。
だが、その交渉が決裂した場合はどうするのか?
この国の実力者が周囲を囲い戦う方法もある。
しかしそれではカイルの聖騎士隊の二の前になる可能性が高いとヴィネー様は考えたらしい。
作戦はこうだ。
兄上、私、ラフタル、師匠と飛騨は主に交渉役へ。
もし、交渉が決裂した場合は全力の一撃を持って奴を排除する。
そのために他の聖騎士やブラックナイトは王城の塔へ移動し待機している。
一人ずつの力では倒せない強者でも力を合わせれば倒せるはず。
ヴィネー様の奇跡のような技術と彼らのMPを根こそぎ使い放つ究極の魔法。
生物であればどんな奴でも原型を留めることはないだろう。
それを可能にするのが類まれなるヴィネー様の実力だ。
基本的にこの世界ではスキルによる魔法発動が一般的で、王道で、最強の攻撃手段になる。
上位のスキルがあればあるだけその人は強い魔法を発動できる。
それが常識なのだが、言い換えてしまうとスキル以上のことはできないのだ。
では、スキル以上のことを実行するにはどうしたらいいか。
それは上位のスキルにレベルアップすること、スキルの使用方法を工夫すること、スキル自体の理を捻じ曲げること、そのほかに全く別の手段を用いるものがある。もし、そんなことができるとするならば、その人は天才と呼ばれることだろう。
それがヴィネー様なのだ。
時々魔法の話を聞かせてもらうが、スキルの真理を読み解き、分解し、再構築していると教わった。私には到底理解のできないことだったのは言うまでもない。
例えば勇者召喚をするスキルなんて存在しない。
これも確証はないがスキルを統廃合して発動することのできた奇跡の魔法に違いない。
だからこそ、そんな奇跡を実行できるヴィネー様の作戦は、もしものときの保険としてこれ以上のものはないことだろう。
燃え盛る森林を進みついに奴を捉える。
天を突くようにそびえる巨大な木の根元に息絶え絶えな少年がいた。
足が変な方向に折れ、左腕が無い。
かなりの重傷にみえる。
……あれは如月!?
左腕がないのはもともとだった。
だが、スキルはバリアしかもっていない、有能とは程遠いい人物である。
剣術もそこそこ、能力値もそこそこ。
まるで面白みがない勇者だった。
そんな彼が、あの天災のような奴と戦っていたというのだろうか。
「如月……!」
息を潜めていた飛騨が声を荒げる。
仲間の危機にいてもたってもいられないのだろう。
やはり私も怖いけど、勇者の見本としてしっかりしなければならない。
これでも一応聖騎士として上に立つ者なのだから。
「落ち着け。 我々はあいつと戦うわけではないのだ。 まだ如月は生きている冷静に行くぞ」
「……わかりました」
どうやら決着はついているらしい。
何やら話合っているようだが、ここからでは聞こえない。
あの猛攻を耐えたのだから如月の評価を変えなければならないか。
……そうはいっても奴のほうはおどけて、傷一つついていないように見える。
笑ってしまうな。
私たちは一体何とたたかっているんだろう。
動きがあった。
奴はその場にしゃがみ、右手を地面にあてる。
しばらくすると何事もなかったかのように立ち上がった。
自らの体を確かめるよう眺めている。
何をしているんだろうか。
ここからではよくわからない。
その瞬間、ブルりと体が反応する。
突如として天から輝く光が降り注いだのだ。
極太のレーザー光線のような白。
まさに天罰と言ってもいいだろう。
周囲を真昼のように照らすその光は槍の如く着弾する。
奴がいた空間は一面真っ白に染まり、辺りを包みこむような光により視界を奪われる。
膨大なエネルギーを宿した攻撃だった。
これはまさかヴィネー様の……!?
いくらなんでも早すぎる。
交渉の余地はないということ?
「ロイスさんこれは一体!?」
「恐らくヴィネー様の……」
「これは間違いないですね。 短期にもほどがありますが……」
「アリオーシュの気持ちもわからんでもないな。 しかし、これだけの攻撃浴びせられたんだ。 奴がどんなに強くても骨一つ残らんだろうよ」
徐々に退いて行く真っ白な光。
物陰から飛び出す兄上は余裕の表情を浮かべた。
「なんだいなんだいこの生ぬるい光は? お返しだよ!」
視界の向こう側から声が聞こえる。
天から降り注いだ光。
それらは奴の左手に収束していく。
まさか攻撃を耐えるだけじゃないというの!?
斜め上に伸ばした左手の先には恐ろしいほどの熱量が集められていた。
解き放たれるエネルギー。
夜空に白く輝き、流れていく一筋の軌跡。
まぎれもなく人知を超えた力の塊だ。
回避手段などあるはずもない。
遥か遠くに佇む王城の塔へ到達。
跡形もなく吹き飛んだ。
ヴィネー様の攻撃が通じないどころか、反撃までしてしまうなんて……。
「ん~? なんか手ごたえがおかしいなぁ? これがさっきの魔法のちからなのかな? ねぇお兄さん?」
奴は倒れている如月に向かって話しかける。
しかし反応がない。
光の柱から防御するために最後の力を振り絞ったというところだろうか。
「お兄さーん? あらら、やっぱり限界だったみたいだね。 まぁいいか!」
奴の視線が私たちを貫く。
研ぎ澄まされた刃物を喉元に突き付けられた気分だ。
「それで君たちは何なのかな?」
兄上は険しい表情を浮かべている。
先制攻撃を仕掛けてしまったことへの後ろめたさもあることだろう。
何より必殺の一撃であったはずの攻撃がまったく効いていない。
そんな敵に対して言葉を交わそうとしているのだ。
「少し話がしたい」
「うん! なんだい?」
拍子が抜けるような返答だった。
これが本当に聖騎士隊を全滅させた奴の言葉なのだろうか。
兄上は脳をフル回転させ的確な質問をしようとしている。
相手の機嫌を損ねれば死がまっている。
そんな敵なのだ。
「お前の目的はなんだ?」
「僕の目的は強いやつと戦いたいだけなんだけど? あ、そうそう、そこにいるお姉さんにも伝えたはずなんだけどなぁ~」
「確かにそう言われましたが……」
「やだな~もしかして信じてなかったのかな?」
「では、この国をどうこうするつもりはないのか?」
「国とかそんなことに興味はないよ! そんなめんどくさいこと勝手にやってておくれよ」
「そ、そうか。 では、我々もこれ以上の追撃はしない。 ひとまず休戦はどうだろうか?」
「休戦もなにも僕は戦いを挑んできた人たちを返り討ちにしてるだけだよ? 強い人と戦いたい、そんな思いがあって挑んできたんだろうけど、そんな人たちとは戦ってあげなくてはかわいそうだろう?」
戦闘狂そんな言葉が思い浮かぶ。
奴の言葉が真実であるならば、こちらが手を出さない限り安全なはずだ。
「あ、でもお姉さんが連れてきたってことは強い人たちなのかな? そうは見えないけど」
「いや、とてもではないが貴殿には遠く及ばないだろう……」
「ふーん、そっかぁ~残念だな~。 まぁちょっと収穫もあったし僕は戻ろうかな?」
戻るとはどこへだろうか。
まさか、デモンズロードからこいつのような敵がわんさかやってくるのではないか?
想像しただけでもぞっとする。
あいつは斥候のような役割をしていて、その後本陣が攻めてくる可能性もある。
気が遠くなるような出来事だ。
そうであるならば人類に未来など無いに等しい。
「ま、まってくれ!」
「ん? どうしたのかな? 僕と戦いたいのかな?」
「ち、違う。 戻るとはどこへ戻るのだ?」
「どこって魔王様のとこだけど? 一応そういう約束でこっちの世界についてこれたんだからね」
「魔王だと!?」
こいつが様づけするほどの存在がまだいるというのか。
私たちはどうしたらいいのだろうか。
「そうそう魔王様魔王様」
「その魔王様とやらはこちらに攻めてくるのではないだろうな?」
「え? そうだけど?」
さらりと重大なこと発言を聞いた。
想像していたことが現実になる。
「まぁなんとかなるんじゃない? 魔王様そんなに強くないし」
「い、いやしかし、いつ頃やってくるのだ!?」
「うーん、あいつら遅いからな~。 2か月くらいはかかるんじゃないかな?」
「2か月後に来るだと……」
魔王が強くない?
何を言っているんだ。
しかも2か月後にやってくるという。
「あ、そうだちょっと思い出したんだけど、実験したいことがあったんだよね!」
奴の目が緑色に輝き始める。
無骨な大鎌を両手に持ち高まっていくプレッシャー。
この感覚は覚えがある。
初めて相対したその時に。
「やっぱり少しだけ遊んでもらおう!」
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