第27話 聖騎士というもの
「私が生き伸びれた理由ですか?」
「ええ、カイル様の聖騎士隊は全滅しましたが、ロイス様あなたは生きていらっしゃいます。 もしかするとそこに糸口があるかもしれません」
私が生き延びた理由は単に気まぐれだろう。
急に何かを発見したかのように飛び去って行ってしまったのだ。
そうでなければ私もそこの騎士達と同じようになっていたに違いない。
「一応ですが、何もしなければ手出しはしないと……」
師匠はふぅむ、と一息ついた。
この惨状を作り出しておいて手出ししないと言われても信ぴょう性が皆無だ。
「何もしなければ手出しはしない……ですか」
「そんなうまい話があるものか! 潜伏先を突き止め攻めるしかない! やらねばやられるのはこちらなのだぞ!?」
マグナスがアリオーシュの言葉に続く。
私も兄上の話は理にかなっているとは思う。
ただし、それは敵に対抗できる戦力がある場合に限る。
それほど聖騎士隊の一個大隊を壊滅させることは困難であるからだ。
「……私としては敵の弱点やら何やらがあるかもしれないと思い確認したのですが、意志の疎通も出来るほどの魔物なのですね」
恐らく魔物とは少し違うと思う。
魔物とは基本的に言葉を発することはない。
言葉を話す魔物もいるにはいるのだが、それは例外中の例外だ。
例えば吸血鬼やドラゴンなどは言葉を話すことができるが、そういったものは魔物と呼ばれない。
魔物に類するものではあるのだが、一定の知能があるものとして別枠にカテゴライズされている。
その他の例外として魔物使いという者たちがいる。
魔物と意思疎通を図ることができる特別なスキルを持っており、魔物を使役している者たちだ。
「魔物とは少し違うかもしれません。 多少変わっていますが、人に近い容姿だったと思います 肌は青白く、額には小さな角みたいなものが生え、真っ黒のピエロのような衣装を身に纏っていました。 ……よくおとぎ話で出てくるような悪魔と言ったところでしょうか……」
「なに!? 悪魔じゃと!? 我が粉砕してくれる!」
「いや、あんたじゃ無理でしょ……」
「無理じゃないのだ!! 我が本気を出せばどんなやつだろうとイチコロなのじゃ!」
一々突っかかってくるラフタルには本当に呆れてしまう。
なんで師匠はこんなやつの肩を持つのだろうか。
「まぁまぁ二人とも落ち着いてください。 ロイス様の話を聞く限り戦闘能力も高く、知恵もある敵というわけですね」
「俺たちが教えられてきた“魔物の大群が押し寄せてくる”って話とは少し違うんだな」
「そうですね。 私もとても強い魔物が現れたという認識しかありませんでした。 期待は薄いですが、意志疎通ができるのであれば一度交渉してみる価値はあるかもしれないですね」
「アリオーシュの言うことも一理あるが、期待はしないほうがいい」
「無論です。 迎撃の準備を整えて反撃できるよう準備をしておきましょう」
やはりもう一度あの死線をくぐらねばならないのか。
体がぶるりと震える。
奴の気を損なえば確実に死ぬ。
私はそう思う。
だからこそ私は何もできなかった。
今もその思いは変わらない。
「それで奴はどこに行ったんだロイス?」
「第五拠点を飛び越えてどこかに行ってしまいました」
「おいおい、ここを飛び越えていったってのか?」
第五拠点の要塞を見上げる4人。
天辺までは約50メートルもある巨大な城壁である。
全員が息を飲んだ。
「正確には羽が生えてきて飛んで行きました」
「そうだよな。 ここをジャンプで飛び越えるなんて正気の沙汰じゃない」
「……いえジャンプで飛び越えてから羽を広げて飛んで行きました」
言葉も出ないとはこのことだろう。
何物も通さないよう厳重に作られたこの要塞は千年もの間、敵を通すことはなかった。
それなのに奴は意図も容易く第五拠点を飛んで行ったのだ。
マグナスは一層顔を引き締めた。
「一旦王城に戻り精鋭を集める。 準備が整い次第、敵を駆逐する」
「わ、私は……」
「怖いのか?」
足がすくむ。
あいつだけはダメなのだ。
生存の補償がない命がけの戦いになるだろう。
いや、戦いにすらならない可能性が高い。
「例えどんな敵だろうと俺たちのやることは変わらない。 この国を守ることだロイス。 お前がどんな思いで聖騎士になったかは知らないが、聖騎士となったからには職務を全うせねばならない。 お前が今まで積み上げて来たものをすべて捨てて身を引くのならば一向にかまわない。 だが、本当にそれでいいのか?」
アリオーシュがあとに続く。
「私からも一言言わせてもらいます。 マグナス様のように私は騎士というものに拘りはありません。 命あっての人生ですから。 ですが、命を賭してでも守りたいものが私にはあります。 だから私は全力を持ってこの国の敵となるものを排除するのです」
「我もなのじゃ! 我より強い存在など許しはしないのじゃ! そんなもの滅ぼしてくれるわ!」
命を賭してでも守りたいものか。
いつも優しい母上や父君。
聖騎士隊のみんな。
士官学校で出来た友人たち。
ラウムの城下町の人々。
こんなにも守りたい人たちがいる。
それをいつも守ってきたのは私たち聖騎士のみんなだった。
みんながいなくなった私の人生はそれでいいのだろうか。
私だけのうのうと生きていていいのだろうか。
……そんなわけがない。
兄上も師匠もそれがわかっているのだ。
だからこそ力のある人たちが守らねばならない。
例えどんなに困難な状況だろうと私たちがやらねばならない。
「決心はついたか? ロイス」
「……はい」
「では王城へ帰還するぞ。 アリオーシュとそこのチビもついてこい。 聖騎士とブラックナイトをかき集めて交渉が決裂したときの準備をしておくぞ」
「我はチビではないのだ!!」
*
王城の広場へとクリスタルを利用して帰還する。
聖騎士である兄上マグナスと、ブラックナイトである師匠のアリオーシュ様とついでにラフタルだ。
いつもは静寂に包まれている王城は、いつもの雰囲気とは異なり、けたたましい轟音が飛び交っている。
これは何者かが戦いを行っている余波に他ならなかった。
屋上から縦に何かが突き刺さったかのような衝撃が伝わり、その次に王城が横に割れた。
構成している石畳の城壁が赤熱し、液体のように溶けて行っている。
「な、なんなのじゃこれは!?」
「まさか既にここまで!?」
あまりにも圧倒的なエネルギーの放出に私は見上げている他なかった。
横の三人も同じような状態である。
そして、王城の上半分が、水のようにはじけ飛んだ。
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