第17話 換金と黒い騎士
ダンジョン探索を終えギルドに出向く。
もちろん魔物から取った魔石をお金に換えるためだ。
魔物から取れる素材もいい値段がするそうなのだが価値がわからない。
毛皮だったり、角だったり、爪だったり素材になりそうなものはいくらでもあったが、わからないものはしょうがない。剥ぎ取ったりするのも大変だったし、全部取ってたらきりがないしな。
ということで俺は魔石だけを集めていた。
嵩張らないし、一つ一つがいい値段になると聞いたので十分だろう。
城から拝借してきたバックの中にはゴロゴロと魔石が転がっている。
大きなものから小さなものまであり、色も青、水色、緑、黄色等、様々だ。
紫色をしたやつはエクスキューショナーのだけだった。
やっぱりあれは高いやつだったのかもしれない。
ギルドの門をくぐりベンタナを呼び出してもらった。
カウンターの向こう側でキビキビと働いている。
……と思ったら、先輩っぽい人に怒られてる。
しばらく時間がかかりそうだ。
今すぐ別の人に代わってもらいところなんだけど、もう呼んじゃったしな。
しょうがない少し待つか。
ふぅと、ため息をついてカウンターに寄りかかる。
相変わらずお食事コーナーはわいわいとにぎやかだ。
手を広げた程の大きさをした骨付きチキンがやはり有名みたいで、見渡す限りみんながかぶりついている。
早く食べたい。
隣のカウンターには俺と同じく換金を待っている人がいた。
あちらの受付の人は優秀みたいで、出された魔石を手早く分類し査定していっている。
あぁ俺もそっちに並べばよかった。
何気なくみていると隣の人と目が合った。
漆黒の鎧を身に包み、ふわっとしたブロンドのロングヘアーとお似合いの赤い瞳が印象的な少女だった。恐らく年齢は俺と同じか少し下くらいだろうか。
「クックック……。 貴様も魔石の換金か?」
左目には眼帯を装着し、斜めに被ったバイザー、頭には羽飾り、ひらひらしたスカートと禍々しい鎌のような武器を背中に背負っていた。
かわいらしい少女だったが、恰好が怪しすぎる。
とりあえず当たり障りのない返事をしておこう。
「そんな感じですね。 今金欠で困ってたんですよ。 今日の晩御飯も食べれないくらいで」
正確にはお城に晩御飯が用意されているんだけどね。
自分のお金を持っていないし、間違ってはいないと思う。
しかし、そんな金欠状態からはおサラバだ。
ジャラジャラと溜まっている魔石を見て少しいい気分になる。
そこそこ稼げているはず。
あー早くベンタナさんこないかな。
「晩御飯も食べれないとはしょうがないやつだな。 それに引き換え我の回収してきた魔石を見るがいい! 高レベルの魔物からしか取れない魔石を選りすぐって取ってきたのだ」
自慢げに回収してきた魔石を見せびらかす。
少女が回収してきた魔石の多くは水色のものが多かった。
ということは水色の魔石が高く売れるのか?
俺も同じ色の魔石ははそこそこある。
なんか自慢げにしてるみたいだし適当に褒めておくか。
「へーすごいですね」
「そうだろう! そうだろう! 我の保有する魔眼とダークパワーが合わされば造作もないことよ! そして見るがいい! この美しいデスサイズを!」
背中の鎌を手に取り、ガンッ! と床に下ろす。
美しいといえばそうなのかもしれないが、どちらかというと怪しさの方が目立っている気がするな。
彼女はうっとりとした目でご自慢のデスサイズに頬ずりしている。
なんだか近づきがたい雰囲気だ。
「はぁ。 美しい……」
「そ、そうですね」
触らぬものに祟りなしだ。
深く聞かないことにしよう。
それよりも魔石の話だ。
「水色の魔石って高く売れるんですか?」
「貴様はそんなことも知らんのか? ……クックック、我は今、機嫌が良い。 特別に教えてやろう」
額に手を当て、変な笑い方をする。
変な奴だが根はいいやつのようで魔石について教えてくれた。
まず魔石には赤、オレンジ、黄、緑、水色、青、紫、黒、白の9種類の色があるそうだ。
赤が最もランクが低く、白が最もランクが高いとのこと。
ただ紫以上の色をした魔石は物理的に取得が困難らしい。
特に黒と白の魔石は伝説上の産物であり、古代の遺跡から取れるアーティファクトに内蔵されているぐらいしか発見できていないそうだ。
やっぱりエクスキューショナーの魔石は高かったんだなぁ……。
「魔石のランクは魔物の強さにも比例している。 今回我が取ってきた水色の魔石といえばA~Bランクの魔物が保有しているものだ。 つまりそれを持っているということは我が強いということに他ならない! 見るがいい混沌を宿す我が力を!」
ゴオッっとなんだか黒い靄みたいのがデスサイズに纏わりつく。
松田のやっていたものとなんだか似ているな。
めんどくさいのでとりあえずうなづいておこう。
そんな話をしていると精算が終わったみたいで受付から声がかかる。
「ラフタル様、換金が終わりました。 それとギルドカードのランクをAに、クラスをブラックナイトに変更しておきました。 ご確認ください」
「暗黒の力を操る我に相応しい称号だ! 貴様も精進するがいい!」
変な笑い声を高らかに上げつつ彼女は去っていった。
なんだったんだあいつは……。
ラフタルという少女がいなくなってからほどなくしてベンタナが来てくれた。
ちょっと顔色が悪くなっている。
ギルドの職員も大変なんだな。
「キサラギさんおまたせしました……」
「だいぶ絞られてたみたいですね」
「えぇそうなんですよ。 キサラギさんの試験のことで色々言われていまして……」
「俺のことですか? なんかまずかったんですかね……?」
「いえいえ! 試験も手続きも問題なくやりましたし、トラボルタさんの推薦ですから間違いありません! いきなりAランクに抜擢されることって中々ないことですからね。 それで根掘り葉掘り聞かれたのですよ……」
これが先輩社員による新人いびりとかいうやつなんだろうか。
まぁ俺に問題はなさそうだし気にしないでおこう。
「では、気を取り直しまして、本日はどういったご用件でしょうか?」
にっこりとほほ笑むベンタナ。
ナイス営業スマイルである。
俺はゴソゴソとバックを取り出す。
「魔石の換金をしたいんだが、お願いできるか?」
「はいはい! では中身を確認させていただきますね!」
バックの中を覗き込むベンタナ。
徐々に顔が驚愕の表情になっていく。
「えっこれ青い魔石じゃないですか!?」
「ああ、なんか青いな」
「青いな……じゃないですよ!? これってここらへんじゃアークドラゴンとかアークデーモンからしか取れないはずの魔石ですよ!?」
どうやらアークドラゴンとアークデーモンはSランクに匹敵するほど強い魔物で、並みの冒険者では太刀打ちできないらしい。あのちょっと固いなって思ったのがアークドラゴンって言う魔物だったのか。アークデーモンはなんか気持ち悪い骨のやつだな。あいつは弱かったけど。
「じゃあ結構いい値段になるのか?」
「いい値段……っていうレベルじゃないですよ! 1つ金貨20枚はするはずです!」
金貨20枚ってなんか凄そうだぞ。
相場がわからないので漠然としかわからない。
確か2つ青い魔石はあったのでそれだけで金貨40枚か。
金貨って高そうだよなー。
「うわっしかも水色の魔石もたくさんありますね!」
「やっぱりそれもいいのか?」
平常心平常心。
顔がにやけてしまっている気がする。
ちょっとした小金持ちになれそうだ。
「水色の魔石は1つ金貨1枚です! これも十分すごいものなんですよ」
カウンターの上に大小、様々な色の魔石が並べられる。
一応大きさによっても値段は変動するようで、やはり大きいものが高く売れるらしい。
ベンタナは魔石を色ごとに分類し、その数を専用の用紙に記載していっている。
「えー、青い魔石が2個、水色の魔石が30個、緑の魔石が28個、黄色が25個ですね。 緑の魔石は1つ銀貨3枚、黄色は銀貨1枚になります。 では貨幣の用意をしてまいりますので少々お待ちください」
もしかして城にいるよりダンジョンに籠っていた方がお得なのでは?
さっきのラフタルっていう子も水色の魔石を自慢してたくらいだからな。
しかも青い魔石はその20倍の値段だという。
恐ろしいな……。
そんなことを考えているとベンタナがお盆のようなものに金貨を積んで持ってきた。
「お待たせしました! 大きさも考慮して金貨85枚分です! うらやましいです……」
「ああ、ありがとう。 また、取ってきたらお願いするよ」
「はい! またいらしてください!」
私の株が上がりますから!
と、いらない一言を付け加えるベンタナだった。
*
早速、手に入れたお金を手に食事処へ。
ウエスタンチックな机と椅子が並べられ、その上にはメニュー表があった。
とりあえず周りの人が食べている骨付きチキンが食べたい。
すいませーん! とウェイトレスに声をかけ注文する。
しばらくすると皿の上にデデンと乗っけられたチキンが運ばれてきた。
程よい焦げ目と、振りかけられた香草がいい感じに焼かれ、食欲をそそる香りが伝わってくる。
豪快に右手で掴み、一口。
「ああ……うまい」
思った通りジューシーで、スパイシーな味付け。
みんなが頼んでいるのも納得で何度も通いたくなる味だ。
しかもこれで銅貨5枚だそうだ。
銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚らしいので、今日換金したお金だけで死ぬほどこのチキンが食える。
異世界ってすごいな……。
濃い味のものだと、何か主食みたいのが食べたくなる。
周囲を見渡すと、白いホクホクしたものを食べているのが見えたので、ついでにそれも注文する。
白いホクホクは銅貨3枚。
安い安いぞ。
少し待つと、木の皿に盛られた白いホクホクが届く。
見た感じ、じゃがいもを蒸かしたもののようだ。
食べてみるとほんのりとした塩気が絶妙なハーモニーを奏でている。
チキンの味の濃さとも丁度いい。
お腹が減っていたからかあっという間に全部食べつくしてしまった。
ちなみに水もお金がかかるそうで1杯銅貨1枚だった。
大き目の金属のコップに入っていたが少し高めな気がする。
やはり異世界だと貴重なものなのかもしれないな。
「おや? あなたは勇者さんじゃないですか?」
食後の余韻に浸っていたところ、なんだか知らない人に声をかけられた。
勇者ってことは城の人間だろうか?
こんなところにいるのがばれるとまずいのでは!?
後ろを振り向くと先ほどの少女、ラフタルと似たような恰好をした男がいた。
漆黒の鎧に身を包み、瞳は金色、少し日焼けしたような肌と短髪の黒髪の青年だ。
鍛え上げられたその肉体は鎧の上からでもわかる。
「えーっと、どなたでしたっけ?」
「私はアリオーシュと言います。 一応、城の騎士ということになっていますね。 あなた様のことは遠目で見かけたことがありましたのでそうではないかな、と。 まぁ私のことはどうでもいいです。 それよりもラフタル様を見ませんでしたか? ダンジョンで飛騨様達と一緒に入っていったはいいのですが、勝手に先に進んでいったようで……」
あいつ飛騨達の付き添いの人だったのか。
そういえば出発する前に黒い鎧のやつがいたようないなかったような。
「ああ、それならさっき魔石を換金してま……」
「アリオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッシュ!! 探したぞ貴様!」
はぁとため息をつくアリオーシュ。
ラフタルは例のチキンを口いっぱいに頬張り、リスのような顔をして叫んでいた。
「探したのはこちらですよラフタル様。 急にいなくなるわ、勇者さんたちのパーティーを放置していくわ……」
「ぐっ……、し、しかしだな我はこのギルドカードが欲しかったのだ! かっこいいであろう! 見るがいい!!」
銀色のギルドカードをアリオーシュに見せつけると、やはり自慢げなラフタル。
「どうだ!? ギルドカードにブラックナイトと書かれている! やはりこれは取っておかねばならないとずっと思っていたのだ!」
「はぁ……何言ってるんですか、あなたはそんなものなくても王城のブラックナイトのリーダーじゃないですか……」
「そ、そうなのだが、形というものは大事なのだぞ!」
「まったくしょうがない人ですね……」
あきれ顔のアリオーシュ。
「では、勇者様もほどほどに」
「あ、あの俺がここにいたってことは内緒にしておいて欲しいんですけど……」
「ああ、気にしないでください。 私はラフタル様にしか興味ありませんので」
なんだこいつもちょっと変な系か。
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