第18話 骨付きチキンとブラックナイト
早速、手に入れたお金を手に食事処へ。
ギルドのカウンターからはそこそこ離れてはいたのだが、魔石を換金している最中にも賑やかな笑い声が聞こえて来ていた。
どうやら大盛況みたいだ。
近づいてみると木造の机と椅子が並べられ、古い中世の雰囲気と西部劇で出てくるようなウェスタンチックな雰囲気が混ざり合ったそんなところだった。
冒険者と思われる人たちでほぼ満席状態。木で出来たジョッキを豪快にぶつけ合い、今日の成果を祝っている者、あまり成果が良くなかったのかしんみりしている者、既に出来上がって愉快に騒いでる者、それぞれ思い思いの夕食を楽しんでいる。
空いてる席を探し、テーブルの上のメニュー表を見る。
異世界召喚のおかげか、なんなく文字も読める。
不思議なもんだ。
とりあえず周りの人が食べている骨付きチキンが食べたい。
ジャイアントクックの骨付き肉と書かれているものがあったのでたぶんこれだろう。
すいませーん! とウェイトレスに声をかけ注文する。
ウェイトレスもベンタナみたいなウェスタンな服を来ていた。
ギルドカウンターの方は正装といった感じだったのだが、こちらはすこし露出度が高くかわいらしい感じ。みんなスタイル抜群で、あのくびれがなんともいえない。
しばらくすると皿の上にデデンと乗っけられたチキンが運ばれてきた。
程よい焦げ目と、振りかけられた香草がいい感じに焼き上げられ、食欲をそそる香りが伝わってくる。
豪快に右手で掴み、一口。
「ああ……うまい」
思った通り噛みついたところからジューシーな肉汁が溢れ、スパイシーな風味が口の中に広がっていく。
みんなが頼んでいるのも納得だ。
何度も通いたくなるそんな一品だった。
しかもこれで銅貨5枚だそうだ。
かなり安い。
メニュー表と比較すると、どうやら銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚みたいだな。
そう考えると、今日換金したお金だけで死ぬほどこのチキンが食える。
なんて素晴らしいことだ。
異世界万歳!
チキンはチキンでおいしいのだが、濃い味つけのものだと何か主食みたいのが食べたくなる。
他の人は骨付きチキン以外にも、白いホクホクしたものを食べていたので、俺も頼んでみよう。
再びウェイトレスを呼び、追加注文だ。
ふふふ、お金はいっぱいある。
名前がわからないので他の人が食べてるのを見てアレをくださいと注文する。
どうやら白いホクホクは銅貨3枚のようだ。
安い安いぞ。
少し待つと、木の皿に盛られた白いホクホクが届く。
真っ白い湯気が立ち上り、見た感じはじゃがいもを蒸かしたもののようだった。
食べてみると出来立てほやほやでとても熱い。
ほんのりとした塩気が絶妙なハーモニーを奏でている。
チキンの味の濃さとも相性がいい。
お腹が減っていたからか、あっという間に全部食べてしまった。
満足満足。
ちなみに水もお金がかかるそうで1杯銅貨1枚だった。
大き目の金属コップに入っていたが少し高めな気がする。
やはり水は異世界だと貴重なのかもしれない。
「おや? あなたは勇者様じゃないですか?」
食後の余韻に浸っていたところ、なんだか知らない人に声をかけられた。
勇者ってことは城の人間だろうか?
こんなところにいるのがばれるとまずいのでは!?
後ろを振り向くと先ほどの少女、ラフタルと似たような恰好をした男がいた。
漆黒の鎧に身を包み、瞳は碧眼、少し日焼けしたような肌と金色の短髪をした青年だった。
鍛え上げられたその肉体は鎧の上からでもわかるぐらいがっしりしており、ただならぬ雰囲気を出している。
こんなやついたかな?
「えーっと、どなたでしたっけ?」
「私はアリオーシュと言います。 一応、城の騎士ということになっていますね。 ちなみに、内緒で出かけられるのであればその服は目立つと思いますよ?」
自分の服装を改めてみると制服のブレザーであることに気付く。
……そりゃあそうだよな。
これじゃ丸わかりだ。
だからあっちも気づいたのか。
バレたらバレたでめんどくさそうだし、一応内緒にしておいて欲しい。
チクられたところで自由行動は許可されてるし、怒られることはないだろうけどね。
「すいません俺がいることは内密に……」
「承知いたしました。 私もロイス様と同様、勇者というものにあまり興味がないので、どうでもいいことですからね」
さっぱりしたやつだな。
「ところで私はラフタル様を探しに来たのですがご存知でしょうか? 私に似た鎧と左目に眼帯をした痛々しい子なのですが……」
痛々しい子!?
……それはおいておいて、ラフタルといえば確かさっき会ったやつかな?
発言も少しおかしかったし、たぶんそうだろう。
ってことはあいつも城の人間だったのか。
「ダンジョンで飛騨様達と一緒に入っていったはいいのですが、勝手に先に進んでいったようで、それ以来、音沙汰がないのです」
「滅茶苦茶自由奔放だな!?」
「本当に困ったお人です……私もラフタル様を探しに東雲様を置いて行かざるを得ませんでした……」
「お前もラフタルってやつと同じことしてるけど!?」
「背に腹は代えられないのです」
そんなにラフタルってやつが重要人物ということだろうか。
いやでもさっき痛々しい子って言ってたしなぁ。
ひとまず落ち着こう。
こいつのペースに乗せられたらダメな気がする。
飛騨達の付き添いの人だったということは、あいつも騎士か何かなんだろう。
そういえば出発する前に黒い鎧のやつがいたようないなかったような。
とりあえずさっきギルドカウンターにいたからそのことは伝えておこう。
「それならさっき魔石を換金してま……」
「アリオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッシュ!! 探したぞ貴様!」
バン! と大きな音を立てて叫ぶ人がいた。
例の骨付きチキンを口いっぱいに頬張り、リスのような顔をしているラフタルだった。
そのあともモゴモゴと何かをしゃべっていたが、うまく聞き取れない。
食ってからしゃべれよ。
ラフタルの姿を見てため息をつくアリオーシュ。
「探したのはこちらですよラフタル様。 急にいなくなるわ、勇者さんたちのパーティーを放置していくわ……」
「ぐっ……、し、しかしだな我はこのギルドカードが欲しかったのだ! かっこいいであろう! 見るがいい!!」
テーブルに足を乗せ自慢げに銀色のギルドカードを取り出すと、アリオーシュと言われた青年に見せつける。
「どうだ!? ギルドカードにブラックナイトと書かれている! やはりこれは取っておかねばならないとずっと思っていたのだ! 我に相応しいものだと思わないか?」
うっとりとギルドカードを見つめるラフタル。
頬擦りしている姿はアリオーシュの言った通り痛々しい。
「はぁ……何言ってるんですか、あなたはそんなものなくても王城のブラックナイトのリーダーじゃないですか……」
「そ、そうなのだが、形というものは大事なのだぞ!」
「まったくしょうがない人ですね……しかもそれAランクのカードですから、もう1ランク上のカードがありますよ? Aランクじゃブラックナイトのリーダーとして威厳もへったくれもないと思いますが」
「まじでか!?」
「マジです」
あきれ顔のアリオーシュ。
あほみたいな会話をしているが、ブラックナイトの話は聞いたことがある。
ロッジの座学の時にそんな名前が出て来ていた。
聖騎士の対となる存在それがブラックナイだト。
この国で聖騎士と言われるのは12人、対してブラックナイトは7人しかいない。
ブラックナイト7人で聖騎士12人と渡り合えるレベルなのだそうで、個人の技量としてはブラックナイトのほうが優れていると聞いた。
ただ、聖騎士とブラックナイトでは役割が異なるらしい。例えば聖騎士は味方の補助も得意としており、12人それぞれが500人規模の騎士団を保有し、大規模な戦闘に特化しているそうだ。対してブラックナイトは個人技に優れ、少人数で対応する仕事が得意だという。
つまりブラックナイトはこの国の有名人であり、戦闘においてはプロフェッショナルなわけだ。
そういう話で間違いない……はず。
はず、なんだが、この会話を聞いてるとなんだか胡散臭い。
「わかったアリオーシュ。 もう一度ダンジョンへ行ってくるぞ」
「わかったじゃないですよ……。 Sランクのカードが欲しいならギルドマスターにお願いして作ってもらいましょう」
「まじでか!?」
「マジです」
ラフタルはウキウキしながらギルドの奥に消えていった。
「では、勇者様もほどほどに」
アリオーシュと呼ばれた青年もその後について行く。
なんだか少し疲れるやつらだった。
ひと悶着があったが、再びわいわいとした冒険者たちの笑い声が聞こえ始めてきた。
俺もまだお腹に余裕があるし、せっかくだからもう少しだけ……。
骨付きチキンをもう1本頼んで食事を再開する。
やはりうまい。病みつきになりそうだ。
また明日も来よう。
食べ終わると、レジのようなところで会計を済ませる。
チキン2本と白いホクホク1皿、水1杯で銀貨1枚、銅貨4枚。
安い、安いぞ。
やはり世の中お金だな。
と思って店を出ようとすると、また変な奴らが現れた。
黒い鎧を着た一団である。
「すまない! 冒険者の諸君! アリオーシュ様とラフタル様を見かけなかったか!?」
……もう勝手にやってればいい。
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