第16話 ラウムのダンジョン4
順調に階層を進め、第30階層へ向かう階段にたどり着く。
金属サソリもそこそこ強かったのだが、他にも一癖二癖ある魔物が徘徊していた。
大きなぶよぶよした物体があると思ったら、その中から蜂のような生物が出てきたたり、地面から手が生えてきたと思ったら足をつかみ地中に引きずり降ろそうとする魔物などがいた。実に、バラエティに富んでいる。個々の強さも上の階層より上がっており、難易度は確実に上がってきている。
中でも驚いたのが骨だけで動いている魔物だ。
今までの魔物は何かしら生きるために必要な体があったのだが、骨だけで動くとはやはりファンタジー世界に来たのだなと実感する。
あとは巨大なトカゲがいたな。
やたら力が強くて頑丈だった。
ミスリルの剣は効いていたものの、通りが少し悪い気がした。
あとは浅黒い肌をした禍々しい悪魔みたいのもいた。
骨が皮膚の上に浮かび上がり、緑色のガラスのような瞳でこちらを睨んでいた。
まぁ凄みはあったのだが、ミスリルの剣がよく効いていたようで俺が魔法を使うまでもなかったな。
そしてやっとのことで第30階層だ。
第30階層は今までの階層とは異なり、小さな空間が広がっているそうだ。
ロイス情報なので間違いない。
そしてそこで対峙するのがエクスキューショナーという魔物だ。
執行者っていう意味らしい。
恐らく死刑執行人とかそんな感じだろう。
なんとも不気味である。
油断は禁物だな。
何せ一つのフロアを1体の魔物が牛耳っているわけ。
今までのフロアの敵とは比べ物にならないことだろう。
俺は第30階層に向けて歩みを進める。
コツコツと一段ずつ降りていくと、小さな小部屋にたどり着く。
階段の横にクリスタルがあったので忘れる前に座標の登録をしておこう。
さて、進む先には長い回廊がある。
奥にはチラッと光が見えた。
あそこがいわゆるボス部屋とかいうやつなのだろう。
ゲームとかはあまりやったことがないが、たぶんそんな感じに似ていると思う。
出口を抜けると、サァーっとヒンヤリとした風が通り過ぎる。
上方には煌めく星空が浮かんでおり、俺は思わず息を飲む。
そこには驚きの光景が広がっていたからだ。
周囲は高い塀で囲まれその上には客席のような椅子が並べられている。
静寂に包まれているが、ここはまさに闘技場そのものだった。
地面は砂で固められ、実に動きやすい。
随分と凝った作りだった。
さぞかし敵は強いんだろうな。
俺の出てきた反対側には例の魔物がひっそりとたたずんでいた。
白銀の鎧に身を包み、同じ金属で出来たような白銀の剣を持っている。
聖騎士の魔物バージョンといったところか。
中身は入っていないようで、鎧だけ。
それでも動いている。
あれがエクスキューショナーという魔物だろう。
ミスリルの剣を構え距離を詰めていく。
MPを通すとふわりと軽くなる不思議な剣。
それをブンと軽く素振りし、走り出す。
あちらもこちらに気づいたようで正面に剣を構え出した。
少し動くたびに金属鎧が擦れガチャガチャと音を上げる。
では、まずは小手調べ。
エクスキューショナーの下にバリアを展開。
形態変化、魔法陣を形成。
空中のエーテルを取り込み魔法が発動する。
「バーンストーム!」
圧縮された炎塊が、紅の柱となり敵を包み込む。
容赦ない熱波がエクスキューショナーを襲い、グギィと鳴き声なのか何なのかわからない音が聞こえた。
手ごたえはあった。
徐々に勢いを落としていく炎。
その中からやつの影が現れ、揺らめく。
鎧の表面は真っ赤に染め上がり、ギシギシとした音を出していた。
多少は効いているようだが、一撃では倒せないか。
動きはだいぶ緩慢になっている。
その隙を逃しはしない。
すかさず、手首を狙い高速の斬撃を加える。
しかし、エクスキューショナーも俺の剣筋に合わせて来た。
……ダメージを追ってもここまで反応するのか。
やはり強いな。
振り下ろした俺の剣は、エクスキューショナーの切り替えしで上向きに弾かれる。
剣が飛ばされることはなかったが、反動で体が大きくのけ反った。
エクスキューショナーは水平に剣を持ち変え、横なぎの一撃を繰り出す。
一つ一つの動作が早いし、切り返しもうまい。
俺のつけ焼き刃の剣術ではまだダメみたいだな。
このタイミングでは間に合わない。
エクスキューショナーの剣が到達する延長線上に直径10cmにも満たないバリアを展開。
小型の魔法陣へと形態変更。
エーテルを充填。
起動条件は衝撃が加えられた時に設定。
刹那の時間ですべての工程を完了させる。
さあ、こい!
もはや相手に逃れるすべはない。
エクスキューショナーの剣撃が魔法陣へ触れる。
その瞬間……
「インパクト!」
物理エネルギーを反射。
加えて魔法陣に蓄えられていたエネルギーをすべて衝撃に変更。
先ほど放った魔法とは異なり、励起したエネルギーすべてを純粋なる力に変換する。
実にシンプルで実に強い魔法だ。
金属が破裂したような音が静寂の中を駆ける。
収縮された力がエクスキューショナーの剣を跡形もなく粉砕し、くるくるとバレリーナのように飛んで行った。
こっちはこっちで強すぎたか。
地味なんだがパワーは折り紙付きだ。
反撃だ。
剣を折られ、勢いを殺しきれず無様に飛んで行くエクスキューショナー。
その体を包囲するように上下左右前と後ろ、計6枚の魔法陣を形成する。
先ほどインパクトを放った魔法陣だ。
その円の大きさは先ほどのものと比べて約20倍。
しかも今回は6枚分。
単純計算で120倍の物理エネルギー。
これに耐えれるわけがない。
ズンと衝撃が空気を伝わる。
圧倒的な力の波動はエクスキューショナーの体を縦横無尽に巡り、伝わっていく。
一瞬時が止まったかのように動きを止める金属塊。
次いでサラサラと粉のようにエクスキューショナーは崩れ落ちていった。
後には紫色の魔石が現れる。
重力に捕まった魔石はコンっと地面に落ち、それすらも砂になって消えていった。
……。
魔石も壊しちゃったんだけど。
いやポジティブに考えろ。
お城からパクってきたバックにはそこまでいっぱい入らない。
今の魔石は大きかったから、たぶんバックがいっぱいになる。
そうなると他のものが入る隙間がない。
そうだポジティブシンキングだ。
とりあえず第30階層は完了だ。
今日は第35階層を目標にしてたんだけど、思いのほか時間がかかってしまったな。
それもこれも出口と入口が1か所しかないためである。
敵もそこそこ倒せていたので、焦らず今日はこのぐらいにしておこうか。
道中倒した敵の魔石もばっちり集めているから心配ない。
これがあればギルドでお金に換えてくれるはず。
張り切って夜ご飯も食べずに来てしまったからな。
換金してギルドのお店で夜ご飯にしよう。
*
第31階層に降り立つとそこは一面の森だった。
薄暗く、霧が立ち込めている。
木は針葉樹みたいなものが多く少し寒々しい。
ウォーンと遠くから遠吠えみたいな鳴き声が聞こえる。
ここは狼かなにかがでるのかな?
少し歩くとさっそく魔物に遭遇した。
真っ白な毛皮に覆われた狼だった。
あれだ。
とりあえずデカいと言っておこう。
体長が5mくらいある。
でかい。
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