第15話 ラウムのダンジョン3
次の日。
朝ごはんを食べたあと、クラスメイトが集まり軽いミーティングが行われた。
ロイスが先頭に立ち、各パーティの進行状況を確認している。
1日目ということで進行速度はどっこいどっこい。
進んでいても第10階層が最高みたいだな。
「まだ2日目だ。 焦らずじっくり進むといい。 ひとまず目標は第30階層だ。 第20階層からの魔物はデモンズロードから現れるものとほぼ同等だ。 そこまで行ければ十分な戦力に数えられる」
「ロイスさん! 俺がんばります!」
そう答えたのは大西だ。
大西は先日吹っ飛ばされてから心を入れ替えたようにロイスにご執心。
粗鋼の悪さはどこへやら。
今では誰よりもまじめに訓練に取り組んでいる。
どこか変なところでも打ったんだろうな。
そうだろう。
「貴様は誰だ?」
「ロイスさん! 俺ですよ! この前ロイスさんに吹っ飛ばされた大西です!」
「……そんな奴もいた気がするな。 まじめにやるのであれば異論はない。 この国のために尽力するがいい」
「うおおおお! 俺がんばります!!」
めちゃくちゃ単純なやつだ。
一応大西のパーティは発言通りがんばっているようで、第10階層まで進んでいる。
パーティは7グループあり、第10階層に進んでいるのは、他に飛騨のパーティだけだった。
今のところ敵も弱いため、問題らしい問題も起きていない。行こうと思えば他のパーティも十分行けたと思う。下地と末永の様子からしても余裕そうだったしな。
第10階層からは敵が強くなるから気を付けろよと言っていたけど、そんな心配は必要なさそうだ。
「ハッ! お前たちおせぇんだな」
そう言ったのは松田だ。
俺たちのパーティに所属しているにも関わらず一人でさっさとダンジョンの奥に進んでいったやつだ。この自分勝手さはやはり好きになれない。
「俺様は第20階層まで進んだぜ。 選ばれし者はやっぱ違うんだなぁ」
「松田、ロイスさんの忠告を聞いてなかったのか? 1日目だから無茶するなって言われたはずだぞ?」
「おーおー大西さんはすっかり飼いならされちまって、かわいいもんだなぁ」
「松田の癖に生意気だな。 少し懲らしめてやろうか?」
「やれるもんならやってみろよ?」
大西の沸点の低さは変わらないか。
体から真っ赤なオーラを発し、一発触発の危機。
やはり、こんな時は飛騨が動く。
「二人とも落ち着いて。 仲間同士争ってる場合じゃないよ」
「……ッチ。 飛騨も前の世界と同じように行くと思うなよ」
松田は黒いオーラを発し始める。
詳しくスキルの名前を聞いていないのであいつが何をできるのかはわからない。
まぁ飛騨のことだからどうとでもなりそうではあるが。
飛騨の力もよくわかってないんだけどね。
「俺様はお前たちとは違うんだ。 この力が見えるか?」
纏われた黒霧が松田の右手に収束する。
禍々しい漆黒。
それを見ても飛騨の表情は変わらない。
「……松田君。 残念ながら俺にはキミの力が見えないようだ」
圧縮された黒点がざわざわとゆらめく。
不安定になり始めた黒い力は徐々に弱まっていき、サラサラと散っていった。
余裕を見せていた松田は表情を曇らせる。
彼は自分の手のひらを何度も見返すがそこには何もない。
あるべきはずの異能の力が跡形もなく消えているのだ。
すぐにその現実を受け止めることはできなかったことだろう。
自分の力を信じていたあいつにとっては酷なことだったのかもしれないな。
「覚えていやがれ!!」
松田は負け犬のようにその場からいなくなった。
さすがは飛騨だな。
俺も原理とか何やったかはよくわからないんだけどね。
隣にいる下地は清々した様子で松田を見送っていた。
「あいつがダンジョンで一緒にならなくてよかったわ。 迷惑この上ないもの」
「まったくだな」
二つ返事で同意する。
あきれ顔のロイスはやれやれと言った様子で再び話を始める。
「まったくしょうがない奴がいたものだ。 少しお灸を据える必要があるかもしれんな」
軽いため息をつくと、クラスメイト全員に今日の予定を話す。
基本的に1日、5階層降りることを目標にしているようで第10階層までが今回のノルマ。
もちろん余裕があればさらに下の層を目指して欲しいと言われた。
もう第10階層に行ってるやつらもいることだし。
その後は各パーティに分かれての作戦会議だ。
飛騨達のパーティも指導官と打ち合わせを始めている。
あちらの指導官は漆黒の鎧を着こみ、外見が少し禍々しい。
背は小さめで顔は兜でよくみえないが、体つきから女性のように見えた。
ロイスは白銀の鎧を身に着けていたが、聖騎士とはまた別物なのだろうか。
そんなことを考えているとロイスが話しを進めていく。
「昨日は、第5階層まで進めたわけだが、今日は第15階層を目標としようか。 ほとんど手ごたえがなかったみたいだからな。 第10階層を超えると多少は良くなるはずだ」
「ええ。 かまわないわ」
下地はロイスからの提案を言葉少なく了承する。
末永も異論はないようだ。
「でもやっぱりゴブリンとかああいうのは少し気持ち悪いなぁ~」
「慣れるしかないわよ末永さん」
「まぁそんなに嫌なら俺が倒すんで安心してくれ」
「ごめんなさい如月君、私が瞬殺するから心配には及ばないわよ」
「少しは俺の分も残してくれよ!?」
そんな会話をしつつ今日のダンジョン探索が始まったのだった。
*
昼間のダンジョン探索は順調に進み、第15階層までの探索が終了した。
時々、冒険者のパーティも見ることができた。
やはり稼ぐことができる階層には人も多く来ているようだ。
昨日、一人で行ったときに人に出会わなかったのは夜だからなのであろう。
酒場でどんちゃん騒ぎしてたしな。
苦戦するような場面はなかったものの、敵が強くなり瞬殺とまではいかなくなってきていた。
例えばミノタウルスみたいな敵は下地のニードルだけでは死ななかった。
串刺しになりながらも、その闘志は折れずに反撃してきたのだ。
大きな戦斧を振り回しての強烈な一撃は、末永の銀閃で払われる。
力ではやはり末永が勝っていたようで、体勢を崩したところで槍の一突き。
グモオオオオと大きな雄たけびを上げつつ絶命した。
ちなみに魔物の名前はミノタウルスであっていた。
5mほどの大きさの巨大亀はタートラスというそうだ。
こいつもなかなか強かったみたいで、固い甲羅は下地のニードルを弾くほど。
しかし、タートラスは攻撃に驚いたのか首を引っ込める。
下地はすかさず引っ込めた首の穴を目掛けて巨大な針を突き刺す。
案の定、甲羅以外の部分は防御力が低く、大きなダメージを与えることができた。
2~3発、針の攻撃を続け、止めに末永の一撃で相手は沈黙する。
連携もばっちり。
俺は参加の意思を見せつつ、敵に斬りこんでいる。
ミスリルの剣の使い方がわかり、昨日とはだいぶ動きが違う。
ロイスからも多少は良くなったと言われた。
剣術はすこし頑張って覚えてもいいかなと思う。
決して褒められてうれしかったとかそういう話ではないんだからね!
今は日も落ち、単独で行動中。
第20階層まで進んできた。
俺がその気になると敵は瞬殺になるので、多少敵が強くなったとかはあまり関係ない。
とりあえず第20階層の座標を登録し、さらに下層へと降りていく。
第20階層からは攻略時間がかかるようになるらしい。
第1~19階層は出口と入口がいくつも存在しているため、必然的に下に降りるための移動距離が短くなっているのだそうだ。
対してそれより下の階層からは基本的に入口と出口がひとつずつになる。
ラウムの城下町ほどの広さに出入り口が一つしかないということは移動距離が大幅に増えていることにほかならない。
なんとも面倒くさいことだな。
情景も変化し、真っ白な大理石で出来たような床に、少し黒っぽい壁面が続く。
時折、怪しげに光る紋様が浮かび上がり、神秘的な風景を見せていた。
第20階層を進んでいくと、大きなサソリみたいな敵が出てきた。
やはり今までの階層と比べて敵が強くなっている気がする。
金属光沢をしたメタルボディは光を反射し怪しく煌めく。
試しに魔力を通していないミスリルの剣で攻撃してみると、キィンという高い音を出して弾かれた。
見た目通りあの魔物は金属レベルの固さを持っているようだ。
まぁミスリルの剣は普通の金属も簡単に斬ることができるんだけどね。
ただ、今の下地や末永だとしんどそうな敵かもしれない。
剣の使い方も少し慣れてきた。
MPを消費し、スピードを上乗せする。
神速の太刀筋が謎サソリの左ハサミを切断し、次いで右のハサミも切り刻む。
両ハサミを無くし、激高する魔物。
最後の手段であろう危なそうな尻尾の針をこちらに向けて串刺し攻撃を仕掛けてくる。
後方に緊急回避すると、その尻尾は地面に突き刺さり、ジュワァァと真っ白な大理石をドロドロに溶かしていた。
恐ろしいやつだ。
突き刺さった尻尾をミスリルの剣が容赦なく切断する。
止めの一撃に頭を踏んづけ、脳天への突き。
しばらく動いていたが、徐々に生命力を失い動かなくなった。
とりあえず俺の方は第35階層を目標にしよう。
足に力を込め、さらに深奥に進んでいく。
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