第14話 現代魔法とレベリング

 ギルドカードを取得した俺はとりあえずレベリングにラウムのダンジョンまでやってきた。

 昼間に下地、末永、ロイスと一緒に第5階層まで進んでいたので、途中からのスタートだ。

 ロイスは特に何もしていなかったけどな。


 聞くところによると第10階層から魔物の形態が大きく変わるそうで、それまで大した敵はでないらしい。第1~5階層はゴブリンとスライム、あとはガルムという犬型の魔物が出てきたくらいで雑魚同然だった。初心者が狩りに行くには最適らしいのだが、金目のものがまったくでない。冒険者として生活していくには最低でも第5階層より下の階層で稼ぐ必要があるそうだ。


 ちなみに進んだ階層の座標までワープするにはブルーサファイアというクリスタルが必要になる。ブルーサファイアに進んだ階層を登録するのだそうだ。俺はロイスからもらったのだが、結構高いものだそうで光を透過し薄い青色をしたきれいな宝石だった。


 地上の転移クリスタルから一気に第5階層へ降り立つ。

 第1~4階層と同じく石造りの遺跡のような風景は変わらない。

 転移のクリスタルは第5階層の入り口に配置されており、後方には第4階層からの階段が見えた。

 ヒンヤリとした薄暗いダンジョン内を進んでいく。

 獲物はどこだ。


 しばらく歩くとへんな植物みたいな魔物がいた。

 大きなつぼみみたいな顔をしている。体は細く、ひどくバランスが悪い。

 動きも遅いな。

 ゴブリンよりも弱そうなんだが。


 とりあえず焼いてみるか。

 謎のつぼみ生物の下に魔法陣を出現させる。

 発動するのは炎を生み出す魔法だ。

 俺はMPが少ないため普通の魔法は使えない。


 では俺がどう魔法を使うのかというと簡単なことだ。

 無いならあるところから捻出すればいい。

 空気中に存在するエーテルを魔法陣へ取り込み、基底状態から励起状態へと移行させる。

 これは魔力操作を極めた俺だから出来る芸当だ。

 励起されたエネルギーは魔法陣を介して神秘的な現象、つまりは魔法を発言させる。


「バーンストーム」


 魔法陣の中心に炎塊が出現し、瞬時に紅蓮の柱が立ち上る。

 謎のつぼみ生物は悲鳴を上げる間もなく真っ赤に燃え上がり、灰も残さず消えていった。


 通常、魔法使いというのは自らの体内にため込んだエーテルつまりはMPを用いて魔法を発動させる。MPを貯めるには空気中から取り込むことや、食事、また、細胞から生み出されるエネルギーを変換し体内に止めておくことが必要になる。

 つまり魔法使いというのは魔法の源を一回体内へ取り込まなければ発動ができないものなのだ。ただし俺にはその才能がほとんどなかった。

 簡単に言うと俺はMPがないから魔法が使えなかったのである。


 長年悩んだ末、空気中のエーテルをどうにか利用できないかと思い至った。

 今のように魔法が使えるようになるためには、一言では言い表せない努力があったのは言うまでもない。そんな中気づいたのは、バリアとエーテルの相性が抜群に良いことだ。バリアの構造を解析し、最適化し、ついにはエーテルをバリアの中へ取り込むことに成功したのである。

 それが自らのMPを利用したこの特別製のバリアだ。エーテルの伝導率が極めて高く、一定の範囲内であればこのバリアをあらゆる形に変形させ魔法陣を描くことができる。描いた魔法陣には空気中のMPの基、エーテルを取り込み魔法を発動させるというわけだ。MPをバリアに変換しているだけなのでバリアを元に戻すと消費したMPも戻ってくる超優れモノ。

 これまたMPが少ない俺だから考え付いた方法だろう。

 つまり、瞬時にバリアの形態を変化させ魔法陣を形成、周囲のエーテルを取り込み魔法を発動することが可能になったわけだ。なによりも自らのMPの損失なく無尽蔵に使いたい放題というのは大きな利点だろう。


 俺は魔法にずっと憧れていた。

 いや今も憧れていると言っていいだろう。

 確かにこの現象は、俺が起こしたものだ。

 それは間違いない。


 しかし、本来の魔法は自らの内に貯めこんだMPを捻り出し、発動するのが正しい魔法だ。

 だからこそMPが少ない俺は普通に魔法を発動させることはできないのだ。今でも困難なのである。だからこそ、普通に魔法が使いたい……それが今の目標だったのだ。

 そんな中、転機が訪れた。この異世界への召喚である。単純に魔物を倒してレベルを上げるだけでエーテルの保有量が上昇する。こんなうまい話はない。であるならば全力でやらないわけにはいかないだろう。

 気持ちを切り替える。


 もう1匹、謎のつぼみ生物が現れた。

 今度は遊んでないで粉々に切り刻む。

 恐らく戦闘能力だけで言えば俺にかなう者はいないだろう。

 世界は広いし確実ではないが、敗北というヴィジョンは一切見えない。

 普通に魔法が使えなくても、魔術体系の構築によりいくらでも創意工夫することができる。

 それがこのバリアの使い方だ。

 体を中心に球体の薄い膜が現れる。

 光を少し歪め、もやもやとした情景が浮かび点滅して消えていった。


 バリアの形態は魔法陣を形成できるほど自由自在に形を変形させることができる。

 つまり魔法なんか使えなくてもこのバリアを操作しているだけで相手への攻撃と防御をそのまま実行することができるのだ。


 一定範囲内であれば超高圧縮されたエーテルのバリアが無数の刃となり、あらゆる存在を切り刻む。防御においても俺のバリアを貫通する概念は存在しない。魔法に至っては魔力操作によりバリアへと吸収、変換されることでこちらの戦力となる。対して俺は相手のエーテルに働きかけ相手が魔法を放つことさえ許しはしない。MPが低くても、エーテルの保有量が少なくても、俺は遥かな高みに到達したのだ。


 極少量のMPを足裏に集中し、爆発的な出力を放出しダンジョン内を駆け抜ける。

 俺の認識した、魔物どもは見境なく粉砕され、ミキサーにかけられたかのようにミンチになっていった。

 あっという間に第5階層を走破完了だ。

 出てきた魔物は謎のつぼみ生物だけ。

 この調子でどんどん進んでいこう。


 第6階層はガルムを少し大きくしたような狼の魔物が出てきた。

 先ほどのつぼみ生物も時々いたが、どちらも瞬殺だったので何が出ようとあまり関係なかった。

 第7階層は甲羅にわっさりと草を生やした亀が多かった。体調も大きく1mくらいあった気がする

 相変わらず弱いので発見したら即撃退。

 こんな時に魔物の知識がないのがつらいところ。

 どれがお金になるのか、ならないのかよくわからない。

 名前もよくわからないので、見た目をそのまま表現するしかない。

 とりあえず魔石は拾いましょう、と、ベンタナさんが言っていたのでそれっぽいものは回収する。心臓にあたる部分に石っぽいものがあったのでたぶんそれだろう。


 第8階層、第9階層も同じような感じでサクサク進み第10階層へ到着した。

 腕時計の時間を確認する。

 王城を出発した時間が19:00頃、ギルドで色々していたら22:00になっていた。

 ダンジョンに入ったのが22:30で今が23:30だ。

 朝も早いので時間的には終わった方がよさそうなんだけど、まだもう少し進みたい。

 1時間で5階層進めたので第10~15階層も行けそうな気がしてきた。

 明日からは時間がもっと取れるはずだが、今日は第15階層を目標にしよう。


 第10階層からは遺跡っぽさが無くなり、大きな洞窟のような様子に変わっていた。

 時々川が流れていたり、こうもりみたいな敵もいたりで、少し薄気味悪い。

 大型の魔物も出てくるようになり、ミノタウルスのような敵、5mはあろうかという巨大亀、炎をまとった狼、集団で襲ってくるでかいねずみ等、色々なものがいた。一桁の階層では一つのフロアに大体1種類の魔物が巣くっていたが、第10階層からはある程度のパターンはあるものの魔物の多様性が上がっている気がする。

 多少強そうな印象を受けたものの、基本的には瞬殺であるため、スピードはあまり変わらずサクサクと第10~15階層の探索が終了した。

 第15階層のクリスタルを発見し、ブルーサファイアというクリスタルに座標を登録する。

 時刻は0:30の少し手前。

 とりあえず今日はここまでだな。

 テンションが上がって多めに進んでしまったので、明日はもう少し余裕を持って切り上げることにしよう。

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