第13話 試験

 試験会場はそこそこ広く、学校の体育館ぐらいといったところだろう。

 ちらほらと人がいて、試験官らしき人と冒険者っぽい人が剣を交わせている。

 ここを使うのは、冒険者登録の試験以外にも上位クラスへの申請試験ができるそうで、たぶんその試験の真っ最中なのだろう。

 普段から勇者とか言われているクラスメイトを見ているとやはり冒険者のレベルはまぁまぁといったところか。ロイスもめちゃくちゃ強いっぽいし。


 そんなことを考えていると、ベンタナがいかついおっさんを連れてきた。

 筋骨隆々のナイスミドル。

 重そうな鎧を着こみ、これまた重そうな大きな剣を背中に背負っている。


「おう! おまえさんかこんな夜に試験したいってやつは」

「はい! こちらがえー……名前なんでしたっけ?」


 そういえばギルドカードを作るにも関わらず名前を聞かれていなかったな。


「バカやろう! ベンタナ名前くらい聞いておけ!」

「す、すびばせん……」

「ったく、新人はこれだからなぁ。 まぁいい。 俺はトラボルタだよろしくな」

「俺は如月潤です」

「キサラギジュンか、苗字があるってことはどっかの貴族かなんかか?」

「いやーそういうもんじゃないと思うんですが」

「まぁ細かいことはいいな。 さっさと仕事して俺も飲みに行きたいところなんだよ」


 はっはっはと笑いつつばんばんと背中を叩かれた。

 痛いんですけど。


「早速だが、試験内容はいたって簡単だ。 俺に斬りかかってこい。 そんだけだ」

「斬りかかるって、この剣でいいんですか?」

「ああ、無論だ」


 俺は腰に差している王城でもらった剣を手に取る。

 やはりズシッっとおもい。

 対してトラボルタという男は大剣を地面に突き刺し、余裕のポーズ。


「その剣はミスリル製か。 随分といいものもってんじゃねぇか」

「そんなにいいものなんですか?」


 ミスリルとかはゲームで聞いたことある気がするな。

 召喚者たちは武器庫から好きに武器を持って行って使っていたので、あまり気にしていなかった。城の兵士たちも同じようなものを使っているらしかったので、大したもんじゃないんだろうなって思っていた。


「いや~でもこれめっちゃ重くてまともに使えないんですよね」

「……? おかしなやつだな。 MPをミスリルに流せば軽くなるだろ?」


 えっそうなの?

 試しにMPを流し込んでみる。

 一気に使うとすぐMPが尽きてしまうので細心の注意を払う。

 すると、だんだんと重さを感じなくなり綿毛を持っているかのような軽さになった。

 ……なんだこの不思議金属は!?

 めちゃくちゃなんだけど!?

 トラボルタさんが呆れた顔をしている。

 だってそんな説明一切なかったからね。

 これはロイスが悪いと思う。


「……その様子だと本当に知らなかったんだな」

「こんなものがあるなんてびっくりしました……」

「その価値を知らないで持っているやつの方が俺としてはびっくりなんだが……。 まぁとりあえず準備は出来たようだな。 いつでもかかって来い」


 ヒュヒュンとミスリルの剣を素振りする。

 まだぎこちないが剣も意外とかっこいい。

 先ほどまでは重い鉄の棒を持っている感覚だったため、あまりいい印象はなかったのだが少し認識を改める。もしかしたら剣という概念が薄かったからなのかもしれない。

 今までこういった原始的な武器を使うことはなかったが、もちろん現代魔術師の中では好んで使うものもいた。

 近接時の破壊力は群を抜いており、それに特化した宗派もあったくらいだ。

 ただ欠点としては魔法以外にも剣技を磨かなくてはならないため、なかなか高度な戦闘スタイルであったことは言うまでもないだろう。


 さて、斬りかかると言われたが、どのぐらいが良いのだろう。

 身体能力的にはあまり高くないため、魔法を使わない場合大した評価はされないはず。

 加速の力を少し使ってスピードに任せた一太刀をお見舞いしてみようか。


 足の裏になけなしのMPを集中させる。

 ごく少量のエネルギーが集まり、圧縮された力を解き放つ。

 その瞬間、世界がスローモーになる。

 否、自身の集中力が高められ認識能力を高めた結果、自分が見る世界が遅くなったように感じているだけなのだが。


 高速による突進と、スピードを生かした一太刀をトラボルタの肩を目掛けて振り下ろす。

 しかし、やはり試験官といったところか。

 完全に剣の軌道を読まれていた。

 地面に突き刺さっているあの重そうな剣をいとも簡単に引き抜くと、俺の剣の軌跡に合わせてきた。なんとも余裕の様子だ。

 しかし剣と剣が交わる寸前、トラボルタが少し嫌な顔を見せ、その瞬間、半歩身を引いた。


 遠目から見ているベンタナには一瞬の出来事だったことだろう。

 キィンという高い金属音が試験会場に響き渡る。

 俺の剣撃がいともたやすくトラボルタの大剣を叩き切り、弾かれた刀身がくるくると宙に舞い地面へと突き刺さった。

 トラボルタが上半分を無くした自分の剣の斬り口をまじまじと見ていた。


「おまえおっかねーことすんな。 ここまで魔力操作が完璧なやつはみたことねぇぞ」

「……自分でもこんなに斬れるとは思ってませんでした」

「本当におまえミスリルってもんを知らなかったんだな……。 俺じゃなかったら大けがしてたところだ」

「す、すいません」

「まぁそんなことはいいか。 俺が斬りかかって来いって言ったんだからな。 で、お前の評価だがスピードはなかなか、攻撃力についてはミスリルの剣であったことを考慮するとしても相当高いレベルではあるな」


 少し悩んでいる様子のトラボルタ。

 もしかしてやりすぎたのか?

 いやでもトラボルタには完全に見切られていた。

 てゆうかあの大剣はただの鉄の塊だったらしい。

 それを軽々と扱うパワーと寸前で防御方針を変更する眼力、技能は達人といってもいいだろう。そんな人からすればまだまだへなちょこレベルのはず。


「んーーー悩んだが、ランクAくらいはありそうだ。 よし俺は決めた! お前はランクAだ!」


 そこそこよさそうだ。


「す、すごいですよキサラギさん! いきなりランクAなんて見たことないですよ!」

「ではベンタナ後は頼んだ。 俺は酒を飲みにいかねばならんのでな!」

「トラボルタさん!? ちょっ早!」


 じゃあな! と言葉を残しつつさっさといなくなるトラボルタであった。


     *


「はい! ではこちらがギルドカードになります」


 受付に戻ってきた俺はベンタナから銀色のカードを受け取った。

 ニコニコしている受付嬢はご満悦の様子だ。


「いやぁ~しかしすごかったですね! いきなりAランクとは……。 もしダンジョンの素材やらなにやらが取れたら是非私のところまで来てくださいね!」


 私の評価が上がりますから、と少し聞こえた気がするがスルーしておこう。

 さて、少しダンジョンへ行ってお金稼ぎと経験値稼ぎに行きますか!


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