第12話 ギルド

 夜の街を横目に冒険者ギルドを探す。

 案外人通りは激しく、にぎやかな様子だ。

 街灯のようなものもあり、大きな通りを外れない限りそこそこ明るい。

 酒場からは陽気な人たちの笑い声が聞こえる。

 ところどころに屋台みたいなものが建てられており、焼き鳥みたいなジャンクフードや、アクセサリーを売っている店があった。あとで食べてみたいところだ。ほかにも何かの薬品をビンに詰めた商品が並べられていたり、髑髏や怪しげな商品が陳列されている店等、様々な店がひしめきあっていた。


 冒険者ギルドの建物はどこだかわからなかったので適当に歩いている通行人から情報を得る。

 一際大きな建物がそうだというので、遠目からでも簡単にその場所を見つけることができた。

 これが冒険者ギルドに違いない。


 周囲の建物は高くても3階程度がせいぜいであったが、ギルドは5階建て、敷地面積も相当なものだった。

 加えて石造りの頑丈な作りをされており、ちょっとやそっとでは壊れなさそうだ。

 飲食場所もあるみたいで、途中に見た酒場に負けないくらい賑やかだった。

 

 さっそく中に入ると右手側に冒険者と言われる人たちがガヤガヤと集まり飲み食いをしている。少し薄汚れている防具を身に着けている者もいるが長年使い続けている証拠なのだろう。王城の料理はまぁまぁおいしいのだが、こっちの料理はジャンクっぽい雰囲気がしてこれはこれでおいしそうだ。骨付きのチキンにかぶりついてるひとが結構いるな。お金があればすぐさま買い食いしていたところだ。

 しかし、俺は無一文。

 今までずっと王城の人たちにまかせっきりだったのでお金というものも持っていない。

 やはりお金はこれから活動していくうえでも必須になるな。

 このお預け状態はいただけない。


 気を取り直して本来用事のある左側の受付に向かっていく。

 冒険者という資格みたいのをもらうためだ。

 いくつか窓口があるので、様子を伺っていると一人こちらに気づいたのか“こちらにどうぞ”と一言。

 誘導にしたがって受付の元まで行く。


「受付のベンタナと申します。 今回はどういったご用件でしょうか?」


 素朴な印象を受けるが、ウェスタンチックなギルドの制服がよく似合うお姉さんだった。茶色見がかったロングヘアーとやさしい瞳がかわいらしい。

 さて、なんと言えばいいのだろうか。

 登録したいとでも言えばいいのかな?

 あーでもギルドって詳しく話を聞いていなかった。

 どういったものか、というのを確認しておいた方がいいかもしれない。


「ギルドって初めて来たもので勝手がわからないんですよね。 少し詳しい話を教えてもらえませんか?」

「初めての方でしたか! 私もこの仕事についてまだまもないので、先輩から1から10まで叩きこまれたところなのですよ! じっくり説明させていただきます!」


 ベンタナは控えめな胸を張り、そそくさと準備を始める。

 取り出してきたのはお手製のノートだった。

 パラパラと紙をめくると“必勝! ギルド解説”と書かれたページが開かれる。

 自分用に作ったギルド案内みたいだ。

 なんだこれ恥ずかしい!

 ところどころ変なウサギみたいなキャラクターが描かれており、ここがポイントだよ! と指示している。

 ベンタナはコホンと咳払いし、大げさな身振りでくるりと回転し、右手を大きく上げ、


「ようこそ! ギルドラウム本部へ!」


 と大きな声を出し説明が始まった。

 これは担当者を間違えたかもしれないな……。


「このギルドラウム本部は歴史は古く、遥か500年前に設立され、このラウムという国とともに歩んできました。 デモンズロードからあふれ来る魔物たち、広大なラウムのダンジョンを背景として世界でも有数のギルドとして名を刻んでいます。そもそもギルドというのはダンジョンで埋め尽くされていると言われている国ゲルトリアを起源として……」


 ……長かった。

 かれこれ30分はしゃべりっぱなしだったんではないだろうか。

 ご自慢の解説ノートがパタリと閉じられ、満足気なベンタナ。

 本人はやりきった感満載だ。


「……というわけです」

「……あ、ああ」


 図解を入れて本当に1から10まで丁寧に教えてくれた。

 ここまで頑張らなくてもいいのに……。

 普通の人だったら途中で投げ出していたところだと思う。

 しかし、こちらに来て情報が少ない自分にとっては貴重な情報もいくつかあった気がする。


 要点としては、依頼を受けて達成できればその報酬としてお金がもらえるということ、こちらからお金を出して依頼することもできるということだ。

 依頼を受けるには冒険者として登録する必要がある。

 冒険者に登録された人は証明の代わりにギルドカードを渡される。

 冒険者のランクもあるみたいで、上からS、A、B、C、D、E、F、Gと分かれているらしい。

 ランクの等級によりギルドカードの色も変わるそうだ。

 例えばGだと白、Fだと灰色といった具合らしい。

 登録すること自体は特になにもしなくてもできるそうだが、ランクによって受注できる依頼が限られてくる。初期ランクのGクラスは戦力としてほぼ役に立たないため、薬草摘みくらいしかできない。

 もし、最初から少し高いランクの依頼を受けたい場合は、試験官との模擬戦をして力量を認めてもらう必要がある。結果に応じた冒険者ランクをつけてくれるのだそうだ。

 依頼を受けるときは受付とは反対側にある掲示板の用紙をもってくればいいらしい。

 あとは依頼を受けていなくても魔物の素材とかは別途換金してくれるようだ。

 重要な部分はこんなとこ。

 まずは登録しなければ始まらないな。


「……ではギルドへの登録をお願いします」

「はい! 承知いたしました! 試験官はいつでも準備万端ですが模擬戦は行いますか?」


 依頼を受ける際にもランクに応じて受注できるものが限られる。

 できればそこそこ高いランクのほうが好ましい。 


「お願いします」

「では、クラスはいかがいたしましょう? 剣を持っているのでファイターでしょうか?」


 クラスも先ほど説明された。

 メインとする戦闘スタイルを表すものだ。

 例えば剣を持って戦うスタイルがファイターと呼ばれる。

 最も初歩的なクラスといったところか。

 ちなみにクラスは色々なものがあるらしく、攻撃魔法を使うスタイルがウィザード、槍を使う場合はファランクス、回復魔法をメインとするクレリック等々があるらしい。

 これらのクラスに適正があると判断されれば、ギルドカードに対応するクラス名を刻むことができる。

 これは冒険者同士がパーティーを組んだり、依頼をするときの指標になったりする。

 例えば、ファイターばかりのパーティーがダンジョンに潜るとき、回復魔法を得意とするクレリックが必然的に欲しくなる。

 クレリックの人を募集し、きた人に適正があるかないかは、ギルドカードを見れば一目瞭然。

 お互いに力量を確認しつつ安心して冒険ができるというわけだ。

 俺は基本的に一人で行く気だからあんまり関係ないんだけどね。


「ファイターでお願いします」

「では少々お待ちください。 試験官の方に連絡を入れておきます。 中央の通路から試験会場に進んで待機をお願いします!」


     *


 試験会場はそこそこ広く、学校の体育館ぐらいといったところだろう。

 ちらほらと人がいて、試験官らしき人と冒険者っぽい人が剣を交わせている。

 ここを使うのは、冒険者登録の試験以外にも上位クラスへの申請試験ができるそうで、たぶんその試験の真っ最中なのだろう。

 普段から勇者とか言われているクラスメイトを見ているとやはり冒険者のレベルはまぁまぁといったところか。ロイスもめちゃくちゃ強いっぽいし。


 そんなことを考えていると、ベンタナがいかついおっさんを連れてきた。

 筋骨隆々のナイスミドル。

 重そうな鎧を着こみ、これまた重そうな大きな剣を背中に背負っている。


「おう! おまえさんかこんな夜に試験したいってやつは」

「はい! こちらがえー……名前なんでしたっけ?」


 そういえばギルドカードとか作るにも関わらず名前を聞かれていなかったな。


「バカやろう! ベンタナ名前くらい聞いておけ!」

「す、すびばせん……」

「ったく、新人はこれだからなぁ。 まぁいい。 俺はトラボルタだよろしくな」

「俺は如月潤です」

「キサラギジュンか、苗字があるってことはどっかの貴族かなんかか?」

「いやーそういうもんじゃないと思うんですが」

「まぁ細かいことはいいな。 さっさと仕事して俺も飲みに行きたいところなんだ」


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