第10話 ステータスの再測定
何の問題もなく第5階層までの探索が終了し、王城へと帰還した。
第4階層、第5階層は変わらずゴブリンとスライムばかり。
下地と末永の圧倒的な瞬殺で終わったのだった。
時々魔物を譲ってもらい2、3体追加で倒した。いくつか俺もレベルというものが上がったようだ。これでだけでステータスが伸びるのだろうか? 胡散臭い。
帰ってくる途中にロイスから聞いたのだが、レベルアップの状況を確認するために、例のアーティファクトでステータスを再測定するみたいだ。ダンジョンから帰ったらこれが日課となるらしい。
ちなみに前回測定したときにはめんどう事を避けるために偽装工作をしていた。やはり魔術師を生業としてきたためか、魔力がとても高く表示されていたのだ。一番最初に測定された伊藤は魔力106であるにも関わらずバランスが取れていると評価された。しかしその一方で、俺は伊藤の100倍の魔力があるらしかった。慌てて魔力の0を二つ消しヴィネーに見せたのである。まぁそれ以外は平凡そのものなのだが。
■称号
・落ちこぼれの魔法使い
■ステータス
・レベル:1
・体力 :80
・MP :1
・攻撃 :70
・防御 :37
・素早さ:95
・魔力 :10100
■スキル
・バリア
・魔力操作
「えへへー楽しみだねー」
末永は先ほどゴブリンを倒した時のテンションを吹き飛ばすような笑顔を見せる。
さっきはあんなに落ち込んでたのにな。
ずっと暗いままでいるよりはいいんだけどね。
「頭のなかでパパアーーって鳴り響いてたからね! なんかすごく強くなってる気がするよ!」
「そ、そりゃあめでたいな」
下地も早くステータスを確認したいようでそわそわしているのがわかる。
時々速足になり、俺たちがついてきていないとわかると後ろを振り向き罵声を浴びせてきた。
そんなにステータスが知りたいもんなんかねぇ。
魔物を倒すだけで簡単にパワーアップできれば苦労はない。
強くなるためには地道な反復練習をひたすら繰り返し、血のにじむような努力をする必要がある。しかもどんなに努力をしても到達できる地点は大体決まっているのだ。
だからこそ努力だけではなく、様々な相違工夫と真理への探究、世界の構造を理解しさらなるステップに進む必要がある。強くなるとはそういうことなのだ。
俺のMPにしたってそうだ。
これは前の世界でいう個人のエーテル保有量に相当する。
魔術師は体内から湧き出るエーテルを蓄え、それを用いて魔法を発動する。
つまり俺は魔法の元となるエネルギーをほとんど持っていないのだ。
エーテル保有量、つまりMPに関しては個人差はあれどそれこそ努力によって大きくその保有量を増やすことができる。エーテルを枯渇させるまで使用し、回復させることで魔法の発動に必要な分の最大値を増やす。筋トレに似たようなものだとイメージするとわかりやすいだろう。しかし、いくら鍛錬しても俺のエーテル保有量は伸びることはなかった。
不幸中の幸いというべきか、救いだったのが魔力が高かったことだ。
魔力とはすなわち魔法を放つときの威力にあたる部分である。
例えば水1Lを洗面器で掛けるのと、超高圧のウォーターカッターのように水を噴出するのでは破壊力が全く異なるのを思い浮かべてもらうといいだろう。
魔力が高いほど高威力の魔法を放つことができ、エーテル保有量が多いと多くの魔法を放つことができる。俺のアンバランスな能力をコントロールするには超々高精密な魔力操作が必要だったのは言うまでもないだろう。
だからこそ、ただ魔物を倒すだけでステータスが上がる? 能力が上がる? 眉唾ものとしか思えない。
そう考えてるうちにステータス測定器が置いてある部屋に到着した。
召喚された日はクラスメイトが全員いたので賑やかであったが、現在は俺、下地、末永とロイスしかいないため少し寂しい雰囲気である。夕刻に迫り、オレンジ色の夕日が室内を照らしていた。
「では各自のステータスを測定する。 まず末永だ」
末永が謎カメラの前に立ち、ロイスはパシャっとスイッチが押す。続いて下地、最後に俺をパシャパシャ。ジーっとステータスが書かれた紙が出てきた。
末永冬華
■称号
・異世界の勇者
■ステータス
・レベル:12
・体力 :633
・MP :166
・攻撃 :623
・防御 :785
・素早さ:368
・魔力 :488
■スキル
・龍化
下地いづな
■称号
・異世界の勇者
■ステータス
・レベル:15
・体力 :423
・MP :778
・攻撃 :311
・防御 :285
・素早さ:465
・魔力 :742
■スキル
・ペイントイマジネーション
「本当にレベル上がってるー! 前よりだいぶ強くなってるよ!」
「……まぁ当然ね」
下地は言葉少ないが、にやけるのを必死に抑えているみたいだった。
口元がぴくぴくしてますよ下地さん!
レベル1の時のステータスは見てないので比較はできないが、数値的にはだいぶ上がっているみたいだ。
「勇者といわれるだけはあるようだな。 私もこのレベルでこんなステータスはあまり見たことがない。 スキルも三者三葉でバラエティに富んでいる。 さすがはヴィネー様が召喚された者たちだ」
「えへへぇ~なんだか照れちゃうな」
末永は顔を両手で覆いもじもじしている。
さて、俺のほうはどうなってるかな……。
………。
…………。
……ありえない。
ありえないありえないありえない。
まさか……。
いや、しかし、そんなはずは絶対にない。
今まで俺がどんだけ苦労してきたと思っているんだ。
そう。
そうなのだ。
現実に起きるはずがない。
血反吐はいくらでも吐いてきた。
人体の限界を超えてあらゆる方法を試してきた。
しかし、一向に現実は変わらなかった。
それが世界の理、世界の絶対的な束縛、真理なのだ。
嘘だ。
あのへんてこな機械はもとより信じちゃいなかったんだ。
……でももし……。
これが本当であるならば……。
「えっ!? どこ行くの如月君!?」
末永が俺を呼び止めるがそれどころではない。
部屋の扉を勢いよくこじ開け、王城の屋上へと駆ける。
一刻、一秒も惜しい。
高まる鼓動が止まらない。
屋上の扉を開けると真っ赤な夕日が降り注いだ。
右手を紅に輝く恒星に向け、なけなしのエーテルを操作する。
循環するエーテルはごく少量。
しかし超精密、超高精度による魔力操作により研ぎ澄まされた一撃が放たれる。
「ディメンジョンブレード」
真っ赤に輝く新円が半球になり、空が割れた。
次元が断裂された空間は周囲の空気を貪り尽くし、しばらくすると何事もなかったかのように静寂を取り戻した。
信じられなかった。
しかし、これは……間違いない。
エーテルの保有量が増えている。
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