第8話 ラウムのダンジョン
王城での訓練が順調に進み、いよいよダンジョンで本格的な戦闘が始まる。
ラウムの城下町は王城を中心に中世の街並みが広がっている。窓越しに見た限りでは地平線に近いところまで建物で埋め尽くされており、とても大きな町だった。なんでもこの国で最も栄えているところなのだそうだ。
そしてその地下にはラウムのダンジョンと呼ばれているものが存在する。
何層もの階層があり、地下に行くほど敵が強くなっていく。
第1層に至っては敷地面積が地上にある城下町に匹敵するほど大きく、街中や郊外を含めて10か所の入り口があるらしい。
階層によって大きさは様々であり、第1層程大きなところは少ないがそれでも十分な広さがあるようだ。
ダンジョンの中は魔物が発生し徘徊している。
放置しておくとダンジョンから魔物が出てきてしまうため、なんでも屋と呼ばれている冒険者と呼ばれる者たちが討伐に向かっている。また、この国の兵士の業務としてもダンジョン内の魔物討伐があるため魔物が街の中へ侵入するようなことはない。
俺たちはそれぞれ4~5人のグループに分かれてダンジョン探索をする。
もともといた40人のうち10人程はダンジョン探索をしたくないとのことで、今日は30人が参加することとなった。
4人組が5グループ、5人組が2グループあり、それぞれ王宮の兵士がサポートとして配置される。
俺のグループは調子に乗っている松田、ミステリアスな下地、最近竜の姿に夢中の末永だった。ついでにサポートとしてロイスがいる。ダンジョンはとても広いため地図が必要不可欠である上に、ある程度地形を把握してる人が必要である。慣れるまではサポートを付けるようだが、進捗具合に合わせてサポートもはずすそうだ。
俺たちは王城を出て、街中にあるダンジョンの入り口の一つに到着した。
入口は馬車が3台ほど横に並べるほど大きなもので、遺跡のような雰囲気をしている不思議な形の門をしていた。
傍らにはダンジョン監視のために守衛のようなところがあった。ここでは中に入るための登録を行っているのだそうだ。
「ロイスだ。 これより勇者とともにダンジョン探索を開始する。 手続きをしてくれ」
「これはロイス様。 承知いたしました。 先に連絡のあった松田様、下地様、末永様、如月様ですね。 こちらの台帳にサインをお願いします」
受付の兵士が台帳を渡してきた。
ダンジョンに入る人をこの台帳に記載するらしい。
これに名前を書くことで帰還しているかどうか確認をするためのものだそうだ。
ただ、ダンジョンへの挑戦は自己責任であるため、通常は帰還していない人がいるからといって探しに行ったりはしない。あくまで状況確認をするためのものとして使われる。
「ご記入ありがとうございます。 それとこちらのクリスタルをお持ちください」
一人一人に透き通った手のひらサイズのクリスタルの結晶が渡される。
「これはそこにあるクリスタルの結晶と連動しているものだ。 ダンジョン15階層までであればこれを使うことでそこの横にあるクリスタルの大結晶まで転移することができる」
ロイスは受付の横にある大きなクリスタルの結晶を指さして説明してくれた。
転移魔法があるとは予想外だった。
レベルが低いと見ていたこの世界のことも考え直さなければならないかもしれないな。
「ロイスさんよぉ。 このクリスタルがあればいつでもここに戻れるってことなんだよな?」
「ああ、そうだ。 何か不満なのか松田」
「その通りだよ。 この俺様がたかがダンジョンごときで徒党を組まなければならない理由が全くわからねぇ。 ってなわけで俺様は単独で行かせてもらう」
ロイスは即断で了承した。
ヴィネーと全体的なルールは決めていたが、基本的に自主性にまかせるようにしている。
「勝手に行くがいい。 お前なぞいなくても特に問題はない」
「あぁそうかよ」
舌打ちをしつつ松田はダンジョンの入り口に消えていった。
松田が見えなくなったあと、ロイスから今日の目標が伝えられる。
第1階層から第3階層までは雑魚の魔物しか出現しないらしい。
例えばスライム、ゴブリンといった具合だ。
第4階層、第5階層もそこまで強いものは出現しないが、初めてということで第5階層まで潜って今日のスケジュールは終了のようだった。
「何か質問はあるか?」
「あ、あの、私たち本当に大丈夫なんでしょうか?」
少しおどおどして末永が質問する。
「私の見立てでは第15階層までは今のままでも余裕だろうな」
「15階層ですか……?」
「第10階層を超えると魔物の形態が大きく変わるんだが、訓練の時に見せていた勇者たちの力はやはり特筆すべきものがある。 ゴリ押しだけでもかなりの階層を踏破できそうではある」
「……では第5階層まででは不十分ではないのですか?」
今までほとんどしゃべらなかった下地は少し不服のようで、その重い口を開いた。
「下地の言う通り不十分ではあるのだが、そこまで急ぐ必要はない。 これから何度も通うことになるのだからな」
「……納得はいかないけれど、従うわ」
「では行こうか」
ロイスの号令とともにダンジョン内に入っていった。
ダンジョン内は暖かかった外とは異なり、少しひんやりとしている。思ったよりも暗い感じはしない。ロイスに尋ねると天井や壁からわずかな光が出ているためダンジョン内は明るく感じるようになっているということだった。
しばらく進むと前方に3匹の魔物が現れた。
透き通った青色をしておりぷよぷよと地面を這っている。
目や口などは一切なく謎の水玉といったところ。
「先ほども説明したがあれがスライムという魔物だ。 攻撃力がほぼ皆無なうえ、大概の攻撃で一撃だ。 丁度3匹、各自倒してみろ」
所持している武器を構える。
俺は剣、末永は長槍、下地は本だった。
もちろん俺はロイスから習っている剣術を使うつもりだ。
末永は龍化で得た身体能力を生かして近接戦闘。
ただ、下地の本はめずらしい。
これもスキルと関係するものなのだろうか。
「下地はそんなもんで大丈夫なのか?」
「……問題ないわ。 私のスキルは書いた絵を具現化できるのよ」
左手に持った下地の本のページがパラパラとめくれ、とある1ページが開かれる。
そのページに右手を当てると淡い光が漏れだした。
「ニードル」
天井と地面から巨大な針が無数に現れ、完膚なきまでにスライムを串刺しにした。
粉々に砕け散ったスライムがかわいそうである。
「……本当に脆いわね」
「脆いわね……じゃねえよ! 俺たちの分まで倒しやがって!」
「……失礼」
「わかってはいたが第1層だと何の訓練にもならないな。 まぁスキルの試し打ちだと思って我慢してくれ」
「……あっちにもいるわよスライム」
下地が指さした方角にもぷよぷよと佇むスライムが2匹いた。
重い剣を構えながら距離を詰める。
幸いスライムたちはこちらに気づいていないようだった。
「ニードル」
容赦のない牙がスライムたちを粉砕する。
射程範囲も大きく、発動スピードも恐ろしく速い攻撃だ。
「って、お前また倒しやがったな!?」
「ふぇぇ、これじゃあ倒せないよぉ」
「……あら、ごめんなさい」
下地は不適な笑みを浮かべている。
これ絶対確信犯だろ。
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