第7話 東雲からの提案
東雲に呼び止められてから少し時間がたち、リビングルームに続々とクラスメイト達が集まってきた。ほぼ全員に声がかけられているようだが、みんな来ているわけではなかった。
「みんな集まってくれてありがとう。 今日集まってもらったのは少し相談したいことがあるからなの」
東雲が軽い挨拶をした。
よくよく思えば、こちらに来てから何から何まで流されるままだった。
クラスとしてきっちり話し合いなどすることもなかった。ただ、環境に慣れるので手一杯だったからかもしれない。そんな中、率先して人を集めて話し合いの場を作る東雲は、さすがクラス委員長だなと思う。
例の如く、東雲の隣には飛騨と桜田がいた。
「こちらの世界に来て数日が経過したわ。 だいぶ生活にも慣れてきた頃だと思う」
正確には今日で一週間だ。
少し予定は早められているようで、実践向きの訓練も導入されてきている。
東雲が現在の近況と今までの状況を軽く説明してくれた。
とても分かりやすい。
どうやら今日相談したいのは、俺たちが今後どうしていくべきか、ということみたいだ。
「このままお城の人たちに言われたまま生活することもできると思うわ。 だけど、それではダメだと思うの」
「東雲の言う通り、俺たちはこの世界を全く知らない。 ただ言われるままでは元の世界に戻れる可能性は低いだろう。 いいように使われるだけになる。 そこで、まずみんなには元の世界に戻りたいか確認しておきたいんだ」
この国の王、ラウムが言う話では元の世界に戻る方法はよくわかっていないということだった。というのも詳しい話を聞いてみると前回召喚された勇者は一人だけ。魔王を倒した後は消息不明になったらしい。役目を果たしたと判断され、自動的に元の世界に戻された可能性もある。ただ、言えることはこの国では元の世界に帰る方法が無いに等しいということだ。
飛騨の問いに対して帰りたいと手を上げたのは集まった30人のうち28人だった。
俺はどちらでもないので、長いほうにまかれるタイプ、ということで帰りたい側にあげといた。
「みんなありがとう。 やっぱり思っていた通り帰りたい人が多いわね」
「……いやいやみんなおかしいっしょ? せっかくの異世界なんだぞ?」
「……同感」
東雲に反論したのは松田だった。
地味目な外見でひょろひょろっとしたやつなのだが、異世界に来たとたん妙にテンションが高くなった。松田に同意したのはミステリアスな印象をしている下地というやつだ。女子の中でも誰とも組まず、休み時間はずっと一人で本を読んでいるような人だ。
「……私は、特に聞くこともなさそうだから部屋に戻る」
「選ばれし勇者の俺様にも必要はなさそうだな。 雑魚どもは雑魚どもらしく徒党を組んでるといいさ」
「……わかったわ。 あとで話の結果だけは伝えます」
「はぁ? 必要ねぇよ」
今までおどおどしていた松田はここ数日で豹変したかのように態度が変わっている。
何でも自分はこの世界に選ばれたのだ、とか、お前らは巻き込まれただけだ、とか、そんなことを周りに言いふらしているらしい。
東雲はごめんなさいと一言。集まってくれた人たちに向けて謝ってくれた。
松田に爪の垢でも飲ませてやりたいな。
「今までの話をまとめると私たちはこの国で魔王を迎え撃たないといけないのだけれど、魔王がいつ現れるのかはよくわかっていないわ」
魔王が復活する時に合わせて俺たちが呼ばれたが、実際にこちらにせめてくる時期は不明なのだそうだ。もし、魔王を倒すことが帰還するためのトリガーだったとしても、いつまでも帰る方法がわからないまま時間を無駄に過ごしてしまう。東雲はそう考えたそうだ。飛騨と桜田も相槌を打つ。
「この国の人ばかり頼ってはいけないと思う。 だからこそ、私たちは私たちの力で帰還の方法を探しに行くべきだと思うの」
他国でも勇者召喚された実績はある。もしかしたら、元の世界に帰る方法も見つかるかもしれない。帰りたいと思っている人がこれだけいると帰る確率を上げたほうが希望が持てるし、悲観せずに済む。
残ったクラスメイトからも同意の声が上がった。
「それで問題なのは誰が行きべきかだ。 俺としては戦いを避けたい人を優先すべきだと思う。 わざわざ危ないと言われているデモンズロードの魔物共に戦いたくない人を配置するのはリスクが高すぎる」
飛騨の言うことは最もだった。
戦いを避けつつ、帰還方法を探せる。
それでも問題として出てくるのはこの世界を知らない、ということだろう。
「ただ、俺たちは外の世界を全く知らない。 ある程度の戦力配分も考えたほうがいいと思う」
「そうね。 もう少ししたらダンジョンに行ける機会がくるわ。 その時に外の世界でもやっていけるか確認しておきましょう」
外の世界に帰還方法を探す冒険か。
恐らく複数名でパーティーを組んで捜索の旅になるのだろうな。
他人に合わせるのは少しめんどくさい。
できればこのまま王城で気まま暮らしたいところだ。
「それからもう一つお願いしたいことがあるわ。 これから魔王と戦うにしても、帰還方法を探す旅に出るとしても、みんながどんなことをできるのか知っておきたいの。 どうやらヴィネーさんが使ってたステータスを測る機械ではスキル名はわかっても珍しいスキルの力まではわからないみたいなの」
「とりあえず、召喚された日にもらったステータスの紙を見せてもらえるか」
ヴィネーたちは事細かくメモをしていたが、俺たちにそのデータを見せてくれたことはなかった。言えば教えてくれそうな気もするのだが、どうも飛騨はヴィネーを警戒しているらしい。
ステータスを書いた紙は大事だから持っておけ、と言われたので大体の人はそのまま自分の部屋に置いている。
各々部屋に戻りステータスの紙を持ってきて飛騨に見せていく。どうやらスキルの特徴を聞いているみたいだ。
その話の内容とステータスを桜田がスマートフォンに打ち込んでいる。
ちなみにスマートフォンがなぜここで使えているのかはわからない。
すでに俺のは電池がなくなりただの真っ黒い物体になっていた。
そして、俺の番が来る。
隣だからいつでも聞いてくれればよかったのにな。
「最後は如月だな。 スキルはバリアと魔力操作か。 なんか特徴があったりするのか?」
「全然使えないスキルみたいだぞ。 ロイスにスキルは諦めて剣を振れって言われてる」
「ハァー? あんた使えないわね」
今までだんまりだった桜田からきつい一言。
俺の心にグサリと突き刺さる。
「……桜田も飛騨と東雲に任せっぱなしで全然役に立ってないだろ」
「私はめんどくさいのは嫌なの。 いい? 堅苦しい話はまかせてオールオッケーなのよ? それに今スマフォでメモとってるしぃー。 あんたこそ何もしてないじゃん」
確かにその通りだった。
反論できない。
「ま、まぁまぁ、今後何か役に立つかもしれないし桜田もその辺にしといてやれって」
「飛騨がそこまでいうならいいけどー」
くそう。
イケメンコミニュケーションおばけだ。
すでにチート級だぞ飛騨。
「俺は如月が結構いい線行ってると思ってたんだけどな。 ……んーちょっとステータスの紙よく見せてくれるか?」
「さっきも見ただろ。 買い被りすぎだ」
飛騨の手にポンと渡し、じっくりとその紙を凝視する。
しばらくすると、あぁと一声漏らし、俺の肩を叩いてきた。
「なるほどな、どうしてこうなってるのかはわからないけど、何かあったら頼むよ」
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