第6話 日常となる訓練
末永に吹き飛ばされて数日がたった。
クラスのみんながスキルの使いかたを覚えてきて、徐々に対人戦を想定した訓練へと移行してきている。
今日も今日とて訓練だ。
成長を実感できるくらいの変化がみられるのが楽しいのか、嫌々やっている人はあまりいない。
「はぁーー!」
下半身の力が、腹筋、腕へと伝わり銀色に輝く一筋の光が孤を描く。
咄嗟に、右手に持つ剣を構えると、キィンという高い金属音が鳴り響き、弾かれた剣はくるくると宙を舞った。
その剣は遥か後方の地面へとグサりと突き刺さる。
ロイスは肩を落とし、ため息をついた。
「軟弱ものめ、早く剣を取ってこい」
「へいへい」
現在、俺は絶賛しごかれている最中だ。
元々末永がパートナーであったのだが、先日の1件があって変えられた。
ステータスが近しい人を組にしていたらしいのだが、思った以上に龍化のスキルが強いということでヴィネーが手合わせしてくれるのだという。
ヴィネーもかなりのやり手みたいで、この国で1、2を争う魔法使いらしい。
ということで、あまった俺はロイスだ。
「もうちょっと手を抜いてくれよ……剣術なんか俺しらないし」
「だから軟弱だというのだ。 男なら剣の一つや二つ覚えておけ。 そもそもお前はバリアとかいう大した使えないスキルと、もう一つはMPが1にも関わらず魔力操作だという。 剣でも使えないと、この先やっていけんぞ。 ヴィネー様はなぜこんなやつを残しておくのか……」
使えないスキルとは言われているが、実は俺が研究の末にたどり着いた、自らの戦闘スタイルだ。エーテルをバリアに変換し魔力操作により高密度に圧縮をすることで如何なるものをも拒む最強の盾になる。刃のように変形させればあらゆるものを切断する剣となる。
加えて、相手から受ける魔法攻撃は魔力操作によりバリアを張るためのエネルギーに変換することができる。そのため魔法使いに対してはほぼ無敵といっても過言ではない。
魔力がないからこそ、行きついた魔術体系ともいえる。
ロイスは確かに強い。この国で10本の指に入るというのだから相当なものなのだろう。
「早く剣を拾って戻ってこい!」
結構遠くに飛んでしまっているので取りに行くのも一苦労。
本当にもう少し手加減して欲しい。
しびれを切らしたロイスは怒鳴って俺を叱りつける。
「遅い! 走れ!」
「はいはいちょっと待てって」
ただ、元々目立ちたくはないし、身勝手に召喚して協力しろというやつらになんぞ認められたくもない。だからこそ、それなりに立ち回りつつ様子を見るのが一番だ。
地面に突き刺さった剣を引き抜くとずしっと重い。
しかも、左手がないため余計に重く感じる。
「この私が直々に訓練をしてやってるというのにお前は真剣にやれんのか?」
「やってるって、ロイスが強すぎるんだよ」
加えて魔法ばっかりの毎日だったため、剣術の心得は無いに等しい。
今までは魔法をどうやって使うかだけを考えてきた。
だからこそ、こういう魔法を一切使わないことは苦手だった。
そういう意味ではロイスの剣術には学ぶこともあるような気もする。
力の入れ具合、剣を振るためのステップ、回避する時の敵からの受け流し。
どれも丹念に鍛えられ、一つ一つに無駄がない。
先ほどのロイスを思い出し、体の正面にまっすぐと刃を構える。
「……構えはまぁそんな感じだな」
「そうは言われてもこの剣重くないか?」
腕がぷるぷる震えてくる。
前提条件として武器をまともに振るうことも出来なかったため、剣術もへったくれもなかった。
「もう少し軽いものをお願いしたいんだが」
「その剣が重いだと? そこら辺の兵士でももっと重い剣を使っているぞ」
「まじかよ……」
何にしても剣が重い。
これじゃあ訓練のしようもない。
じとっと蔑むような眼をこちらに向け、がっくりと頭を下げるロイス。
「もういい、おまえは腕立て伏せでもしてろ。 今日のうちに500回やっておけ」
「500!? 俺片手なんだけど!?」
「文句があるなら1000いっておくか?」
「500ガンバリマス」
その後、30回ほど腕立て伏せをして力尽きた。
ロイスからはこっぴどい説教を受けたのは言うまでもない。
*
1日の訓練が終わり、自由時間になる。
夕食はシチューにいつものパンにサラダだった。
大体これがいつものパターンになりつつある。
あとは肉のバリエーションが変わるくらい。
今日はパリッとした大きなソーセージだった。
夕食後は訓練で流した汗を流すために浴場に行く。
肉体を酷使した後はさっぽりしてすごく気持ちが良かった。
意外と運動も悪くない。
宿舎のリビングルームに戻ると、一人、俺を待っていたかのように近づいてくる人がいた。
「お疲れ様! 如月君!」
「末永か、お疲れ」
末永は先日俺をふっとばしたことを気にしてるのかよく声をかけてくれるようになった。
龍化のスキルは順調に使えるようになっているようで少し見た目が変わっている。
頭に真っ白な角が2本と、腕に鱗、鋭く尖った爪、長いしっぽが生えていた。
竜人族とかそんなものがいればこんな感じになりそうだ。
「へーずいぶんスキルを使いこなしてるみたいだな」
「えへへー、実は私爬虫類系大好きなんだよね! このキランと光る爪がかっこいい!」
しっぽを振り振りしている。
犬みたいだ。
女子は爬虫類系はダメだと思っていたが末永は少し変わっている。
普段はおっとりした感じなのだが、テンションが桁違いに高かった。
「か、かっこいいな」
「でしょでしょ! ヴィネーさんもすごい喜んでた!」
直にその力に触れたからこそわかるのだが、末永はとてつもない力を秘めている。
ロイスにはまだ及ばないだろうが、そのうち軽く抜いてしまいそうなポテンシャルを持っている気がする。
「ヴィネーは大体誰でも、べた褒めだけどな。 それよりもその恰好って元に戻れるのか?」
「好きでやってるだけだからいつでも戻れるよ」
「不思議なもんだ」
元々の世界では体自体を変化させるという魔法は少なかった。
知っている中でも2、3例あるくらい。
如月家の魔法も体を炎に変換することはできるが、エーテルを莫大に使うため常時変身することは不可能だった。
スキルの中でも様々な形態が存在し、常在型の発動能力、MPを使ういわゆるエーテルを消費して発動する能力、体力を消費して発動する能力等がある。
末永の龍化は変身する時に体力を消費するが、変身後は状態を維持することも簡単らしく常在型と体力消費型の混合タイプのようだった。
「如月君の方はどうだった?」
みんながスキルを使いこなそうとしている中、腕立て伏せしてました。とか、そんなことは言えなかった。もう魔法を使ってしまってもいいのではなかろうか。
「俺は結局スキルがあんまり使えないらしくて、剣術教えてもらってるな」
「剣術もかっこよさそうだね! 今度見せて!」
「そ、そのうちな」
とても見せれるものじゃなかった。
もう少し真面目にやろう。
そんな会話をしていると女子の宿舎から降りてくる人影が見えた。
癖が少しある黒髪イケメンの飛騨、ギャルっぽい桜田、大和撫子の東雲だった。
「如月君に末永さん丁度よかった。 もう少ししたらクラスのみんなで話し合いをしたいのだけど大丈夫かしら?」
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