第5話 異世界の力と現代魔法

 俺のいた世界の魔法はどんなものだったのか? と、問われると一言ではいいきれない。ただ、一つの共通点があるとすればエーテルと言われる魔力が使われるということくらいだろう。

 そもそも自分が知っている魔法は、ほんの一部分にすぎない。数えきれないほどの魔術体系が存在し、しかも、それぞれの宗派が秘密主義を徹底しているため、上辺だけは知っていても魔法の奥底まで知ることはできなかったからだ。

 8歳の頃家から追い出されたときにも、如月家の秘密をばらしたら自動的に死ぬよう魔法がかけられていた。それほどまでに情報を厳重に秘匿している。まぁ今はきれいさっぱり消えているのだが。


 俺のいた如月家は代々カグヅチという火の魔法を受け継いできた。圧倒的な熱量をもってあらゆる物質を灰にする。莫大なエーテルを火のエネルギーに変換し自身の体を炎そのものにすることだって可能だった。炎と化した体は物理攻撃が一切効かず、時には最強の矛となり、時には最強の盾にもなる能力であった。

 その他にも炎を使い自らの分身を作ったり、熱線を収縮することであらゆるものを切断するレーザーを放つことができるなど、まさに化け物じみた強さをもっていた。


 如月家はなぜこのような魔法を使えるのか、そしてなぜ俺が使えなかったのか、才能のない自分が腹立たしかった。才能さえあれば見放されることもなく、生きていくことができたのではないか、そんな妄想がひたすら繰り返された。

 才能が欲しい、才能が欲しいと懇願する毎日。

 そんな毎日が過ぎていき、とある日に才能とは何なのか疑問に思い始めた。

 如月家では火を操ることが才能だった。

 では、その才能の根源は何だったのか。

 ほかのみんなにあって、自分にはないもの。

 才能を形どっている根源さえ突き止められればなんとかできるかもしれない。

 そう考えるようになっていた。

 児童養護施設に引き取られたあとはひたすら魔法の研究をする毎日だった。


 そして、ついにその才能の差を発見した。

 母親からもらったへその緒を分析していた時だった。、魔術的な構成、エレメントの有無、エーテルの反応、式の配置、エノク語との関連性、考えうるすべてのことを実行した。

 すると細胞一つ、一つに不可思議な式が刻み込まれていることがわかったのだ。

 今まで見たこともない芸術的な魔術式だった。構成されている文字は見たことも聞いたこともないもの。これが如月家が代々受け継いできた魔術の結晶だと確信した。


 試しに転写した魔法式を床に描き、液体化したエーテルを垂らしてみた。すると、ゴオォと炎が立ち上ったのだ。まさにこの炎はカグヅチの魔法そのもの。破門される前に必死に発動しようとしていた火を起こす魔法とは格が違ったのだ。

 うれしさのあまり涙が止まらなかった。

 才能とはただ式が埋め込まれているか、埋め込まれていないかの差だったからだ。

 つまり魔法使いとして大勢するためには工夫次第でどうとでもなることがわかった。


 ……少し話がずれてしまったが、一つの魔術体系を語るにはとても長い時間がかかることだろう。如月家は細胞レベルに魔術式を刻印し莫大なエネルギーを生み出し、約60兆個という刻印を自在に操り様々な形態で炎を操る。そのほかの例として、左腕に無数の魔法式を刻印しエーテルを流すことで自由自在に魔法を放つことができる流派、両足に刻印した魔術回路にエーテルを注ぎ込み移動スピードを爆発的に増加させ接近戦をするスタイルなど多種多様な魔法がある。奥深い……と一言では言い切れない。


 対して異世界の魔法は至極簡単でシンプルなものであった。

 現代魔法はまず魔力の源であるエーテルを何らかの魔法式や術式に通す必要がある。それらの式が励起することで神秘的な現象の発生、自然現象の発現をもたらしている。

 しかし、異世界の魔法はスキルを持っていることで、何の予備動作もなく覚えている魔法を使用することができる。ちなみにこちらの世界ではエーテルのことをMPというみたいだ。


 例えば、“魔法スキルLv1(火属性)”の場合、ファイヤーボールという魔法を覚えており、MPを消費するだけで発動することができる。もしかしたら如月家のように細胞レベルで魔術式が組み込まれているのではないかと考えたが、どうもそのような感じはしなかった。

 また、MPを持っている者は誰でも魔法が使えるらしく、その際には古代ラウム語を用いて詠唱もしくは呪文名を描くことで発動するそうだ。ただし、発動の際にはスキル持ちと圧倒的な差が生まれるため、あまり好まれない戦闘スタイルのようである。


 そして異世界の力で最も驚いたのが体力を消費し発動するスキルである。

 いわゆる気功の力とでも言えばいいのだろうか。

 とても不思議で、どうして発動しているのか全く見当もつかなかった。

 今現在、俺の目の前では、いつもぽわぽわ、癒し系小動物女子の末永がスキルを発動しようとしている。まずはスキルが使えないとどうしようもない、ということで二人一組になりスキルの発動練習中だ。


「うううううーー」

「おーーなんかいい感じだぞ末永」

「え? ほんと!?」

「いや嘘だが」


 うるうるとした瞳でこちらに目を向ける。

 彼女が発動しようとしてるのは龍化というスキルらしい。

 ちょっと気に障ったらしく、頬を膨らませて、お腹をぽんぽんと叩いて……。


「ほげああああぁーーー!」


 腹に激しい衝撃が走り、昨日見た大西の如く派手に吹き飛ばされた。

 錐揉みしながら飛んで行く様子はいっそ清々しい。

 地面にズザザと倒れこむと、おろおろした末永が駆け寄って来てくれた。


「だいじょうぶ!? 如月君!?」

「あぁ、お、俺は強いからな」


 きれいな黒髪からチラッと角のようなものが見えた。

 これが龍化の力なのだろう。

 一部スキルを解放した状態でこの威力。

 恐らく全解放した場合全身が龍のようになり、今の何十倍も強くなることだろう。

 しかし、俺は何物をも凌駕する圧倒的な力を持っている。

 これぐらいの衝撃など取るに足らない。

 そう、取るに足らないのだ。

 ただ、なんだかちょっと眠いんだ……。


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