第3話 訓練
翌日、予定通り訓練が始まった。
午前中は座学がメインでこの国の歴史、地理や魔法の一般的な理論、魔物や魔族のことについて教えられた。
教鞭を振るうのはこの国でも有名な聖騎士と呼ばれる人だった。名前はロッジ。お堅い印象を受ける筋骨隆々のがっしりした人物だ。
ロッジは黒板に簡易的な地図を描く。
この世界には大きな大陸が3つあり、その中でもこの国ラウムがあるのはバエルという大陸らしい。近隣の国としては東に高山地帯が広がるブエル、南東には砂漠地帯が広がるデカラビア、まっすぐ南は鬱蒼とした森林地帯が広がるマラクスがあるそうだ。
ラウムは大陸の中でも北西に位置づけられており、一つ特徴的な部分があった。
「諸君、この一本道だが少し不自然な形をしているだろう。実はこれが魔物が押し寄せてくる現況なのだ。名前をデモンズロードという」
西にまっすぐ伸びている一本のなぞの地形だ。黒板に書かれたその地形は長すぎて途中までしか書かれていない。
「このデモンズロードからは絶えず魔物が侵略して来る。 一般常識よりもはるかに強い個体が多く、日々この国は苦労している」
「ロッジさんすいません」
「君は東雲だったか。なんでも聞くがいい」
「このデモンズロードなんですが、この先にはなにがあるんですか?」
「いい質問だ。 だが、その答えは我々もわかっていない。 昔このデモンズロードを進みこちらから攻めたことがあった。ただし、その結果は途中で引き返すというなんとも情けない幕切れだったのだ」
敵の強さもあるが、このデモンズロードが恐ろしく長いことが原因みたいだ。2か月分の食糧を積み込み進行していったが半分が尽きた時点でもまったく先が見えなかったらしい。そして進んでいくごとに魔物のレベルも上昇していく。当時の指揮官はやむなく戻ることを選択したのだという。
「てゆうか、そんな狭いとこならせき止めればいいんじゃね?」
「桜田だったな。 行ってみればわかるがそういうわけにはいかんのだ。 しかも壁を作ったところで壊されるのが落ちだろう」
「ふーん、そういうものなのね」
「城壁代わりとして作られたものはあるが、完全には止めきることができない。 意志ある魔物共を止めるにはどうしても人の力が必要になる」
首都のラウムはこのデモンズロードの付け根に位置しており、勇者はこの道から現れる魔物を排除するのも一つの役割になる。魔王自体はロッジも見たことはないらしいが、約1000年に1度の割合で出現し、魔物の群れとともに押し寄せるという。その魔物の大進行に合わせて勇者召喚が実施され、世界の救済を繰り返しているそうだ。
午後からは剣と魔法の使い方を学ぶ。
この世界ではMPというものがあれば基本的に魔法を使うことができるそうで、みんな同じく練習する。あのMP1は魔法が使えますか?
昼からは教えてくれる人が変わった。長い黄金色の髪にカチューシャをつけた女聖騎士だった。神々しい鎧とその凛々しい姿はまさに戦乙女といったところか。また、ヴィネーも魔法が得意らしく一緒に教えてくれるようだ。
「私はロイスという。 皆に魔法と剣術を教える」
「ひゅーひゅー! かわいいじゃねえの! オレの彼女にしてやろうか? 」
そう言ったのは大西というやつだった。
素行が悪く、よく先生と揉めているのも見たことがある。
今まで悪目立ちしてなかったのがここに来てきたか。
「申し訳ないが、私はお前に興味がない」
ロイスは鋭い眼光を向ける。
その姿は達人のそれに他ならない。
「ハァ~? 俺たちは勇者なんだぜ?」
「だからなんだというのだ」
「勇者っていうのはスッゲー強いらしいな。 この世界に来て何となくだが実感している。 溢れてくるようなこの力、誰にも負ける気がしねぇ。 俺よりも弱いやつ、しかも女に戦闘訓練を教えてもらう道理はねぇ」
「なるほど、それも一理ある」
「ハハッ! そうだろ? つーことで俺と勝負しろ。 俺に勝ったら言いなりになってやるが、負けたら俺の言いなりになってもらおうか」
ロイスは少し怪訝な顔でヴィネーに相談する。
いつも笑顔でキラキラしているヴィネーは何の躊躇もなくあっさり承諾。
「よろしいのですかヴィネー様?」
「ええ、勇気があるのはとても良いことです! 基礎を学んでから模擬戦はやることにしてましたが、やる気満々! 素晴らしいです!」
「へへ、わかってるじゃねぇかヴィネーってやつは」
大西がロイスの前に立つ。
大西のステータス自体はヴィネーのお気に入りには及ばないものの、クラス全体を見ても高い部類なのだそうだ。相手のロイスは正直なところよくわからない。一般的なレベルは勇者と比べてはるかに弱いことは教えられたが、一般じゃないレベルになるとどうなるのか……。そもそも聖騎士というのはこの国に12人しかいない超エリートらしい。この世界の水準を把握するうえでもいい機会になりそうだ。
「えーあなたの名前はなんでしたっけ?」
「大西だ! 大西! しっかり覚えておけよ」
「努力はしますが、すぐ忘れてしまいそうです。 ではルールですが、いつでも私に仕掛けて来てください。 自らが持つスキルや武器を駆使し全力で来ることをおすすめします」
「吠え面書きやがれ」
大西の体から赤い闘気のようなものが噴出し始めた。
現代の魔法とは異なる力。
それを目の前にすると本当に異世界に来たのだなと実感する。
さすがにクラス全員のステータスとスキルは覚えていないのであれが何かはわからない。
「早くもスキルを使いこなしていますね! あれはスカーレットブルというスキルの力です! 闘気を纏うことで自らの身体能力と炎耐性が大幅に上昇します! 纏う闘気を炎に変換することで遠距離攻撃も可能というレアスキルですよ! 素晴らしい!」
懇切丁寧にヴィネーが教えてくれた。
相も変わらず感嘆の声を漏らしている。
「ハハッ! これが俺の力だ! いくぜ!」
ゴオォっと闘気が燃え上がり、ロイスへ一直線に飛び掛かる。
易々と岩をも砕くような紅の拳。
中には見てられないと目を覆うもの、やりすぎじゃねぇのかと不安の声を漏らすものもいた。
だが、もう止められない。
そして次の瞬間信じられないことが起こった。
一回り大きな大西の体がピタリと止まったのだ。
燃え盛る拳はそのままに、ロイスは軽々と左手で受け止めていた。
「ふむ、1日でここまでスキルを操るのは見事というしかないな。 だが、世界は広い。 私は別に勇者なぞ必要ないと考えているからな」
ロイスは反動をすべて受けきり、一瞬、大西の体が宙に浮く。
すかさずくるっと一回転し、スピードを載せた掌底が腹目掛けて撃ち込まれた。
「ぐっ!?」
声にならない衝撃を受け、遥か後方へ飛んで行った大西。
城壁に激しく衝突し、粉砕された瓦礫がガラガラと音を立てて崩れる。
クラスメイトは全員騒然となる。
「安心しろみねうちだ。 さっきも話したが私は勇者なんぞ必要ないと考えている。 ここで訓練するのもしないのもお前たちの自由だ。 だが、この世界で生き残りたいならばおとなしく訓練に参加することをおすすめする」
気絶した大西はそのまま医務室へ運ばれていった。
元々、ほとんどの人は訓練をする前提だったので、その後は筒がなく進められるのであった。
なお、MP1の場合、普通に魔法を使うことはできなかった。
そんな……。
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