第二十二話 犯人とのご対面

 以下、法堂結による仮説。


「まず一つ。時制の問題。

 君と彼女がデートをしたのが日曜の朝。もちろん、日曜だから学校は無いよね。で、噂が爆発的に広まったのが月曜の始業前までの話。もうこの時点で対象は大分絞られてくる。これはあくまで可能性の話だけど、わざわざ他人の恋愛情報をSNSで送るかな? 仮にAさんがデートを日撃していたとして、AからBに伝わることはあっても、BからCに伝わることって少ないと思うのよ。

 大人数のグループでの会話とかなら分かるけど、学校中に広まる程度の規模となると、そこには当然、航君本人がいるレベルだ。そしてそんなログは確認できなかった、と。ツイッターとかでも調べて、口グは残っていなかったんだよね。つまりはオンライン上ではなく、オフライン――ロ頭で伝わったってことになる。

 ――そこで時制の問題。

 広まったのは日曜から月曜のホームルーム前ってことだ。普通の生徒は学校にいない時間……、もうここまで言えば分かるよね。ここで対象者は日曜日に部活があった人、もしくは月曜に朝練なんかで、早くから大人数でいた人間ってなる。野球部とか、サッカー部とかだね」


 ……もう、この時点でおおよその見当はついていたのかもしれない。

 

 俺は昨日の結の推理を思い返していた。

 もっとも、饒舌じょうぜつに得意げに喋り続ける結がウザくて、流し読んでいたきいていただけだから、細かいところまで覚えてはいないが。


 そこにいると同じように。


 『目』が『日』になっていたり、『くち』と『』が入れ替わっていても、意味は理解できるわけだし、問題はないだろう。

 大事なのは推理の過程ではなく、結果だ。

 噂を流し彼女の創作を邪魔する奴は誰か、それが知れればいいんだから。


 昨日の明日、つまりは今日。めんどくさい言い方してごめん。

 水曜日の放課後。今日も天津風が学校に来ることは無かった。だから、なのか、はたまた関係が無いのかは自分自身判断がつかないが、とにかく今日の気分も最低だった。期待して買ったプリンのカラメルが不味かった時よりも最悪だ。勘弁してほしい。

 

「二つ目、これも単純な話。

 発信者が、彼女と航君を結び付けられるほど、二人の仲を知っている人間だってこと。まぁ、これはあくまで補足――裏付け要素だからそこまで重要じゃないかな。航君は認知していない可能性が大きいからね」


 俺は階段を上る。少し足取りが重いけど、俺は夕陽に向かって一段一段登っていく。吠えはしない。拳銃も持ってない。俺の武器は言葉と文字だけだ。

 ――犯人を屋上に呼び出した。そいつの机に置手紙を忍ばせて。

 あれって相手が野郎でもワクワクするもんだな。爽やかさの欠片も無いので青春してる感はしなかったけど、うん。今度天津風に置いてやろうかな。


「三つ目、まぁ、これが一番かな。

 動機、噂を広めた動機を持つ人間。ま、さっき言ったように高校生ってウワサ話が好きでしょ? だから正直自信はないんだけど、まぁ、普通に考えて、他人の恋愛の噂が学校中に広まるなんてあり得ないことだ。いくらお相手が超絶美少女でもね。

 だとするなら、やっぱりそのウワサにはベクトルがあったと言わざるを得ない。広めてやろう、っていうね。ここに悪意があったのかってことは、まぁ発信者に会って確かめると良いよ。人の悪意はきっついからね。病むよ、気を付けてね。

 ――ってまぁ、要するに、彼女、たくさんお付き合いのお誘い断ってきたんでしょう? 分かりやすい話、それで逆恨みってのが、一番考えられる動機じゃないかな」


 錆びた鉄扉を開ける。

 夕陽をバックに、長く黒い人影がこちらに伸びている。

 この前ミーハーを呼びつけた時とは反対に、俺は待たれていたようだった。


「どうも、お待たせしました」


 俺は声を掛ける。

 なるべく穏便に。喧嘩になったら勝てないし。

 まぁでも、しばらくした後にどうせ俺は死ぬんだと思うと、恐怖は薄れた。

 そんな強気なんだか弱腰なんだか分からない俺を真正面に見る犯人は、


「……ここに先生はいないぞ?」


 そう軽口を叩いた。

 暑い胸板、日焼けた肌。


 野球部、エースで四番。

 そう、あの告白勇者だ。



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