第82話「小倉(こくら)へ行こう!」
お久しぶりです(笑)
この作品の更新が滞ったのは、別にネタ切れとか、挫折したとか、心折れたとかじゃなくて、シンプルに体調不良だったからです。
とりあえず土日は熱出して寝込んでたから、物理的に書くことができず、月曜火曜はその事後処理でいろいろとやることがあったので、やはり更新できず、今日ようやく更新再開することができたのです。
いつもこっちでは前書き後書きはカットしていますけど、さすがに休んだ理由は書いとかないとなので書きました。
それじゃあ、ここからは本編をお楽しみください。
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「おい、サトシ! 起きろ! 出かけるぞ!!」
そんなわけで迎えた、毎年恒例の家族旅行初日、8月5日土曜日。
俺が親父に叩き起こされたのは、いかな夏と言えども、まだ夜が明けていなくて暗い、朝の5時だった。
なんでそんな時間に起こされたのかはおいおい書くとして、俺は特に文句も言わずに起き上がり、服を着替えた。
そして、軽く身だしなみを整えただけで5時半頃にはもう、親父、チカさんと3人で家を出た。
「家族旅行」にチカさんがいるということはつまり、もう事実上、そういうことってわけで、別に俺も思春期の気難しい女子じゃないんだから「お父さんの再婚には絶対反対よー!」などとぬかすわけもなく……
3人仲良く、徒歩で防府(ほうふ)駅に行って、朝の6時5分にやって来た始発電車に乗って、小倉(こくら)に向かう。
防府から小倉までの距離は約100キロ。
何事もなければ、普通電車で90分もあれば着く距離のはずだが、運行会社が変わるので、途中の下関(しものせき)で絶対に乗り換えないといけないし、さらに防府から15分ほどで着く新山口(しんやまぐち)駅で謎に長時間停車するので、タイムロスして、約2時間ぐらいかけないと小倉にはたどり着けなかった。
その新山口から新幹線に乗り換えれば、約1時間ほどで着くはずなのだが、親父いわく「新山口から小倉まで新幹線に乗ると、運賃が約2倍になるからダメ」とのことだった、3人で往復とも新幹線に乗ると、約1万円ほど余計にお金がかかるからダメらしい……
じゃあ車で行きゃあいいんじゃないかと思うのだが、親父いわく「運転するのがめんどくさい。ガソリンと駐車場が高い。ガソリンなんか俺が子供の頃はリッター100円が当たり前だったのに今は……」とのことだった。
そんなわけで、俺、親父、チカさんの3人は、地方の電車ではおなじみのボックスシートに向かい合って座り、下関を目指した。
親父とチカさんは談笑していたが、俺は眠いから寝ていた。
5時に起こされるとわかっていたから、昨日は22時には寝たが、それでも眠いものは眠かった。
土曜日の朝の山口県の電車は基本的にはガラガラで、眠ることに支障はなかった。
防府駅から乗った人の大半は新山口駅で降りてしまうし、新山口駅を出てからは、下関市に入る小月(おづき)駅まで、客はまばらだった。
さすがに山口県最大の都市である下関市内に入ると、乗客が増えて、立つ人もちらほら見えるようになるが、大都会の電車と比べたら、こんなもの混雑などとは到底言えなかった。
そんなわけで、ずっと座りながら寝たり起きたりを繰り返していたら、下関駅にたどり着いて、小倉行きの電車に乗り換える。
できたのは戦時中で、いつ限界を迎えてもおかしくないという関門(かんもん)鉄道トンネルを抜けて九州に入り、小倉に着いたのは8時9分。
お目当ての小倉競馬場の開門時刻は午前9時だから、まあ、適切な時刻に到着したと言えよう。
でも、新山口から新幹線に乗るルートならば、あと30分か40分は眠れていたはずだが、ケチな親父は聞く耳持ってはくれなかった、「30分か40分早く起きただけで5000円も節約できるなら、そっちの方がいいだろう」とのたまい……
「よし、朝飯を食おう。俺はラーメンを食べに行くけど、お前たちはどうする?」
小倉駅に着くなり、親父にそう言われて、俺は面食らった。
なんて書くとダジャレみたいだが、40代なのに、セミがうるさい夏の朝に、麺を食らおうとするなんて、うちの親父はなんて若々しい男なのだろう……
「ラーメンって……こんな朝から営業してるラーメン屋があるの?」
「バカヤロー、今時のラーメン屋は24時間営業なんだよ。まあ、ラーメン食べたくないってんなら、お金やるから、なんか好きなもん食ってこいよ。俺は絶対ラーメン食うからな」
「まあ、別にいいよ、ラーメンで……」
「そうか、チカはどうする?」
「お二人がラーメンを食べたいのならば、お供いたします」
「よし、決まりだ、行くぞ、着いてこい」
そんなわけで、親父のあとについていって、小倉駅の近くにあるラーメン屋に到着した。
そのお店の外にある自販機で食券を買ってから、店内に入ると、そのお店には1人用のカウンター席しかなかった。
さらにカウンターに座ると、アンケート用紙みたいな物が置いてあって、初めて来た俺は戸惑うばかりだった。
「ねえ、親父、この紙はなんなの?」
俺は左隣の席に座った親父に質問したが、俺と親父の間には仕切りの板があって、親父と話すためには体を後ろに傾けないといけなかった。
「この紙に丸印をつけることで、自分好みのラーメンが出てくるシステムなんだよ、まあ初めて来たんなら、全部『基本』と『あり』にしとけや。ネギは白の方がオススメだぞ」
「う……うん……」
親父の言いつけ通り、全部「基本」と「あり」 ネギは「白」にして、その紙と食券を店員に渡した。
やがて出てきたそのラーメン、九州だからもちろん細麺のとんこつラーメンなのだが、実に美味だった。
さすがに値段が高いだけあって、今まで食べたことのないような味わいだった。
普通のとんこつラーメンみたく、白濁しているわけではないスープに、秘伝の辛いタレが絡み、実にうまい、箸が止まらない……
俺は一瞬にして、麺を食べ終えてしまった。
「親父、替え玉は?」
「このプレートを所定の位置に置けば、チャルメラが鳴って、勝手に持ってきてくれるぞ」
親父の言う通りにすると、本当にチャルメラのメロディーが鳴り響いて、すぐ替え玉がやってきた。
俺はそれをスープに入れて、再びすすり始めた。
秘伝のタレのせいで辛いけれども、それが食欲を刺激し、気がついた時にはスープまで一滴残らず飲み干していた。
いくらエアコンが効いているとは言え、暑い夏の朝にラーメンを早食いしては、汗だくにならざるを得なかったし、辛味のせいで鼻水も出ていた。
「坊っちゃん、もう全部お食べになられたんですか? 早いですね。はい、これで汗を拭いてください」
右隣の席に座っていたチカさんの差し出したハンカチで汗を吹き、壁に備え付けのティッシュで鼻水を拭きながら、親父とチカさんがラーメンを食べ終えるのを、俺はボーッとしながら待っていた。
こんな狭い席では、暇潰しに何かすることもできない。
「よし、そろそろ行くか」
親父にそう言われて、俺たち3人はラーメン屋の外に出た。
来る前は朝食にラーメンってどうなんだろうと思っていたが、実際に来てみるとお腹もいっぱいになるし、おいしくて精神的にも満たされるし、いいことだらけじゃないかと思った。
実に変わったシステムのラーメン店だったけれども、この味ならばまた来てみたいなと思った。
ラーメンを食べ終えた俺たち3人は、再び小倉駅に戻り、そこから競馬場に向かうためにモノレールに乗った。
よく晴れた夏の朝で、相変わらず、セミはうるさく鳴き続けていた。
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