第22話「修羅場?」
突然のナナの来訪に固まる俺と女子3人。
「あっ、ごめん……友達来てると思わなくて……」
ナナも困惑しているようで、しばらく居間の出入口で立ち尽くしていたが、優しい性格だからか、この気まずい空気をなんとかするために真っ先に口を開いてくれた。
しかし、なんだこれは?
これがいわゆるひとつの「修羅場」というやつなのか?
「でも珍しいね、サトシが友達を家に呼ぶなんて……」
いや、ちょっと待て。
俺はここにいる4人の女子の誰とも付き合っていないのだ。
そう、だから、これは修羅場でもなんでもない。
高校の同級生4人が俺の家に来ているだけなのだ。
それだけなのに、いったい俺は何にビビっているというのだろうか?
「呼んだんじゃないよ、勝手に来たんだよ……」
そう、ビビる必要なんてないのだから、俺はサアヤさんたちのことを牽制するために、チラ見しながら、ナナと会話をした。
「そうなの? 私と一緒なんだね」
「いや、全然ちが……」
優しいナナは3人の来訪を好意的に解釈したみたいだが、俺は突然の来訪に迷惑しているという真実を伝えようとした。
「池川くん、こちらの美女はどなたですか?……って、えええええっ!!」
しかし、突然大声をあげたパーラーに阻まれてしまった。
「な、なんで……こんなところに……あなたがいるんですかあああああっ!?」
パーラーはなぜかとても興奮していた。
そして俺は書かずにおれない。悪かったな、「こんなところ」で……
「え?」
ナナの困惑を無視して、パーラーは立ち上がり、ナナに近寄りながら、話を続けた。
ナナのおっぱいをガン見しながら……
「うん、そうだ……この、おそらく1メートルオーバーの爆乳……間違いない! あなた1年B組の
「え? ええ、そうだけど、なんで知ってるの? あなたはいったい誰?」
戸惑うナナに構うことなく、パーラーは目をキラキラ輝かせながら、早口で話を続けた。
「ボクですか? ボクは1年A組の二条ヒトミです。あだ名はパーラーなので、パーラーって呼んでください! いやー、それにしてもビックリですよー! こんなところでうわさの国司ナナさんに会えるなんてー!!」
「え? 私、なんでうわさになってるの?」
「ええ、そりゃあもう、そのおっぱ……」
「やめい!」
ナナはおそらく、その大きすぎるおっぱいにコンプレックスを抱いているのだろうと思っていた俺は、パーラーのデリカシーのない発言を止めるために、パーラーの口をふさごうとしたが……
「グホォォォォッ!!」
俺がパーラーの口をふさぐよりも先に、マッチの左ストレートがパーラーの左脇腹に炸裂していた。
その強烈なストレートのせいで、パーラーは居間の端っこに倒れ込んだ。
「な……なんで……マッチ……」
「天誅よ、天誅……」
「ぐふっ……」
哀れ、パーラーはその短すぎる生涯を人んちで終えた。
「そ、そんなことより、あなたはどなた?」
パーラーの死を見届けたサアヤさんが、ナナに尋ねる。
「え? どなたって言われても……」
「ひょっとして
困惑し続けるナナに、いらんことを聞いたのはマッチだ。
「え? 助兵衛って誰のこと……」
「そ、そんな……彼女がいたの? サトシくん……私のことダマしてたの?」
マッチのせいでナナはますます混乱し、サアヤさんは潤んだ瞳で俺のことを見つめてきた。
なんだか収拾がつかなくなってきたぞ……
例のごとく、冤罪を被らされそうになっているし、ここはもう、俺が説明して、この場を収めるしかなさそうだ。
「せ……せっかくの機会だから紹介するよ。こちらは俺の隣の家に住んでる幼なじみの国司ナナ……」
「はああああーっ!? 隣の家に同い年の爆乳幼なじみが住んでるとか、これなんてエロゲですかあああああーっ!?」
あ、パーラー、やっぱり生きてた……ま、死ぬわけないよな、そんな左脇腹殴られたぐらいで……
「エ、エロゲ……?」
パーラーの絶叫に、ナナはまたまた困惑する。
「ああ、気にしないでください……そんなことより、ここで会ったのも何かの縁。国司さん、ボクと友達になってください!」
「え? 友達? ま、まあ別にいいけど……サトシの友達なら、悪い人じゃないんだろうし……」
戸惑いながらも拒絶しないところがナナの優しさである。
「ありがとうございます! では、お近づきの印に、ぜひ、その爆乳を揉ませていただきたい……ちょいと失礼して……グホォォォォッ!!」
「天誅……」
哀れ、マッチの強烈な正拳突きによって、パーラーは吹っ飛び、007以来の2度目の死を迎えることになってしまったのだった。
「そして、こっちは軽音部の先輩の松永サアヤさんと、俺のクラスメートの京山マチ。今、そこで死んでるのも俺のクラスメートの二条ヒトミだよ」
「あ、先輩だったんですね。はじめまして、よろしくお願いします」
サアヤさんが先輩であることを知ったナナは、礼儀正しいので、敬語できちんと挨拶をした。
「うん、よろしく……」
一方のサアヤさんはなぜかふくれっ
これはおそらく、何かとんでもない誤解しているに違いない……
「それでナナちゃんは、いつからサトシくんと付き合ってるの?」
果たして、サアヤさんは的外れな質問をした。
「え? 付き合ってる? 私とサトシが? アハハハハ……」
サアヤさんの質問を聞いたナナは笑い始めた。
「な、何がおかしいの? 正妻の余裕?
「え?」
もちろんナナは俺の正妻ではないし、俺がサアヤさんのことを弄んだ事実もないが、もはや俺にはツッコむ気力はなかった。
「バカになんかしてないですよ。ただ、松永先輩、思い込みが激しいから、おかしくて……アハハハハ……」
ナナは依然として笑っていた。
サアヤさんの言葉がよほどツボに入ったみたいで、笑いすぎて、涙が出るほどに笑っていた。
「松永じゃなくて、サアヤでいいよ。それよりナナさん、何がそんなにおかしいの?」
笑うナナに反して、サアヤさんは怒っているみたいだった。
「じゃあ、サアヤ先輩。先輩はめちゃくちゃ誤解してらっしゃるみたいですけど、私とサトシはただの幼なじみで、付き合ってなんかないですよ」
ようやく笑い終えたナナが真実を語った。
「え? そうなの? サトシくん」
「そ、そうですよ。俺とナナは付き合ってなんかいません!」
サアヤさんの誤解を解くためには必要なことだったが、自分の口ではっきり「付き合ってなんかいません!」と言うのは、なんか悲しかった。
「本当に?」
しかし、サアヤさんは疑り深かった。
「本当ですよ」
「でもサトシくんって、おっぱい星人だから、絶対にナナちゃんのこのおっぱいのこと好きだよね!?」
「ええー?」
「大好きだよね! 絶対!!」
何もここでそれをぶっこまなくてもと思ったが、「一度空中に放たれた言葉は消えてしまい、捕まえることは誰にもできない」とエリック・ドルフィーも言っているように、言わなかったことにも、聞かなかったことにもできないのだった。
「アハハハハ! サトシったら友達に『おっぱい星人』って呼ばれてるの? アハハハハハハハハハ……」
サアヤさんの発言はまたしてもナナのツボに入ったらしく、ナナはしばらく笑い転げていた。
「そ、そうだよ! サトシくんは私のFカップおっぱいに夢中なんだからね! そんなお化けみたいなおっぱいには負けないんだから!!」
「サ、サアヤさん……もうそれぐらいで、やめてください!」
もう本当に勘弁してほしかった俺は、サアヤさんのことを止めた。
サアヤさんに悪気がないとは言え、「お化けみたいなおっぱい」などと言われては、ナナが気を悪くすると思ったのもある。
現にさっきまで笑っていたナナが急に黙り込んで、うつむいてしまった。
これはまずい……
「あ、あの……ナナ。サアヤさんも別に悪気があったわけじゃなくて、なんていうか、この人、ちょっと天然で……」
ここでナナにキレられては困るので、俺はなんとかなだめようとした。
「えー!? サトシくん、ひどい! 私、天然なんかじゃないよー!!」
「ちょっと黙っててください、サアヤさん! あのー、ナナ?」
ナナは依然として、うつむいたまま黙り込んでいた。
しばらく沈黙の時間が流れたのち、ナナが話し始めた。
「あの、サアヤ先輩は口が堅い方ですか?」
「え?」
「秘密とか守れる人ですか?」
「ナ、ナナ……何を?」
「大丈夫。心配しないでサトシ」
俺はナナが今から話そうとしていることを察して止めようとしたが、いつになく真剣な表情をしているナナを見たらなんだか、止めてはいけないような気がして、黙って見守ることにした。
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