第11話 クルツバッハ救援

「ルーク様! クルツバッハ城が魔物に包囲されてますニャ!」

「数は?」

「大型の魔獣が10、それにくっついてる中小が……1万ほどニャ」


 シーマの報告に場が静まり返った。マリオンすらその顔から表情が抜け落ちている。大型魔獣は冒険者が今回のように部隊を編成し、それでやっと1体に当たるような相手だ。単騎でどうにかなる相手ではない。


「心配するな。あの城はそうそう落ちん。大型魔獣が来ても迎撃できるように大型兵器を配備している」

「急ごう!」

 マリオンが必死の表情で俺に訴えかけている。

 マリオンですらこうなのだ。ほかの連中の心情は考えるまでもない。だから俺はこう言った。


「飯にしようか」

「は!?」

 驚きの声が上がる。そんな中、カールがニヤリとしながら俺の方によって来た。

「炊煙を派手に上げると?」

「ああ、のろしっぽくな」

 カールはうなずくとすぐに準備を始めさせた。


「腹が減っては戦はできん。大丈夫だ。俺たちには聖女様の加護がある!」

 カール自身もパンをかじりながら冒険者の間を回り激励していっている。

 敵の数を知って明らかに動揺してたからな。一呼吸置く必要があった。それと、こっちの煮炊きする煙で、援軍の到来を知らせられる。

 父上ならば必ずこっちの意図に気づくだろう。


 昔、寝物語で聞かされたとある戦の故事があった。

 戦場でにらみ合っていた時、敵方の炊煙が普段より多いことに気づき、襲撃があることを予測した。

 そこで、あえて本陣を空にして、伏兵をもって敵軍を破ったという。


 これは人間同士の戦の話で、魔物相手に通用するかどうかはわからない。ただ、こうすることで、父上ならば俺が兵を率いて近づいていることを理解するだろう。


「さて、飯は食ったな。じゃあ、進むぞ」


 陣列を組み街道を進む。戦いの様子が見えてきた。

 ズンと腹に響く重い音が聞こえ、城壁上からバリスタが発射される。槍ほどもある矢が今にもブレスを吐こうとしていたドラゴンの口の中に突き刺さり、ブレスが暴発した。

 大型魔獣が一体、目の前で倒れ城壁の上とこちらの部隊でも歓声が上がる。

 ひるんだ中小の魔物に矢が降り注ぎ、数人の魔法使いが合わせて詠唱した巨大な火球が着弾した。

 その攻撃をきっかけに魔物の包囲が緩む。ゴブリンなどは明らかにひるんでいて逃げ腰になっていた。

 そしてゴブリンの目線の先はある一点を見ていた。


「クラウス! あの一点に最大威力で叩き込め!」

「ああん? 僕に指図するな!」

 半ギレで言い返してくるので、俺はマリオンを見た。

「クラウス、頼む」

「ふっ、この僕に任せるがいい」

 ファサッと前髪をかき上げ、ワンドを構えた。

『古の盟約によって、エルノールの名において命ずる。集え、焦熱の光、爆炎よ風をはらみ燃え盛れ! 紅き輝きよ! クリムゾンフレア!』


 狼の姿をした巨大な魔獣がその余波を受けて火だるまになった。クラウスは全魔力を使い果たしてへたり込んでいる。

「ふっ、どうだ、僕の魔法は」

 しゃがみ込みながらもマリオンにアピールしているが、彼女はカタナを構えて一点を見つめている。クラウスの魔法が着弾したあたりを。


 地面が赤熱し、輻射熱がかなり離れたこの辺まで届いている。大型魔獣を余波だけで倒すあたりとんでもない威力だ。

 普通、これくらいの威力がある戦術級魔法は熟練の魔法使いが厳しい訓練を積んで詠唱を重ね合わせて発動させる。

 それこそ、この威力なら並みの魔法使いなら20人はいるだろう。


 魔法の着弾点から唐突に魔力が膨れ上がった。急速に温度が下がり、ピーンと張りつめた音とともにそれまで赤熱していた地面が凍り付く。


 それを感じた瞬間、俺は走り出した。後追いで聖女様の魔力が俺を包もうとする……が、それを解呪する。

「なんで!?」

 後ろでなんかわめいているが、他人の魔力が混じるとよくないんだよな。


「ふははははははははは、この俺様に気づくとはほめてやr」

 セリフは最後まで言わせなかった。

 最後の二歩は縮地を使い、瞬時に間合いを詰める。そして高笑いする魔族の男の胸に右手を当て、そのまま全力で地面を踏みしめ寸勁を叩き込んだ。


 背中側に突き抜けた衝撃波が胸に風穴を開ける。そして、王様からもらった装飾過剰ななまくらに魔法剣を付与して一撃でその首を飛ばした。


「とりあえず心臓つぶして首を飛ばせば死ぬだろ」

 そのまま後ろ向きに倒れた身体とは別に、首が上空に飛び上がり、上空で爆発した。

 それが合図だったのか、魔物の群れが四散しはじめた。俺は大声で勝利を宣言する。


「敵将、勇者ルークが討ち取った!」

 奇襲だろうが何だろうが、勝てばいいんだよ。

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