第10話 集いしもの達

 王宮の門を出た先の広場にがやがやと人が集まっていた。勇者が現れたことは市井の人々にはまだ公表されていない。

 おそらくは魔王の復活とセットで公表される予定だったのだろう。


「ルークきゅん!」

 うん、なんか腕に絡みついてくる存在があった。

 シーマが無表情でぺりっとはがしてポイ捨てする。

「ルーク様に近づくにゃ!」

 もはや様式美となっている。

「んもー、そんなぷんすかしてたらルークきゅんも振り向いてくれないゾ?」

「そんなことはないニャ! ルーク様はニャーを一生離さないって言ってくれたにゃ!」

「ちょ!?」


「ルーーーーク! 私というものがありながら貴様!」

「あらあら、さすがわたくしの勇者様ですわねー。うふふー」

 うん、素直に膨れているマリオンよりも笑顔が微動だにしないアナスタシア様の方が怖い。


「って言うかシーマ、あれはだな……」

「一生面倒見てくれるにゃ?」

「ぐぬ、それは家臣というか従者というか……」

「うん、それでもいいニャ、今はニャ」

 別の意味で背筋を寒気が通り過ぎる。肉食獣に狙われた瞬間というか……?


 とりあえず話を本筋に戻す。

「チコさん、この連中は?」

「あー、連中ってひどいわねえ。ギルドで募った義勇兵よ?」

「はい?」

「義勇兵(ボランティア)って言ったのよ。クルツバッハ領へのね」

「……いったいどんな手を使ったので?」

「んー、参加時点でギルドポイント100。功績を上げたらそれに応じて昇格。報奨金と持ち込み素材の買取査定を底上げ」

「ちょ!? そんなことしていいのか!?」

「大丈夫よ。ギルドマスターも認めてるし」

「へえ、マスターの許可を取ってきたんですか。大したもんだ」

「とってないわよ?」

「はあ!? じゃあどうやって認めさせたんです!?」

「えー、だってあたしがマスターだし」

「なん……だと?」

 周囲の冒険者たちがうなずいている。

「知らなかったニャ?」

「ああ……」


 呆然としていると、チコさん、改めマスターがてきぱきと指示を出していく。パーティを取りまとめ、そこにソロの冒険者を配属する。複数のパーティを組み合わせ部隊を編成していった。

 20名程度の小隊を5つ編成し、部隊の指揮はマリオンが執ることになる。

「任せておくがいい!」

 

「う……ここは? というかなんで僕の顔がこんなひりひりするんだ?」

 クラウスが目覚めたようだ。

「よう、クラウス」

「む、ルーク! すべての女性の仇敵が!」

「さすがにそれは大げさに過ぎるな。で、今のお前の立場を教えてやろう」

 国王暗殺未遂と聞いてさすがに顔から血の気が引いていた。

「僕は無実だ!」

「ああ、そうだろうよ。だけどな、世間はそうは見ちゃくれない」

「くっ、殺せ!」

「どうせ殺されるなら、お前に濡れ衣を着せた魔王と刺し違えたらどうだ?」

「……何が言いたい?」

「魔王討伐に出ることになった。お前も来い」

「僕にどんなメリットがある?」

「そりゃあ、あれだ。世界を救った英雄になれるぞ?」

 勝てれば、な。というセリフはあえて口にしなかった。そんなもん普通に考えたら後ろにくっついてて当たり前だろう?

「くく、くくくくくく。ふふふ、あーーーっはっはっはっはっは!

 良いだろう! この世紀の大賢者たるクラウス様がついて行ってやろうじゃないか!」

「お、おう、頼むぞ」

「ああ。功績を立ててマリオンを取り戻す! 魔王などそのためのおまけにすぎんわ!」

 なんかいろいろすごいこと言ってるな。こいつの自信はいつもながらどこから来るんだろうか?


「勇者殿、俺はこの冒険者部隊を任されたカールだ。よろしく頼む」

「ああ、よろしくな……って冒険者やってるカールって、あのカールか?」

「たぶん、そのカール、だろうな」


 王都最強と言われる冒険者カール。本名をカール・ヨハネス・ヴァレンシュタインといって、貴族の傍流らしい。

 槍の使い手でもあるが、彼の実力は部隊を率いたときに発揮される。50名の冒険者小隊を率いて、大規模なゴブリン討伐に参戦した時のことは語り草だ。

 ゴブリンの数が想定よりかなり多かったようで、奇襲を受けて本体の騎士団が崩れた。

 敗走する騎士団を援護するため戦場に踏みとどまって追撃を食い止める。言葉にすれば簡単だが、その中で伏兵を用いて逆襲に成功し、見事に撃破したそうだ。

 

「なに、多少知恵が回るだけだ。一騎打ちなら勇者殿はおろかマリオン殿にも敵うまいよ」

「マリオンの強さはある意味異常だから気にしない方がいい」

「んー、まあそうだなあ。あのマリオンの真の力を引きずり出したうえで真っ向から叩き伏せることは俺にはできんなあ」

「あれは普通に搦手だぞ?」

「俺がやるなら罠を仕掛けまくって7日ほど寝かせず疲弊させたうえで狙撃になるな」

「なるほど。貴殿とは話が合いそうだ」

「「はっはっはっはっは!」」


 そんな俺たちを見て周囲の冒険者がドン引きしていた。っていうか、真っ向から魔王に斬りかかるとか無理。切っ先をそらし、常に相手の裏をかき、疲弊させて罠にはめて討ち取る。

 勇者らしくないとかそんなもんは知ったことじゃねえ。


 何はともあれ、俺たちは出立の準備を整えた。100を超える冒険者が部隊ごとにまとまり、その中央に俺たちが居る。

 魔物の奇襲を警戒した陣形で、街道を進む。


 数日後、クルツバッハまであと2日というあたりで、小高い丘を登ったところでシーマが急を知らせてきた。

 クルツバッハは無数の魔物に取り巻かれ、攻撃を受けていると。

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