第9話 任命
「よくぞ参った、勇者ルークとその仲間たちよ」
「はっ!」
膝をついて頭を下げ、ありがたくその言葉を聞く。
大臣の皆さんが胡乱げな目でこちらを見ていた。魔王の復活自体が教会の与太だと信じている者もいると聞く。
「陛下、神託がありました。彼の勇者であれば、必ずや魔王を打ち破ることでしょう」
うん、聖女様が今日も元気に電波を発信している。そんなもん受けた本人にしかわからないからなあ。
「うむ、アナスタシア殿。そなたの働きにも期待している」
「はい、勇者様に従ってわたくしもその助けになりたいと思っております」
その言葉に少しざわめきが起きた。王都の教会のお偉いさんだ。アナスタシア様の治癒魔法の力は本物で、どうも裏で私腹を肥やしているらしい。
「陛下、私も勇者に従ってその剣となります」
「おお、マリオン嬢か。そなたには娘の親衛騎士団長を任せようと思っていたのだが……」
「姫の御身を守るため、魔王を討つのです」
「ようわかった。そなたの武運、予も祈らせてもらおう」
「はい、ありがたきお言葉にございます」
うん、王様の言葉は鷹揚だが徐々に機嫌が急降下している。自分の手元に置いておきたい人材が勇者に引っこ抜かれまくっているんだからだろう。
「勇者ルークよ。そなたの魔王討伐には最大限の支援を与えようと思う。何なりと望みを申せ」
シーマがアイコンタクトで気をつけろと言ってきた。
「なれば……魔王の意図をくじくため、魔の森への出撃をお許し願いたい」
「……そなたはこの国のみならず、世界全体の希望じゃ。神に授かった力、それを真っ先に身内に使うとな?」
そもそも、なんか力をもらった記憶も覚えもない。
「なれば、まずはどこに向かうべきでしょうか?」
「ふむ、確かにやみくもに動いても仕方ないな。まずは王都にて情報を待つのが最善と思うが?」
もっともらしいことを言っているが、意図は透けて見えた。クルツバッハの力を削ぎたいのだろう。
ほかにもいくつか要望を上げた。資金、装備、兵力だ。すべて退けられた。
謁見は実りのないままに終わり、俺たちは退出を命じられた。そのとき、トラブルが再びやってきた。
「ルーーーーーク! 貴様勇者を詐称したあげく、マリオン嬢を手籠めにしたと聞くぞ! このクラウスが貴様を消し炭にしてくれる!!」
王様を含め、並み居る大臣たちもポカーンとしていた。これはある意味チャンスだ。
「クラウス! バカなことを言うんじゃない!」
マリオンが顔を真っ赤にして叫んだ。
「おお、マリオン、君は騙されているんだ!」
「そもそも、私が剣をささげる相手を自分で選んで何が悪い!」
騎士が剣をささげるイコール主君と仰ぐということになる。あ、マリオンの実家の名代、確かマリオンの叔父上だったかがカッコーンと顎が外れそうな顔をしている。
「なんだと!?」
「それにだ、無理やりになんてされてないぞ!」
そもそも何もしてねえ。だが、この一言でいろいろ決定的な事態が固まりそうだ。してない証拠なんか出せるわけがない。
「ふふ、ふふふふふふふふふふ……」
クラウスの周りに魔力が集まって行く。
「世界の根源たるマナよ、集いたまえ。このふ不届きものに鉄槌を下さん!」
すっとアナスタシア様が前に出て防御結界の呪文を唱え始めるが…‥間に合わない。
「炎の精、風の精、雷の精、集い螺旋を描き一筋の矢となれ!」
3つの精霊力が集まって魔法陣を描く。今だ!
「水弾、氷弾、礫弾よ、わが敵を討て!」
もっとも単純な魔力弾の魔法に属性を付与する。それぞれの魔法陣で、複数の属性をつなぐ支点となる部分にそれぞれの反属性になる魔弾をぶつけ相殺することで……魔法陣が砕けた。
「なん、だと!?」
すっと背後に回ったシーマがクラウスをシバキ倒す。魔法の発動を止めてからじゃないと魔力が暴走するからな。
上級魔法、それも三属性を束ねた戦術級魔法をもっとも初歩的な魔弾で相殺してのけた。
その所業にクラウスの上司にあたる宮廷魔術師長があんぐりと口を開く。
「な、な、な……」
というかあのまま魔法が発動していたら玉座は跡形もなかっただろう。っていうか、クラウスってマリオンに惚れてたのか。ある意味お似合いだと思うんだが……というあたりでつま先を思い切りマリオンに踏み抜かれた。
「なんということだ! 我が学友を洗脳し、王を害させようとは言語道断!」
とりあえず出まかせを口にする。たぶんこいつは厚くなると周りが見えなくなるからな。ただ、新進気鋭の宮廷魔術師が王に向けて戦術級の攻撃魔法をぶち込んだとなると、いろんなところがひっくり返る。
俺の演技に乗ってくれた魔術師長もこくこくと頷いて、重々しい口調でセリフをかぶせてきた。
「クラウスはいまだ心が未熟、そこを付け込まれたのでしょう」
今の空気ならいける。
「王宮にまで魔王の手先が及んでいる今、猶予はありません。我らは単身でもクルツバッハに向かいます。かなうならばお許しを」
やや血の気のひいた顔で王様もうなずいた。
その返答を見極めたのち、俺たちは踵を返す。クラウスもとりあえず引っ張て来た。文字通り足をつかんで引きずるように、だ。
王都の人々の歓呼もなく、見送りのセレモニーもなく、ただ、守るべきものを守るため、王都を出ようとすると……なぜか城門付近に人だかりがあった。
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