第7話 決着、そして
決着がついた瞬間、本来は歓声が上がるものだったのだろうが、逆に静まり返った。
「うわあ……」
観客の誰かが漏らしたつぶやきが彼らの心情を代弁していたのだろうか。
見た目は俺がマリオンの斬撃をかわし、懐に飛び込んだ。そして、密着状態から手のひらを腹に触れさせた。
直後、マリオンが盛大にリバースしてそのまま崩れ落ちた。
シーマの解説で、俺の攻撃は適切に伝わったものと思う。まして真剣で攻撃されていた状態。過剰防衛にはならない……はずだ。
とりあえず冷え切った空気に耐えきれず、俺はマリオンを抱えてギルドの医務室に連れて行った。
鎧を脱がせ、濡れタオルで顔を拭く。若干酸っぱいにおいがしたがそれはまあ、原因は俺だから気にしないことにした。
シーマがシレっとやってきて、俺の手助けをしている。会場では、大穴を当てた冒険者がどんちゃん騒ぎをしているらしい。
「ルーク様、ちょっとやりすぎかもにゃ」
「んー、一番ダメージが少ない場所を選んだと思うんだが」
「身体的にはそうニャ。けど……乙女の尊厳に致命的なダメージが入ってるにゃよ?」
そう言われて、自分の所業を振り返る。衆人環視の前で嘔吐するとかそのまま顔からベシャッと行くとか確かにひどい状況だ。
ちょっと自分でもやらかしたなーって思っていると、マリオンの表情が少しゆがんだ。
「おっと、こりゃいかん。慈悲なる御手よ、癒しの恩寵を垂れたまえ……治癒(ヒール)」
ペロンとシャツをめくって、俺の手の形についたあざにそのまま手を添え、治癒魔法をかける。
「っていうか、攻撃魔法を使えるわ回復魔法も使えるわ、剣術も体術も超一流。相変わらずでたらめニャ」
「んー? そうか? けども飛びぬけたものがないからなあ」
「いやいやいや、その万能っぷりがある意味異常ですにゃ」
「そんなもんか」
というあたりで、マリオンが目を開いた。寝ぼけた目でこちらを見るとふにゃりと微笑み、俺に手を伸ばす。
がしっと首のに縋りつかれたような状態になって、そのまま顔が近づいてきて……シーマがスパーンとマリオンの頭頂部に一撃した。
「はっ!?」
「寝ぼけたふりして何をしてるニャー!」
「は? え? はわっ!?」
「ってホントに寝ぼけてたにゃ……」
マリオンはおそらく今の自分の行動と、直前に試合で何があったかを思い出したのだろう。
一瞬で涙目になってこちらをにらむとこう告げてきた。
「くっ、殺せ!」
思わず呆けた顔をしていたんだろう。涙目ですねたような表情をしているマリオンに少し見とれてしまったのかもしれない。珍しい表情だとも思った。
「いやいや、何を言ってる?」
「だって、あんな醜態を見せてしまった。もうお嫁にいけない……」
いつもキリッとしていて、下手な男子よりもモテていたマリオンが見せるこのギャップ。いろいろやばかった。
「そんなことはないだろう?」
「婚約破棄されて、試合とはいえ敗北を喫したんだぞ! もう私に価値なんてないんだ……」
顔を伏せて肩を振るマスマリオン。そしてなぜかシーマが両腕を輪っかのようにして抱えるようなゼスチャーをしている。すぐにその意図に気づいたが、さすがにそれはまずいだろう。だから俺はマリオンの頭をポンポンとなでながら言葉をかけた。
「試合の結果はともかく、お前の剣の腕は俺より上だ。お前の力は俺がよく知ってる。それじゃいかんか?」
ちょっと表情が緩んだが、これはマリオンの期待通りの言葉ではなかったらしい。すねたような表情は変わらなかった。
「じゃあ……私もお前と共に行く」
「冒険者になるってか?」
「ちっがーーーーう! お前は勇者になったんだろう?」
「ってお前までそんな与太を信じてるのか……」
少しあきれた表情が出てしまった。しかし問題はそこではなかったようだ。
「ルーク、お前それマジで言ってる?」
「……事情を聴こうか」
「ああ。アナスタシア様は正教会が認めた聖女だ。それは理解しているな?」
「らしいな、そんなお偉いさんがなんで俺なんかを、なあ?」
「そこは置いとこうか。……魔王の復活もアナスタシア様が予言されたのだ。ルーク、お前が最近こなした依頼、討伐が多くなかったか?」
「ん、ああ。さっきもオーク退治の依頼を受けようかと思ってた」
「異常なんだよ。魔物の増え方が」
「……ふむ。そこは理解した。で、そういうことなのか?」
「ああ、すでに報告は教会を通じて王にまで上がっているだろう。明日にでも使者が来るんじゃないか?」
「まじか……」
というあたりでシーマが決定的なセリフを発した。
「ルーク様、お客様ですニャ」
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