四の十

 三方向に打ち出された紫色の竜のアルマと、三色のアルマの砲弾が互いのアルマを打ち砕かんとスパークを続ける。

 あぐりも、紫も、小町も、体内のアルマエネルギーをすべて砲弾に注ぎ込む。

 カシンも負けじと三方向へとアルマを放出する。

 ――なぜだ。

 彼は信じられない。

 つい先ほどまで完全に彼女たちの能力を凌駕していた。

 それなのに、今は完全に押されている。

 ――なぜだ、小娘たちは急激に力を増大させたのか。

 彼女たちのなかに眠っていたアルマ力が、揺さぶり起されたというだけではない。

 四百年も生きてきた自分が知らない、なにか不可思議な要因が彼女たちに作用している、としか思われない。

「なんだというのだっ!」

 カシンはさらにアルマの放出を増大させる。

「「「負けるもんかっ! ! !」」」

 三人もアルマを放出する。

 しだい、しだいに、三人のアルマ砲弾がカシンに迫っていく。

「バカなっ!そんなバカなっっっ! ! !」

 ついに、悪魔の力を、少女たちの純粋な力が超えたっ!

「がああああっ!!!!!」

 カシンの絶叫が響く。

 三つのアルマ砲弾は、カシンにぶつかって爆発すると、そこにピンクと青と黄色が混ざり合った円柱を作り上げた。

 三人はさらにアルマを注ぎ込む。

「こんなもの、こんなものでっ!」

 カシンはあがく。もがく。

 だが、その体は、じょじょに円柱のなかを上昇していった。

 そして、三十メートルも浮き上がったころ、

「その体から出ていけっ!」

 あぐりが叫ぶ。

 はじかれたように、円柱から楯岡晴明の体が飛び出した。

 円柱に残ったのは、暗紫色の人の形をした化け物だけだった。

 落下していく晴明の体が地面に激突するかと思われた瞬間、黒い影がさっと横切り、その体を受け止めた。

 藤林源次郎が駆けつけたのだ。

 源次郎は晴明をかかえ、娘たちに向かって、親指を立てたサムズアップ

 父に向ってうなずいたあぐり。

 その視界の端を、小さな影が走る。

 その影は光の柱へと一散に突撃していく。

「アオイさんっ!」

 あぐりの呼びかけに呼応するかのように、その小さな子犬の体から、金色の影が浮かび上がった。

 あぐりも、紫も、小町も瞠目してそれを見つめた。

 その光の中には、少女がいた。

 一糸まとわぬ姿の、美しい、あぐりたちと同じ年ごろの少女。

「キョウノスケっ!」

 少女は、腰まである漆黒の髪をなびかせて、円柱のなかでもがく霊体にむかって叫んだ。

「アオイっ!」

 カシンが彼女の名を叫んだ。

「もう終わりにしましょう」

 アオイは、カシンにむかって、穏やかに、しかし力強く言った。

「私たちは四百年も生きてきた。もう充分でしょう」

「まだだ」霊体は苦痛に顔をゆがめて言った。「私はまだ、人類を革新に導いていないっ」

「あんたみたいな、四百歳の年寄りに、誰も導いてほしくはないわ。いい加減、自分の存在の無意味さに気づきなさい」

「まだだ、わたしはまだやれるっ」

 アオイの霊体は、静かに、円柱のなかへと入っていった。

 そして、カシンをやさしく、ぐずる子供を母親があやすように抱きしめたのだった。

「もういいの。そうでしょ」

 それでもカシンはあがき続ける。

 アオイは首をまわした。

 あぐりの目を見て言うのだった。

「おねがい、もう終わりにして」

 その声は、数十メートル離れているはずなのに、あぐりの耳元でささやくように聞こえたのだった。

「そんな、でも、アオイさんまでいなくなるなんて、やだよ」

「わがままいわないで。いい加減、成仏させて」

 と言って、アオイはいたずらっぽくほほ笑むのだった。

 まるで、あぐりの母のように。

「うおおおおっっっ!!!!!」

 あぐりは迷いを振り切るように咆哮した。

 紫と小町も同時に咆哮した。

「「「爆裂しろっ!!!!!」」」

「ぐわああああっっっ!!!!!」

 カシンの絶叫とともに、円柱がはじけた。

 衝撃波が広がる。

 光の爆発からは無数の光の粒子が飛び散って、周囲に降り注いだ。

 大地の鳴動がおさまり、光が消えると、そこは虚空であった。

 カシンも、アオイの姿ももうなく、地には気絶した子犬の体。

 ただ静寂だけがあった。

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