二の八
藤林あぐりは、下着にTシャツを着ただけの、自堕落な姿でベッドに寝転がり、スマートフォンをながめていた。
あぐりは、もともと、あまりネットには関わらないほうだった。
つぶやきに対する反応が悪いの、投稿がしばらくないのという単純な理由で、友達をいとも簡単に切り捨てるSNSの世界が、どうも酷薄に感じ、好きになれないでいた。それでも、世間の人たちがネットをやっているからしかたなく、という程度の理由で、SNSのアカウントを作ってはいたし、日に何度かは、ニュースや投稿をチェックしてもいた。ただ自分から積極的にSNSに投稿する、ということは、ほぼない。
紫は、さらに上を行っていて、まったくネットに関心を持たない、というよりネット嫌いといいていいほどで、以前、
「ネットだのSNSだのをやってない人間を、情報弱者だのなんだの小バカにするヤツらがいるけど、ネット以外からでも充分情報は得られるもんだよ。あたしに言わせれば、ネットに依存しているヤツらが情報過多なだけだで、SNSをしていない人間が相対的に情報取得量が低く見えるだけの話だね」
などと、あの紫にしてはもっともなことを言っていた。
――もし、ユカちゃんがチュイッターをやっていたら……。
とあぐりは思う。
今度みたいに仲が悪くなったら、紫も簡単にフォローを切ったりするのだろうか。でも、あの紫のことだ、仲がもとにもどると、なにくわぬ顔で再フォローをしたりするのかもしれない。ありそうだ。
――さっきから、ユカちゃんのことばかりを考えてるな。
とあぐりは思った。スマホの画面に表示される文字を読んでいるつもりでも、実際はながめているだけで、頭には入ってこない。気がつくと紫のことで思考が支配されている。
――まるで恋人と別れたばかりの女子みたいだ。経験ないけど。
思って、あぐりはため息をついた。
部屋のすみでは、子犬のアオイがあたえられたクッションの上でまるまって寝ていたが、あぐりのため息に反応するように頭を起こすと、ふわぁ、とひとつあくびをした。
ふと、あぐりは、左腕のブレスレットが熱を持っていることに気がついた。この感じは、先日学校で紫の行方がわからなくなったときと似たような反応だった。
――まさか、ユカちゃん、またなにか危険なことをしているんじゃ……。
危ないめにあっているんじゃないか、という危惧が、あぐりの心のなかにわきあがってきた。
あぐりは、反射的に立ち上がっていた。そして部屋を飛び出す。
アオイはそれを見送ると、ゆっくりと立ち上がり、ブルブルと体をふるわせて、伸びをした。
玄関のドアがけたたましく開け閉めされる音が、二階のこの部屋まで響いてきた。
そしてすぐに、また玄関が開け閉めされる。部屋にあぐりが飛び込んできた。
――自分がTシャツ一枚しか着ていないことをどうして忘れる?
アオイはちょっとあきれ気味に、あぐりをながめる。
あぐりは、手近にあった学校指定のジャージをあわてて着て、また出ていった。
アオイも、今日は付き合ったほうがよさそうだ、とばかり、少し面倒くさそうに歩き出しながら、思う。
――ちょっと嫌な予感がするわね。
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