第17話 大学入学まで2

数日間同じ現場で作業して手元には3万円以上も残った。

日曜日は仕事がないと聞いていたので、土曜日の夜にクラスでも一番仲の良かった級友を誘って「飲む」ことにした。(卒業したとは言え勿論18歳である)


場所は家族で何回か行ったことのある蕎麦懐石の店だった。

2人で颯爽と入り、蕎麦がきや蕎麦味噌、天婦羅等、通ぶった料理とビール、日本酒を頼む。

大変贅沢な食事である。

片っ端から食べて飲んでではしゃいでおり、中居さんも苦笑いしていたと記憶している。


2時間以上は長居しただろうか、さすがに食べられない飲めないってことで「俺の奢りや」とお会計。

3万円に近かったことは覚えている。

店を出た後タクシー乗って帰宅した時には財布に1,000円くらいしかなかった。

贅沢したなぁとは思ったが、さっきまで財布に入ってた金額を考えるとあれが消えたことのショックは少なからずあった。

が、すぐに「まぁ明日からまた稼げば良いか」という思考に陥り就寝。


翌日からの現場は、新しいところだと言う。

まぁどこも似たようなもんでしょ、とナメていた。

行った先は解体作業現場。

既に鳶職があわただしく作業していた。

指示を仰ぐと「解体した足場を整頓してクレーンの場所まで運ぶこと」であった。

今度は聞いただけで作業内容は理解したので早速取り掛かった。


ところが・・・その解体された足場は1つ1つが3メートルくらいあり肩に担がないと重くて運べない。

50メートルほど担いで定められた所に置くと、上にいた鳶職から「さっさと持ってこい!これからクレーンで上げるんだぞ!」と怒鳴られた。

言われるがままに必死に運んでは置くの繰り返し、10分もたたずに息は激しくなり3月だというのに汗だくになった。

ある程度足場を重ねたところで鳶職が足場を括り、クレーンで上げる。

その様子を眺めているとまた上から

「ボサッと見てないで早く持ってこい!!」


こりゃ大変なところに来たなと思いながら汗だくになりながら運んでは置く。

やっと昼休み・・・ご飯も残すくらいクタクタだ。

13時になると「おーい!やるぞ!早く来い!」

怒声から始まる作業。

もう無駄口を叩く気力もなく何とかその日を終えた。

あれだけ怒鳴ってた鳶職さんだが帰る時には笑顔で

「お疲れさん!また明日からもよろしくな!」

と言われたのは意外だったしこのバイトを始めてから初めて嬉しいと思った言葉であった。


帰りの車の中で、同業していたおじさんが

「もうこの現場は嫌だ。お前もそうだろう?事務所に帰ったら明日からの現場を変えてもらうよう頼むからお前もそうしろ」

と言われた。

確かにきつかったが、鳶職の最後の一言が嬉しかったので明日もあの現場でも良いと思っていたが話を合わせることにした。

確かに身体はバキバキで、帰宅後風呂に入ってすぐベッドに潜った。


翌朝起きると身体が悲鳴をあげていた。

もうあの現場どころか今日は動くことさえ無理だと思って休むことにしたが、そういや面接の時に電話したっきりで事務所の電話番号を残しておかなかった。

かと言って自転車に乗る気力もない。

申し訳ないがそのまま連絡することなく、その日は1日中ベッドで休んでいた。


翌日には幾分回復したのでいつも通り事務所に顔を出すと所長さんがニヤニヤしながら

「こらー!昨日何で来なかった!」

と先制攻撃。

「すいません身体がキツくて・・・」

とゴニョゴニョしてると

「まぁあの現場なら仕方ないかもしれんが今日からまた休まないように頼むぞ」

と言われ、何事もなかったかのように次の現場に回された。


次の現場は、道路を掘り返し電設の補助作業。

どの現場も、我々作業員がやることは簡単かつ単純であるため作業内容の理解には困ることがない。

結局は体力勝負だなと考え始めた。

道路の作業は8時からアスファルトを剥がして作業に入り15時過ぎにはアスファルトを元通りに埋める作業があるので我々作業員の実質労働時間はぎっしりあるわけではなかった。

毎日剥がして埋め立てて面倒だなぁと思いながらも通行止めにするわけにもいかないので当たり前のことであった。


ある日はずっと小雨であった。

そんな中でも道路を掘り電設作業は進められる。

だんだん雨が酷くなってきて、今日はもうおしまいだろうと素人作業員の俺が勝手に決めつけてると、突然水が掘った穴を埋め着くし始めた。

その瞬間、濁水に腰まで浸かり腕を伸ばし手探りで作業を進める電設工事作業員の姿を見て思わず

「うわぁ・・・何でそこまでしてやるのか」と傍観していた。

当時はそのくらいのアルバイトとは言え仕事に対する意識はその程度であったが、泥まみれになりながらも一生懸命作業を進める彼らの姿を見て「これが仕事なんだな」と気付かされた。


またある日は休憩時間に

「おい兄ちゃんこれで皆の飲み物買ってこい」

と、1,000円札を渡された。


近くの自販機に行き、人数分の飲み物を適当に買ってこ腕に抱えてやっとこさ休憩場所に戻ってきた。

すると

「お前は馬鹿か。ヘルメットを入れ物にすればよかろうもん!それに何だ?ポカリスエットとかコーラばっかじゃねえか!コーヒーとかなかったんかい!」

買ってこいと言われて買って来たのに何で文句ばかり言われなければならんのだと思ったが、反論することもできなかった。

しばらくして先輩格の作業員が近付いてきて

「あのなぁ、全員に聞いてこいとは言わないが、大抵の人は缶コーヒーを飲むもんだ。特にタバコを吸う人はな。それにブラックやら微糖やら色々な種類を買ってくればほぼ間違いないから次から気を付けろ」

みたいな指導を受けた。


おつかいもまともにできない烙印を押されたと認識した俺は「これが社会か」と今更ながら気づいた。

それからは作業に対する姿勢も変わったし、「一番下っ端としてどう動くべきか」を考えるようになった。

世間知らずの俺には重労働より堪える毎日だったが、次第に慣れていくにしたがい、色々世間話や冗談話もでにるようになった。


やっと慣れたと思ったらまた現場が変わるようだ。

そのこと(コロコロ現場が変わる)に不満にを持っていたので、やはりまだまだわかってない部分はたくさんあった。

働くって大変だなぁ・・・毎日そう思いながらも、日々貯まっていくお金を見ると疲れも癒された。

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