第13話 高校生6

ぼちぼち推薦入試組の合格発表が始まりつつあった12月。

私立組で2名の合格者が出て、ついに国公立組を残すのみとなった。

特進クラスからは結局誰も附属大学に行かず(行かせてもらえず)、唯一ある有名私大指定校推薦枠には「そんな野望があったんだ」と思ってしまったクラスメートが合格した。

ふーん、俺も他人のことは言えないが推薦って「やったもん勝ち」なんだなぁと・・・


そして公立大組の発表日、誰1人進路指導部に呼ばれることなく下校時間になった。

つまり全滅である。

まぁそんな甘くないよなぁ・・・と他人事のように思ってた記憶があるし、何故か「俺は大丈夫やろ」という変な自信もあった。

推薦入試では俺が最後だった。

通常、合格発表を現地に見に行くわけではないので合格発表日の翌日に進路指導部の先生から合否を知らされることになっていた。

しかし合格発表前日に、普段から滅多に会話がない父親が「明日は仕事休みにしたから大学に合格発表見に行ってくる」と言い出した。


嘘!!?


小さい時から一緒にお出かけすらしたことがなかった。

父兄参観にも一度も顔を出さなかった。

部活動を観に来てくれたこともなかった。

弟は小学生時代に担任から「父親不在ではないか」と言われるくらい我々に父親の面影はなかったのである。

別に忙しいわけではない。

地方公務員(高校事務)であり休みはしっかりあったが、休日は部屋でゴロゴロしてるだけ。

何度も言うが、本当に会話らしい会話がなく、名前で呼ばれることすら年に数回であった。

我々子供のことには全く関心がないと思っていた。


そんな父親が俺の合格発表を見に仕事を休んでまで現地に行くという・・・

合格発表を見て家に着くだいたいの時間を確認して、「その頃に俺が学校から家に電話する!」ということになった。


当時は携帯電話が普及する前でポケベルやPHSが主流であり、校則の厳しい我々が持つことなど不可能であった。

合格発表日は朝から合否結果のことしか頭になかった。

そしてようやく昼休み・・・ご飯も食べずに公衆電話に駆け込む。

コール3回目くらいでガチャッと音がする

「もしもし!」

と次の言葉を言おうとした瞬間

父親から「あった!あった!」

一気に力が抜けた・・・

「ありがとう!ありがとう!」と礼を言って電話を切る。


次の瞬間にはニヤつきが止まらなかったが、教室に戻るまでには平静にならなければならない。

俺は合否をまだ知らないことになっているから。


そうしてその日は珍しく居残りもせずに真っ直ぐ帰宅。

両親に「ありがとうございました。」と改めてお礼を言うとあれだけ反対していた母親ですら「良かったね」と言ってくれた。

しかし一般入試にはこだわりがあるようで

「2月の私大入試を受けるように」

と言明された。

え?もう大学決まったのに?

しかし母親は決めたらテコでも動かない人なので、とりあえずその場はわかったふりをした。


とにかく受験から解放された気分を満喫したいのだ。

その日は何百日ぶりに勉強をしなかった。

翌日冷静でいられるかな・・・と余計なことを考えつつ久しぶりに爆睡することに。

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