第12話 高校生5

3年生になると授業も細分化されることになった。

文系クラスなので国立大志望の生徒にはそのまま数学等の授業が続けられ、必要としない生徒は選択自習という奇妙な光景であった。

自習のない国立大志望の生徒は必然的に教室の前方に机を構えることとなり授業を受ける形となる。


俺が佐賀大学(経済学部)を志望校にしたのは、先にも述べた単なる偏差値目標とは別にセンター試験が国数社英の4教科だったからというのもある。

この時点で自身の将来像は決まったようなものだ。

こんな人生選択をしたことが後々に影響するとは当時は全く考えていなかった。


受験勉強の進捗具合は良かった。

模試でもA~C判定をウロウロするようになり、担任からも「大丈夫だろう」と言われるようになった。

なお、2年生の時から担任は県下五指に入る県立高校を定年退職したばかりでスカウトされた先生だった。

着任当時は「特進クラスということで教えがいがあると思っていたが悪い意味で期待を裏切られた」

と、卒業式の日に教室で親も参列しているのに堂々と言われたのだが。

確かに3人に1人が旧帝に進学するような高校から来られるとそのレベルの低さに驚愕したことだろう。


そんな感じで引き抜かれた先生は他にも少なからず存在した。

あの久留米付設高からスカウトされた先生もいて、この方は後に校長に就任された。


夏に入る頃、ふと通知表を眺めていて思いついた。

この数値なら国立推薦いけるんじゃね?と・・・

学内授業では特進に進んでも主要科目はほぼ5だったし、計算すると評定平均は4.7ほどであった。

すぐに進路指導部に行き「国立推薦が欲しい」旨を伝えると端で聞いてた先生が

「お前な~、国立推薦は評定平均が最低でも4.5は必要だぞ」

とニヤニヤしながら横槍を入れてきた。

生意気盛りだった俺はすかさず

「クリアしてます、さっき計算したら4.7ありました」

と、今で言うところの「ドヤ顔」で答えた。


担任も了承してくれ、推薦入試の手続きに入ってくれた。

数日後、その横槍を入れてきた先生(当時の進路指導部長であり前述した後の校長)から

「お前せっかくなら佐賀大学ではなく九州大学の推薦入試に挑戦してみないか?ダメ元で合格すればラッキーだし、落ちても一般で佐賀大学受験すれば良い。」

と強く勧められた。


しかし不合格の後にモチベーションを維持できるか不安だったこともあり

「安全に佐賀大学で行きます。」

と答えその話は終了した。


ここで後回しにしていた親に推薦入試を選択したことを報告すると・・・

そもそも国立推薦は学内成績が優秀な証拠であるから喜んでくれると思っていたのだが

母親は烈火の如く怒りだし、まさかの往復ビンタを食らい

「アンタは一般入試から逃げたのよ!」

と怒りはおさまらない。


そこで俺はとんでもないことを言いはなった

「大学にも行ったことないくせに!!」

この言葉は母親にとってはショックだったと思う。

我が子に見下されたのだ。

大学に入るまで俺の慢心は続いたが入学式で喜ぶ母親の姿を見てようやく反省するに至った・・・


推薦入試の日程も把握し、受験勉強と平行して小論文対策も開始した。

これは通ってた塾が授業外授業として個人的に指導してくれておおいに助かった。


俺が推薦入試を受けることはすぐにクラス内に広まり、結果、我も我もと推薦入試を望む声が上がり担任の先生は苦労されたそうだ。

さすがに国立大は俺だけだったが、最終的に公立大に5人ほど手続きをすることになった。


当時の佐賀大学は一次試験は書類専攻のみ。

どんなものかもわからなかったが、無事に合格通知な届いた。(入学して知ったのだがこの一次試験で相当数が落ちるとのことだった。)


二次試験は小論文、長文英訳、面接となっており英訳は「辞書持ち込み可」ということで相当な難易度を覚悟した。

ちなみに俺は受験勉強で「過去問」ほど役に立たないものはないと思っていた。

理由は単純で「同じ問題は出ない」から。

まぁ数学や物理化学であれば解法パターンの習得という意味で活用はしていたが。

大学別の傾向なんていつ変わるかわからないのに過去問をやる時間が無駄と思っていた。


そうして挑んだ二次試験

小論文も英訳もそれなりに手応えはあった。

面接では志望動機や高校生活についての雑談のあと、質問らしい質問は「最近読んだ本」であった。

当時は野口悠紀雄の「超勉強法」にハマっておりその話をしたことを覚えている。

ちなみに定期試験にも活用した内容を1つ紹介すると

著者は英語の試験対策についてやることは1つ

試験範囲の英文(和訳)を全て暗記すること

であった。

これは実に単純でやりやすかった。

同じ勉強中は古文で活用した。

さすがに古文体を覚えるのは避けたが、試験範囲の出典古文についてその現代語訳本を購入し、物語の内容を暗記するやり方である。

勿論予習にも活用したのでお金はかかったが、勉強は楽になり、本を何度も読み返すことで他の模試では読んだことのある出典から出題されたりしたので「広く浅く」様々な現代語訳を買い求め読みふけった。


詰まることもなく面接も終わりようやく一段落。

合格発表は12月過ぎ・・・

この頃には少し受験勉強の手を緩めがちになっていた。

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