7-10
ジェーンが殺された三日後、ジャガー警部がアルバン監獄まで俺を訪ねてきてくれた。
「しばらくぶりだね。少しだけ確認したいことがあってきたのだけれど、時間はいいかな?」
「もちろんです。私も警部にお聞きしたいことがありました」
あの晩、ジェーンが殺された理由は、ルイスの家に押し込んできた三人組を尋問して判明している。
ジェーンは2万ギールというお金とは別に、エッセル夫人から指輪を盗んでいた。
彼女がどういうつもりでその指輪を盗んだかは今となってはわからない。
だが、その指輪が悲劇を呼ぶこととなった。
三人組は指輪を奪還するように依頼されていたそうだ。
依頼主の素性はわからなかったが、身なりの言い紳士だったという証言を得ている。
「おそらくロッセル男爵の関係者だろうな。調べたところあの指輪の持ち主はロッセル男爵の長男、ヘンリー氏の持ち物と判明したよ」
問題はヘンリーの指輪をどうしてエッセル夫人が持っていたかだ。
「不倫ですか?」
「うん。業界団体によるパーティーで知り合ったそうだ。口説いたのはヘンリーの方かららしい」
そして愛の証として自分の指輪をエッセル夫人に預けたわけか。
「ただ、ヘンリー氏はエンブラ侯爵の御息女とご婚約が決まっていましたね」
「その話は白紙に戻されたそうだ。フォスター男爵が議会でロッセル男爵を糾弾したらしいじゃないか。長男が人妻と不倫をしているとは何事か、それに伴う怪しい殺人事件まで起こっていると」
「そうですか」
「フォスター男爵とロッセル男爵は政敵同士だから、かなり激しいやり取りがあったようだ。ところで」
「なんでしょうか?」
「フォスター男爵は君の叔父上にあたるそうだね」
「一応は」
証拠の指輪を従兄叔父であるフォスター男爵に渡したのは俺だ。
「それにしても警部、どうして証拠の指輪を俺に預けてくださったのですか?」
「うん? まあ、警察では貴族に手が出せないからね。君に考えがあるようだったから任せただけだ」
フォスター男爵を利用してささやかな意趣返しはできたけど、ジェーン殺しの主犯であるヘンリーが刑罰を受けるわけじゃない。
せいぜい不名誉な噂をばらまかれ、有望な婚姻が潰れただけの話だ。
これからもヘンリーはのうのうと生きていくのだろう。
まったくもって小さな復讐劇で自己満足にもなりはしない。
「ウルフ君、くれぐれも変な気は起こさないようにな」
ジャガー警部が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「殴り込みなんて考えていませんよ」
ただ、ちょっぴりお節介な妖精さんがロッセル男爵家の不正の証拠をせっせと集めているだけだ。
身体強化魔法は妖精にも有効で、高速飛行やパワーアップに役立っている。
俺は布を使ってマジックスクロールを作成し、キンバリーはそれをマントとして羽織ることによって持ち運びを可能にしていた。
「ふははは、妖精王になった気分だよ」
いささか調子に乗りすぎているところが不安ではあるが……。
奴らは北方開発費に手を付けているようなので、遠からず罪が明らかになるだろう。
ライバルに情報をリークすれば横領に被せて国家反逆罪とかがでっち上げられるかもしれないな。
奴らが縛り首になったところでジェーンは生き返らないけど。
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