7-2
ファイルを確認すると、ジェーンにかけられた容疑は窃盗だった。
訴え出たのは雇い主のエッセル氏で、書斎に置いておいた手提げ金庫から2万ギールが盗まれたとある。
金庫の中には17万ギールもの金が入っていたのだが、盗まれたのは2万ギールだけだった。
夕方に帳簿と金庫の中身を付き合わせた時に盗難が発覚したそうだ。
通報を受けた警察が調査を行い、ジェーンのポケットから2万ギールという金が見つかって逮捕に至ったようだ。
しかし、ジェーンを知っている俺にはどうにも信じ難い話だ。
監獄のファイルだけでは詳しいことはわからないので、ジャガー警部にお願いして、警察の資料を見せてもらうことにした。
「調書を見る限り、ジェーンは容疑を認めていないのですね」
「何者かが自分のポケットに、勝手に金をいれたと主張しているようだ。状況としては容疑者が非常に不利だとしか言えないが」
エッセル家は商家だが、店と自宅は別である。
自宅の使用人はジェーンだけで他に人の出入りもなく、そのことが状況をさらに深刻にしていた。
「こう言ってはなんですが、エッセル氏か夫人がジェーンの鞄に金をいれたとは考えられませんか?」
「なんのために?」
「それは……ジェーンを追い出すためとか……」
「たかだかメイドを追い出すために、窃盗の罪を着せるとは考えにくいな。必要がないなら暇を出せばいいだけの話だと思うが」
そう言われてみれば、ぐうの音もでない。
「だけど、金を盗んで鞄に入れておきますかね? 疑われるのはわかりきっているでしょう」
「衝動的に盗ってしまうことはよくあることなのだよ。後で返そうと思ったが、書斎にエッセル氏がいて返せなかったのかもしれない」
口ぶりから判断するに、警部はジェーンが犯人だと考えているようだ。
「盗まれたのは金だけですか?」
「届が出されているのは現金だけだね」
ロンディアン市警にまで出向いてわかったことが二つあった。
一つ目はジェーンが有罪で実刑判決を受けそうなこと。
もう一つは自分が無力であるということだった。
「気を落とすなよ、バートン」
警察署を出たところで透明になっていたキンバリーが半透明になって慰めてくれた。
昼間だと妖精は透明になることができるのだ。
「そうは言っても、やっぱりもどかしい気分だよ」
看守の仕事があるから警察の真似事をして、事件の真相を探ってやる暇もない。
俺にできることといえば、監獄の中でジェーンが虐待を受けないように目を配ってやることくらいのものだ。
「やっぱりジェーンが犯人なのかな? そんなことする娘じゃないと思うんだけど」
「こうなったら探偵にでも依頼してみるか?」
警察とは別に、探偵という職業に就いている人たちがロンディアン市には何人かいる。
科学というものを重視していて、非常に論理的な調査をするそうだ。
だが、依頼料は破格と聞いているから、俺の持ち金ではとても足りないだろう。
「いい案だと思うけど問題が二つある」
「なんだ?」
「まず、探偵がどこにいるか知らない」
「そんなもん、バーとかにいるんじゃないか?」
それはキンバリーの勝手な妄想だ。
「二つ目の問題として金がない」
小耳にはさんだところでは最低でも50万ギールはかかるらしい。
貧乏看守に捻出できるお金じゃなかった。
「金なんてマジックスクロールを売れば作れるんじゃないか?」
「そうかもしれないけど、誰に売る? それに時間が無さすぎなんだよ」
ジェーンの裁判は三日後だ。
探偵に依頼できたとして、それまでに真犯人がわかるのだろうか?
「しょうがねえなぁ、オイラがとっておきの探偵を紹介してやるか」
「えっ? キンバリーに探偵の知り合いなんているの?」
「そうじゃねえ。バートンの目の前にいるのが最高の探偵だ」
俺の目の前にいるのは半透明で、後ろの景色が透けて見える妖精だけだ。
「もしかして自分が探偵だっていいたいの?」
キンバリーは偉そうに胸をのけぞらせて頷いた。
探偵って科学捜査をするもんだよな?
妖精と科学?
似合わなさすぎる……。
「科学捜査って知ってる?」
「科学捜査? 美味いのかそれ?」
ダメだと思う。
「安心しろって。オイラがエッセルの家に忍び込んで、いろいろ探ってきてやるから」
それならまかせられそうだけど、探偵というよりは泥棒とか密偵に近い物があると思う。
「見つからないように気をつけろよ。捕まってどこぞに売り飛ばされたら助けてやれないぞ」
「大丈夫だって。この名探偵にまかせなさい!」
一抹の不安を覚えながらも、キンバリーをエッセル氏の家まで送り届けた。
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