6-5
脂汗を流しながら警棒を掴むケッチの息遣いが近い。
吐き気を催すような口臭だ。
これもこいつの技の一つなのだろうか?
ケッチは俺が突き付けた警棒をどかそうと躍起になっている。
自分の拠り所としているパワーで負けることが許せないのかな?
よくわからないが、注意が警棒にいっているようなので、無言のままケッチの股間を蹴り上げた。
「ッ!! ……」
声も出せずにうずくまるケッチ。
そのまま利き腕を取り、骨を折った。
嫌な感触がしたけど心を鬼にして脚の骨も折っておく。
そうやってケッチの心を折っておきたかった。
そうじゃないと、いつ暗がりに引き込まれてレイプされるかわかったもんじゃない。
ケッチの手下にも、俺が尻を守るためなら何でもする恐ろしい男だと印象付けておきたかった。
ぐったりと項垂れているケッチの頭を、髪の毛を掴んで起こした。
まだ反抗的な目をしていたら次は指の骨をいこうと思ったのだが、泡を吹いて気絶しているようだ。
最初の股間キックで意識を失っていたのかもしれない。
もしかしたらタマが潰れてしまったか……。
ここまでやっておけば大丈夫だろう。
ケッチにだって敵は多い。
俺が止めを刺さなくても、弱ったケッチが粛清される可能性は十分にあるのだ。
勢力が縮小することだけは間違いない。
精力の方は……枯渇かな?
どうしようもないときは火炎魔法でアソコを火傷させてやろうと思ったけど、それはしないで済んだようだ。
なんにせよ人を痛めつけるのは嫌な気分だ。
こんなところにはこれ以上いたくない。
うまい具合にそろそろ勇者様の夕飯をお持ちする時間だ。
清廉な勇者様を眺めて、荒んだ心を少しでも癒さないといけないな。
「328番、懲罰房だ。いいよな、マシュー?」
「あ、ああ……」
同僚の了解も取ったから問題ないだろう。
ペレットは手に持っていた石を素直にこちらに渡してきた。
「しばらく懲罰房だ。我慢しろよ」
「はい……ありがとうございました」
ピーターと一緒にペレットを独房まで送っていった。
♢
囚人たちは誰一人声を上げられなかった。
細身で優男のバートンがケッチを叩きのめすとは予想だにしていなかったのだ。
「だ、誰だあれ?」
「看守のウルフだ」
「ウルフ? 名前の通り狼みてえな奴だな」
「ああ。まるで監獄の狼だ……」
誰が言い出したかは定かではない。
ただ、その日の夕方から、バートン・ウルフは監獄狼(かんごくウルフ)とあだ名されるようになった。
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