6-3
工事は特に問題も起きずに進んだ。
看守たちは少し離れた場所に立って、焚き火を囲みながら囚人たちの作業を見守っている。
俺も火のそばで受け持ちの囚人たちに目を配っていた。
「ウルフ様? ウルフ様ではないですか!」
不意に自分の名前を呼ばれた。
みると、メイド姿の若い女が俺を見つめている。
「あ、ジェーンじゃないか。久しぶりだね」
ジェーンはサリバンズ家のメイドをしていたかつての同僚だ。
同僚ではあったのだけど、私生児とはいえ伯爵の息子だった俺を様付けで呼んでいた。
執事長以外はみんなそうだったから、ジェーン一人を責めるわけにはいかないけど、そのせいで使用人の間にも家族の中にも自分の居場所を見つけられなくて苦しんだこともあった。
ジェーンだって悪気があったわけじゃない。
いろいろと難しい立場だったってだけの話だ。
彼女は陰日向なくよく働く真面目な性格で、俺も信頼を寄せていた。
「ウルフ様は、お役人になられたのですか?」
看守の制服は、ジェーンの目には意外に映ったようだ。
「柄にもなくアルバン監獄の看守だよ。ジェーンの方はどうだい?」
「私はエッセルという商家でメイドの口を見つけました」
「それはよかった。ジェーンは働き者だからエッセルという家もきっと君を雇ってよかったと思うはずだよ」
そう言うと、ジェーンは初々しく頬を染めて伏し目がちになってしまった。
サリバンズ家は突然の取り潰しにあったから再就職には苦労しただろう。
俺たちは互いの生活がなんとか切り開けたことを素直に喜び合った。
「他の人のことは何か聞いている?」
「ルイスが実家で暮らしていることは知っています」
ルイスも一緒にメイドをしていた気のいい同僚だ。
ジェーンよりもちょっとだけお転婆だったイメージかな。
年齢も近くて仲が良かった二人は、今でも連絡を取り合っているそうだ。
「何か困ったことがあったら相談してくれ。力になれるかはわからないけどね」
「ありがとうございます。とりあえずはなんとか生きていけそうです」
物乞いや娼婦に身を落とす者は多い。
俺もジェーンも今のところは、人生の落とし穴をなんとか避けて歩けているようだった。
外での監督業務もつつがなく終わり、旧知のジェーンにも会えて、いい気分でアルバン監獄に帰ってきた。
空き地に咲いていたリンドウの花を摘んで勇者様へのお土産もゲットできている。
このまま気分よく一日が終わればいいのだが、そうはいかないところがアルバンの悲しいところだ。
囚人たちを繋いでいた鎖を解いて、それぞれの監房に入れていると、奥の方から人の争う声が聞こえてきた。
「もううんざりだっ! お前と同じ房に戻るくらいなら死んだ方がマシなんだよ!」
怯えを孕んだ叫び声が廊下に響いている。
どうやら囚人同士のいざこざが勃発したようだ。
ざわつく囚人たちを無理やり房へ押し込めて、トラブルの現場へと向かった。
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