6-2
仕事も終わり、俺は自室で新しいマジックスクロールを作成していた。
そんな俺の横でパンの欠片を頬張りながら、キンバリーはプリプリと怒っている。
「というわけなんだよ。クソッタレな世の中だと思っていたけど、トップの王族からしてクソッタレなんだから、当然と言えば当然だわな!」
「おい、もう少し声を小さくしろって」
王族の悪口を他人に聞かれたらとんでもないことになってしまう。
「おっ、なんだ? おい、バートン。これだけ聞いてもフユさんを助けてやろうって気にはならないのか? 偉い看守様になったら随分と冷たい人間になっちまったじゃないか!」
「六等官はちっとも偉くないよ」
むしろ下層の役人だ。
「そういうことを言ってるんじゃない。オイラはバートンの態度を言ってるんだ」
俺だって王族には腹も立つし、勇者様の境遇には同情するよ。
むしろ憤慨していると言ってもいいくらいだ。
だけど、俺に何ができるというのだ。
勇者様を助けるということは、国を相手に犯罪者になるということだ。
俺にそこまでの覚悟はない。
キンバリーが閉じ込められていた籠の留め金を外すのとはわけが違う。
それにしても四年前の王太子急死事件の裏に勇者様が絡んでいたとは驚きだった。
公式発表では、王太子は病死ということになっている。
「バートン、聞いているのか?」
キンバリーは俺の周りをパタパタ飛びながら文句を言い続けていた。
うるさくてマジックスクロールにちっとも集中できない。
「わかった。それじゃあ、脱獄計画をキンバリーが立ててみてくれ。妖精界のオーソリティーであるキンバリーならきっと完璧な計画を立てられるはずだ。任せたぞ」
「……お、おう! オイラに任せておけ。100年後の世にも語り継がれるような、とんでもない脱出計画を考えてやるよ!」
やれやれ、ようやくこれで静かになったな。
やっとマジックスクロールを書けそうだと思った。
ところが、気がつくとペンを持つ手は止まり、どうやったら勇者様を外へ連れ出せるかの思案を巡らす自分がいた。
まったく、我ながら何を考えているんだろうな……。
明け方、何かが顎のところでモゾモゾすると思ったら、毛布の中にキンバリーが入り込んでいた。
昨晩は勇者様脱獄計画を考えながら眠ってしまったようだ。
秋も終わりに近づき、紅葉した街路樹の葉が道に落ちる季節だ。
今朝はこの秋一番の寒さかもしれない。
今日は道の舗装作業を監督しなくてはならない日だけど、こう寒いとコートが必要になるだろう。
朝食を済ませると、20人の囚人を鎖で一繋ぎにして荷馬車へと乗せた。
ロンディアン市のイーストエンドまで行き、そこの道の舗装作業をさせるのだ。
枯れた雑草を抜き、邪魔な石を取り除き、タコと呼ばれる土を固める木槌を使って石畳の土台を作っていく予定である。
固められた土の上に石を張っていくのは専門の業者で、囚人はその前段階をまかされていた。
作業が円滑に進むよう、囚人が逃げ出さないようにと、外での作業は何かと気を使うから嫌いだ。
俺とピーターだけで20人を監督しなければならないので、いつもより気苦労が多い。
だけど囚人にとっては辛い労働でも監獄の中よりはいいという者も結構いて、皆の顔は少しだけ明るい。
所長も作業業者からリベートを貰えるので、積極的にこの事業に参加していた。
監獄の門が開くと囚人を乗せた5台の荷馬車が出発した。
100人以上の囚人が一斉に出てきたので、往来の人々はパレードでも見物するように荷馬車を見ている。
一方で囚人の方も知り合いでもいたら手でも振ってやろうと、目を皿のようにして沿道の人々を眺めまわしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます