5-10
ジャガー警部はビンクスが家にいるかどうか様子をみてくれと頼んできた。
「ウルフ君は普通にポーの家に行き、任務を果たしてくれればいい。ただその際に、ポーの奥さんに隣人が在宅かどうかを確かめてくれないか?」
それくらいなら危険はなさそうなので承知した。
既に通りのあちらこちらでは私服の警官たちが待機しているようだ。
曇りだったので太陽の位置はわからなかったけど、陽が落ちるまでにはまだ1刻(1時間くらい)くらいはあるだろう。
ドアをノックすると大柄な四十絡みの女が出てきた。
ポーは自分の奥さんを「オークの体にイノシシの頭を乗っけたような女」なんて評していたが、その表現は言い過ぎで、太めだけど、どこにでもいそうな普通の奥さんだった。
自分がアルバン監獄から来たと告げると、途端に夫の無実を訴え始め、「あの人は何も悪いことはしていないんです」などとクドクドと弁明しだした。
よくあることなのだが、看守にそんなことを言われても量刑にはなんの影響もない。
するのなら警察か判事にしてもらいたいところだが、彼女たちにとっては全員が同じに見えるようだ。
そういえばポーの受け入れをした時は、ポー自身が看守相手に同じことを訴えていたものだ。
きっと、似たもの夫婦なのだろう。
「奥さんの考えはわかりました。ご亭主の裁判は四日後ですから、そのときに判事さんに今言ったことを訴えるといいと思いますよ」
優しく諭して本題に入りたかったのだが、この奥さんは人の話を聞かないタイプだった。
「でもね、本当にウチの人はパンを売っていただけなんです。それも飛び切り上等のパンですよ。小麦粉だっていいものを使っていたんですから」
いい加減ウンザリした気持ちになりかけていたのだが、不意に隣のドアが開き、痩せて青白い、骸骨みたいな男が出てきた。
手には大きな包みを抱えている。
俺の顔を見て一瞬だけギョッとしていたが、すぐに背を向けて足早に立ち去っていった。
多分あれがビンクスに違いない。
警察はビンクスの顔を知らないのだが大丈夫だろうかと心配になった。
すぐに後を追ってジャガー警部にアレがビンクスだと伝えるべきではないだろうか?
「奥さん、今のは隣に住んでいるビンクスさんですか?」
「えっ? ええ、そうですよ。ちょっと気持ちの悪い人なんですけど、薬屋さんなんですって。どこの薬局に勤めているかなんて知らないですけどね。だいたいお隣さんといってもあの人は――」
「ちょっと失礼します」
なおもしゃべり続けている奥さんを置いて、俺はビンクスの後を追った。
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