第13話 ツフロ開拓地 5
とりあえず、支部長ビードルからこの街で生活するには困らない分の金を貰い、一つしかない宿屋に来た。ちなみにアランが案内してくれたが、到着まで逃げた事を謝ってきた。曰く、
「常に人の思考を読んでそうで苦手なんだ」
らしい。
ここにきた時よりは住民達は落ち着いたようで、囲まれることは無くなった。
宿屋、『ツフロの眉毛』は普段は料理屋を営んでいるが、他の町からの要人が来た時には宿屋との兼業となるらしい。名前どうした。
旅で疲れた俺は火の湿地の主討伐隊が来るまでゆっくりしていたい。
「7日で、三食付けてくれ」
「ほいよ、これが鍵だ。二階の一番奥にある5番の部屋だ。7日で三食...1400フレンだ。ファイアサラマンダー分の食事もつけるかい?」
「いや、それは遠慮しておくよ」
カウンターに赤い硬貨を2枚置く。
「これで足りるか?」
「あぁ。ほら、釣りだ」
店主が銀の硬貨を6枚滑らせてきた。
俺は奥の階段を登り二階へ行き、奥の部屋へと入る。大きく5(地球の数字ではないが)と書かれたドアを開け、リュックを下ろす。通りに面した窓の横にベッドがあり、テーブルと椅子が置いてある。俺は近くの椅子を引いて腰掛け、ふぅぅぅぅぅー、と大きなため息をついた。
ずっと危なかった。ファイアサラマンダーを懐かせられたこと、飲料水が底をつきる前にツフロを見つけたこと、火の湿地の主に会わなかったこと、この世界の人間に襲われなかったのも全て運だった。
いずれかが一つでも違えば、俺は呆気なく死んでいただろう。これからはしっかり計画を立てて行動しなければいけない。
主の討伐隊に、他の都の事を聞いてみよう。それに魔法を見てみたい。ビードルが使い方を教えると言っていたが、自分に素質があるかは分からない。主の討伐隊というくらいなのだから魔法を使える人は居るだろう。
その後は王都へ向かおう。と、いうかこの国の名前すら知らなかったな。明日ビードルに色々聞いてみよう。
今日はこの国の通貨制度の確認だな。さっきの支払いで1400フレンに対して赤い硬貨(紅貨と呼ぼうか)を2枚払い、銀貨6枚が返ってきた。もし紅貨1枚が1000フレンの場合、銀貨1枚は100フレンか?そう考えていいだろう。もしかしたら違うかもしれないので、さらに金を使う為に風呂屋にでも行こうか。
店主に場所を聞き、風呂屋へと向かう。途中で出会ったダン、ピーター、アランと共に服を買いに行った。せっかく風呂に入っても着る服が汚かったら意味ないもんな。買ったのは麻のTシャツ、短パンと下着などだ。合計1000フレンだったので紅貨1枚を出したら釣りは無かった。俺の予想は当たっていた。
風呂は一人70フレンで、銀貨を1枚出したら銅貨が3枚返ってきた。よし、銅貨1枚で10フレンだな。
風呂屋といっても仕切りのあるシャワールームが並んでいるだけで、浴槽は無かった。
そして、そのシャワーが曲者だったのだ。
魔道具だった。隣のダンを覗いてみたが、飛び出た突起を掴み、気持ち良さそうにシャワーを浴びている。
俺も試してみよう。突起を掴む。何も起きない。
「ダン、ちょっと助けてくれ。湯が出ないんだ」
「ん?こっから注入するんだぞ」
「魔力って...どうやって流すんだ?」
「まさかお前...魔力が使えないのか?そんなことありえないぞ?」
「全くわからん。とりあえず今はシャワーを浴びさせてくれ」
「おう、多めに流しとくからな」
「ありがとうな」
やべぇ。異世界人の自分が魔法を使える訳ないじゃん...
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