第12話 ツフロ開拓地 4
「ふん、君が件の不審者か」
「いや不審者じゃ...まぁ、そう思われても仕方ないか」
そう言って応接室に入ってきたのはひょろりとした体格で頬の痩せこけた男だった。
彼が支部長だろう。
「ニホンという国は聞いたこともないし、君の生年月日は大昔だ。頭は大丈夫か?」
門を潜ったら異世界に飛ばされた、なんて頭がおかしい事にはなってしまったが、既に嫌という程これが現実だと思い知らされている。
「ちなみに、ニホンとは何処にあるのだ?」
「あぁ...東をさらに東に行って、もっともっと東へ。つまり極東さ」
「ふむ、それなら君は華の国を通ったわけだ。通れたという事は...悔しいが君を信じるしかないな。信じたくはないのだが」
「ははっ、華の国様々だな。一体どんなところなんだよ」
「おかしいな?君は通ってきたはずだろう?」
あっ。
「ま、その黒髪黒目が一番の証明になるな。ギルドの登録は完了してやろう」
そういうと支部長は用紙にサラサラとサインをし、俺の登録は無事に終了した。
ちなみに、文字は全く見たことがないものだったが読めるし書ける。これ夢なんじゃないのか?
「で、華の国の者がこんな辺境の街へ何をしに来たんだ?」
「ああ、そうだった。見て欲しいものがあるんだ」
俺はマッチ箱を取り出した。
「今からお見せするのは魔法でも魔道具でもなんでもない、ただの木の棒と箱です」
仰々しく喋って興味を引きつける。
「さぁ、箱から棒を取り出しました。そしてこの棒の先っぽが赤くなってますよね?反対側を摘んで赤い部分を箱に当てて...引きますっ!」
シュボッ!という音とともに炎が生まれた。
「なっ!」
「ふふ、驚いたでしょう?これはマッチと言って魔力を一切使わないで火を起こす道具です」
「魔方陣も詠唱もない。どれ、貸してくれ...どうやら魔力も流れない。本当にただの棒と箱のようだ。一体どうなっているんだ?」
「それは自分で解明してみたらどうだい?一箱売ってあげるからさ」
「これを売ってくれるのか!この技術は世界を変えるぞ...いや、華の国ではもう使われているのか。しかし、こんな凄いものを売ってしまっていいのか?」
支部長は目を大きく開き息を荒げ、興奮している。魔法主体の世界で、魔法を使わずに一瞬で火を起こす技術を目の当たりにしたのだから当然か。
「ああ、高くはなるがな。それとついでに魔法の使い方を教えてくれ」
「いくらでも払おう。魔法の使い方も教えよう。挨拶が遅れたが、私は支部長のビードルだ。これから宜しくな、タキジ」
「ふふ、こちらこそよろしく頼むよ」
そう言って俺たちは握手をした。
不審者から一転、科学技術のお陰で金と魔法が手に入る。
ピンチを切り抜けたぞ!
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