第5話 ファイアサラマンダー(後編)

そして。

遂にファイアサラマンダーが大人しくなった。そいつを脇に抱え、テントまで戻る。


既に大人しくはなっているが、まだ不安だ。

そこで、餌付けをしてみる。さっきはダメだったが、今なら行けると思う。



丘の地面にファイアサラマンダーを下ろし、じっと見つめてみる。

コイツにはそこそこの知能があるが、それはどこまでのものなのか。

ザリガニを目の前に差し出してみる。


チラ、と見ただけで動こうともしない。


口の前に置いてみる。

そして少し後退し、距離をとる。逃げても追いつかれることは分かっていそうだ。


すると、こちらを警戒しながら最低限の動きで、ザリガニを食べた。

良し。



それから俺は、取ってきた餌全てを使い、なんとか餌付けに成功したのだった。






「いけっ!」


ブオォゥウウ!


俺が指差した方向に火炎が飛ぶ。


ファイアサラマンダーを餌付けしてから数日、俺のやっていることの意味がわかってきたらしく、指定した向きに火を吹けるようになった。

しかし、まだその眼には俺に対する疑いの情が現れている気がする。

周囲を散策するときについて来させてはいるが、ずっと後ろを歩いているくらいだからな。

そもそも群れていなかったわけだし、完全に連携するには難しいのかもしれない。


やはり、爬虫類とは思えないほどの頭脳だ。




コイツのお陰で食料問題はほぼ解決した。

俺が捕まえた魚やらを焼かせているし、コイツの餌はたまに小さいサンショウウオや虫を自分で見つけてクチャクチャしているし、助かっている。


しかし、新たな問題に気がついてしまった。


水だ。


ファイアサラマンダーの火はずっと出せるものではなくて、瞬間的にしか出せないようだ。

よって、水を沸騰させることができない。

そろそろペットボトルの水も尽きかけてきたし、何よりここには木すら生えていないので、そろそろ人里を探さなくてはいけないかもしれない。

人がいればの話だが。


湿地なんだから水なんていくらでもあるじゃんと思うかもしれないが、たまったもんじゃない。

生水だ。清潔にし過ぎている現代人が飲んだら、一発でアウトだろう。

死にはしないが、腹痛でのたうち回ることだろう。


ペットボトルの水がなくなれば飲むしかないが、ここら辺の水は飲みたくない。

その理由は、自分が作ってしまった。


この世界に来てからもうすぐ一週間が過ぎる。


一週間の間トイレを我慢できる人間がいるだろうか、いや、いない。(反語)


トイレなんてないんだが、まぁ、つまり、そこら辺でするしかなかった。



実は、大の方は意外と上手くいった。そこら辺に生えている草が、ちょうど良いかたさで、集めて丸めればちょっと硬いくらいのトイレットペーパーになった。


小の方は...

満点の星空の下でやる立ちションは、最高だった...



話を戻そう。

つまりそんなこんなでここから動かないといけないわけだ。


だがどちらの向きに行けば人がいるのか。そんなものはわからない。


よって、神頼みだ。


丘の上にペットボトルを逆さに立て、倒れた方向に進むことにしよう。


今日はもう暗くなってきたから、主発への準備をして寝よう。











ファイアサラマンダー


黒い下地に赤い斑点が乗った警戒色を持つ爬虫類。全長は成体で50~40cm。

動きは遅く小さいため、蛇のような素早さ、ワニのような力強さはないが、特筆すべきは炎を吐き、知能も高いことだ。

そのおかげで生息地域では食物連鎖の頂点にいる。

群れずに縄張りを持ち、繁殖は2年に一度なので個体数は少ない。

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